「KDDI∞Labo」を通して感じた大企業とスタートアップの関係--Google、住友不動産、大日本印刷

山田井ユウキ2016年03月17日 18時33分

 グローバルに通用するビジネスを生み出そうとするスタートアップ企業を支援するため、KDDIが2011年から主宰するインキュベーションプログラム「KDDI ∞ Labo」。その第9期生によるプレゼンテーションイベント「DEMO DAY」が2月22日に開催され、6社が登壇してプレゼンテーションした。そして、3月22日まで第10期のプログラム参加者を募集している。

 KDDI ∞ Laboの最大の特徴は、このプログラムの主旨に賛同する30社ものパートナー企業から支援を受けられることだ。KDDIはもちろん、Googleや、凸版印刷、日本マイクロソフトといった企業の担当者がメンターとして参加者にノウハウを提供。さらに定期的に開催されるイベントやミーティングを通して、日本テレビや大日本印刷、住友不動産といった企業が強力にバックアップしてくれるのだ。第9期生は彼らからどんなアドバイスやノウハウを受けて、プロダクトを開発していったのだろう。「KDDI ∞ Labo」第9期、その舞台裏を取材した第2弾だ。

 今回お話を伺ったのは、KDDI ∞ Laboでメンターを務めたGoogleのビジネスマーケティング統括部長・横川大輔氏、同じくGoogleのマーケティングマネージャー・佐川 大介氏、住友不動産のビル営業部部長代理・井上英賢氏、大日本印刷のC&I事業部ビジネスイノベーション本部USプラットフォーム開発プロジェクトチーム室長・モタイ五郎氏。それぞれ異なる業界から参加した3社は、今回のKDDI ∞ Labo第9期生と彼らが生み出したプロダクトをどう見たのか。

--皆さんが今回メンターとして参加されたのは、どういったきっかけがあったのでしょう。

住友不動産のビル営業部部長代理・井上英賢氏 住友不動産のビル営業部部長代理・井上英賢氏
Googleのビジネスマーケティング統括部長・横川大輔氏 Googleのビジネスマーケティング統括部長・横川大輔氏

井上(住友不動産):私は過去に新規事業部にいた経験があり、セミナーやイベントでベンチャー企業と関わることが多かったんです。「SHINJUKU SUMMIT(新宿サミット)」というイベントも定期的に主催しています。これは企業規模を問わず100名前後の方をご招待して、新宿住友ビルでプレゼンやパネルディスカッションする企業交流会です。

モタイ(大日本印刷):KDDI ∞ Labo自体には2014年から関わっていました。印刷業はレガシーな産業なので、事業構造を変える必要があると感じています。大量製造のモデルがもう通用しなくなっているんです。新しいものを取り入れるためにベンチャー企業と一緒にやってみようと考えたのです。私自身、研究所にいた頃は海外のベンチャーとつきあいがあり、MITメディアラボなどでご一緒する機会もありました。

横川(Google):Googleも以前からスタートアップ企業のビジネスは支援させていただいていました。でも、そのメッセージが伝わりきっていないと感じていたんです。Googleのイメージってふわっとしていると思うんです。実はいろいろなプロダクトがあるけれど、あまり知られていない。スタートアップを支援しているというメッセージを伝える意味も込めて今回参加しました。もっとも、Googleも自分たちは永遠のスタートアップだと思っていますが。

--皆さんメンターの前から積極的にスタートアップに関わっていたのですね。

井上(住友不動産):とはいえ、メンターになって最初はわからないことが多かったですね。KDDIさんを含めいろいろ相談しながら始めました。

--メンターとしては具体的にどんな活動を?

井上(住友不動産):週1で進捗の報告会をして、週1で打ち合わせをしていました。どんなプロダクトを作りたいかヒアリングして、方向性を定め、どうすればいいか知識のある人に聞きに行くという流れです。だいたい3カ月くらいついていましたね。打ち合わせ1カ月、ヒアリング1カ月、タッチ&トライ1カ月。

モタイ(大日本印刷):けっこうな時間を使って打ち合わせをしました。それ以外でもチャットワークをKDDIさんにご用意いただいてやりとりをしたり。通常の業務以外の活動でしたから負荷にならなかったといえば嘘になります。時間もかかるし、毎週こないといけないし。でも得るものは大きかったですね。

佐川(Google):同じですね。週1でフェイス・トゥ・フェイスの打ち合わせをしつつ、絶えずやりとりしてサポートしていきました。杓子定規に何時間だけとかではなく、きちんとコミットしました。

--Googleですと、仕事の時間の20%を好きなプロジェクトに使っていいといういわゆる20%ルールに基づいた活動だったのですか。

Googleのマーケティングマネージャー・佐川 大介氏 Googleのマーケティングマネージャー・佐川 大介氏

佐川(Google):そういうわけではないのですが、たしかに売上にはなりません。でも日本でイノベーションが起きて盛り上がると嬉しいですから。ロングタームで自分たちのビジネスにも好影響があればいいなと。そもそもGoogleは売上がどうこう言わないんですよ。世界中の情報を整理することが理念なので、まず世の中へのインパクトが出せているかが重要なんです。常に新しいことをやっていく上でスタートアップ支援は重要なミッションです。

--メンターの経験で得たものは何でしょう。

モタイ(大日本印刷):スタートアップ企業との関わり方ですね。他のチームも見ながらやっていたので、メンタリングのやり方などが具体的にわかってきた気がします。コミュニケーションをとりやすいメンバーだったので楽しかったです。

井上(住友不動産):いろいろな企業と交流を持てたことはよかったですね。メンバーもがんばったと思います。3カ月でゼロからよくここまできたなと。各企業の方と、別れ際に「おつかれさま」といえる関係になれたのは、今回得た大きな財産です。

佐川(Google):こうして関わることで知見がたまっていきますよね。

--とはいえ苦労されたことも多かったのでは。

佐川(Google):週1のプレゼンが怖かったですね(笑)。皆さん、真剣にこのビジネスを伸ばすためにどうすればいいかを考えて意見してくださるので。

井上(住友不動産):通常業務もやりながらなので、そこは少々つらかったですが(笑)。

モタイ(大日本印刷):やはり時間的なところですね。

--大企業とベンチャーはそれぞれ得手不得手があると思います。お互いの長所を生かしてコラボしていくべきという風潮がありますが、今回の経験からどういった関係性であるべきだと思われますか。

大日本印刷のC&I事業部ビジネスイノベーション本部USプラットフォーム開発プロジェクトチーム室長・モタイ五郎氏 大日本印刷のC&I事業部ビジネスイノベーション本部USプラットフォーム開発プロジェクトチーム室長・モタイ五郎氏

モタイ(大日本印刷):もっと積極的に関わる機会をどんどん作った方がいいと思います。大日本印刷の企業文化かもしれませんが、今までは自分たちでできることは自前で作ろうという意識が強かったんです。しかし、こういう機会をうまく活用して、着眼点やスピードについてはスタートアップの力を借りることも必要だと思いました。

井上(住友不動産):お互いに交流は持った方がいいでしょうね。ベンチャーが商品を売ろうとして飛び込み営業をかけても相手にされません。まずは売るためにも人との交流の機会を設けて、顧客を紹介してもらえるような関係性を築いていかないといけません。そういった交流の場は無数にあるんです。行くか、行かないかだけです。ただ、最初から営業目的で行かない方がいいですね。そういうのって伝わりますから(笑)。

横川(Google):シリコンバレーだと嫌でも大企業とベンチャーは顔を合わせることになるのですが、日本だとなかなか難しいところはあるかもしれませんね。最近はスタートアップのイベントも多くなったので、そこに出て行くところから始めるといいのかもしれません。

モタイ(大日本印刷):交流の場といえば、KDDI ∞ Labo卒業生と大日本印刷の社員を集めて130人規模のイベントを開催したんです。協業マッチングが目的ですが、申し込みの段階ですごい数の応募がありました。こうした活動を続けていくことが大事なのかなと思います。スタートアップから話やアイデアを聞くだけでなく、支援企業側も自分たちからこういうことができるんだということを示していく必要があると思いますね。

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