グローバルに通用するビジネスを生み出そうとするスタートアップ企業を支援するため、KDDIが2011年から主宰するインキュベーションプログラム「KDDI ∞ Labo」。その第9期生によるプレゼンテーションイベント「DEMO DAY」が2月22日に開催され、6社が登壇してプレゼンを行った。3月22日まで第10期を募集している。
第9期のDEMO DAYで最優秀チームに輝いたのは、世界中のイラストや写真を売買できるプラットフォームと、電子ペーパーを活用したIoT製品を組み合わせたスマートインテリア「uusia(ウーシア)」を開発したCAMELORSだ。独自性や市場性、完成度の視点で高く評価された。
uusiaのユーザーは、世界中のアーティストの作品の中から好みのものを探し、PC・スマートフォンの壁紙やポスターなどとして購入できる。購入したアート作品は、専用のIoT額縁「uusia picture」に表示され、ユーザーはいつでも気分に合わせてイラストや写真をスマートフォンアプリから切り替えられる。電子ペーパーを使っているため、30日間電池がもつほか、電池が切れてしまってもイラストの表示が消えることはない。また、アーティストはuusiaのサービスを通じて自分の作品を販売できる。
uusiaはいかにして生まれたのか。開発の経緯などをCAMELORSのCEOである田根靖之氏に聞いた。
--DEMO DAY最優秀賞おめでとうございます。
田根:ありがとうございます。uusiaはローンチに間に合うかギリギリだったので、DEMO DAY前日までその作業ばかりやっていました。正直、プレゼンどころではなかったですが(笑)。
--そうでしたか(笑)。すでにDEMO DAYの先をご覧になっているのですね。最優秀賞を獲得できた理由をご自身ではどうお考えですか?
田根:なぜでしょうね。うーん、わからないです(笑)。
--新規性・独自性が特に高く評価されたようです。どこからuusiaの発想が出てきたのでしょう。
田根:そもそもは家のインテリアをかっこよく、おしゃれにしたいという思いからスタートしたんです。おしゃれなインテリアを検索すると、だいたいその部屋には絵が飾ってあるんですね。でもインテリアショップに行っても絵画はなかなか置いていない。買おうと思ったら画廊に行くしかなくて、でもそこまでしたいわけでもない。1枚あたりの価格も高額です。そうじゃなくて、もっと手軽にインテリアアートを楽しめる方法はないだろうかというところから、uusiaのアイデアを思いつきました。LINEのスタンプみたいに、スマホを使って飾る絵をひょいひょい変えられたらいいなと。
--日常で気軽にアートを楽しむ入り口としての製品ですね。こういった製品ですと、これまでにもデジタルフォトフレームなどがありました。
田根:最初はデジタルフォトフレームもいいなと思っていたんです。綺麗に表示できるし、絵画を買うのに比べたら安いし。でも一時的に流行っただけでしたよね。それはなぜだろうと考えた結果、コンセントにつないでいないと使えないからじゃないかと思ったのです。
--たしかにデジタルフォトフレームは液晶ですから、コンセントは必須ですね。
田根:そうなんですよ。デジタルは基本的に液晶画面なんです。でもそのせいでコンセントを必要としてしまう。これをどうにかできないかと考えて、出会ったのが電子ペーパーでした。
--Kindleなどの端末で活用されていますね。紙のような感覚で、消費電力も極小です。充電しなくてもかなり長期間使えます。
田根:ええ。まず、そのアイデアを思いついて、7~8月くらいにビジネスプランを考えていきました。そのとき、KDDI ∞ Laboを知って、いいなと思ったのです。特にサポート企業の豊富さは魅力でした。そこから必要な人材を2週間くらいで一気に集めて、プログラムに参加することにしたのです。チームは4名。といっても弊社の社員は私一人で、他のメンバーは協力者という形です。今後、1名は入社することが決まっていますが。
--少し話はそれますが、田根さんは起業前は会社員ですよね?
田根:はい。ずっとサラリーマンでした。大学卒業後はコンサルティングをやっていまして、その後は楽天でマーケティング関連の仕事をしていました。楽天リサーチでは執行役員をやっていたのですが、大学のときから自分で事業をやりたいと思っていたこともあり、独立したのです。やりたい事業や作りたいプロダクトがあったわけではなく、まず独立してから事業プランを練ろうと考えていました。
--その結果、uusiaが生まれたと。KDDI ∞ Laboのプログラムはプロジェクトを進める環境としていかがでしたか。
田根:大変でしたが、よかったです。わからないことをサポートしていただきました。ハードウェアって難しいんです。価格の付け方とか技術的なところとか、ビジネス的にはターゲットもしっかり決めないといけない。そういうところで助けられましたね。
uusiaの大きな特徴は2つあります。1つはオンラインでアート作品を売買できること。もう1つは、そこにIoTデバイスを紐付かせて、もっと手軽にアートを楽しめる仕組みを作ったことです。
--収益モデルは専用デバイスである額縁「uusia picture」の売上?
田根:それに加えてuusiaで売買されるコンテンツの手数料になります。
--当然ですが、コンテンツがたくさんないと使えないですね。
田根:ちょうど今、コンテンツを集めている最中で、デザイナーやアーティストに声をかけています。彼らにどれだけ協力してもらえるかがポイントになると思います。美大にも協力してもらって、もう少しアーティストを巻き込めればと考えています。プロというよりは、セミプロやアマチュアのハイクオリティな作品を狙っていきたいですね。
--KDDI ∞ Laboではどんな流れで開発をしたのでしょう。
田根:最初の2カ月は、このビジネス自体にニーズがあるのかを調査していました。その結果、一定のニーズがあると判断したのです。女性は特にインテリアやアートの購入を検討した経験を持つ人が多いのです。ただ、自分の部屋に合うのかわからなかったり、いいものが見つからなかったという理由で購入には至りません。それを解消するためのサービスなんです。
--日本は海外に比べて室内に絵を飾るという文化が薄い国だと思います。
田根:そういう面はあります。まずはクラウドファンディングで海外の反応がどれくらいあるのかをマーケティングしたいですね。
--クラウドファンディングはどのプラットフォームを考えていますか。
田根:「Indiegogo」を考えています。
--今回、液晶ではなく電子ペーパーを採用したというお話がありました。たしかに電子ペーパーはメリットも大きいですが、代わりにモノクロでしか映せません。カラーでないことへの抵抗はありませんか。
田根:あります。アーティストの方にもカラー版はないのかと聞かれました。電子ペーパーですからモノクロになるのは避けられないのですが、逆にそういったモノクロが好きな方も多くいます。それに今のインテリアはカラフルなものが多いですから、そういう部屋に飾るならモノクロもいいのではないかと思います。
--KDDI ∞ Laboのプログラムではメンターとどんなやりとりをしましたか。
田根:そもそも商品が市場に出るまでのステップを知らなかったので、そういうことを教わりました。小売店にも足を運んで製品を紹介し、チャネルを作っていきました。小売店からは逆に「メッセージつきのコンテンツを最初から表示しておけばギフト需要で売れる」なんてアドバイスをいただいたり。
--今後の展開についてはどう考えていますか。
田根:今回は電子ペーパーですが、そこに固執するのではなく、アート作品をもっと手軽に楽しめるプラットフォームにしていきたいですね。3Dとかも表現としてありかもしれません。
--プラットフォームとして定着すれば、アートの制作手法にも影響を与えそうですね。
田根:これは自分の夢なんですが、イタリアなんかのおしゃれなカフェに飾ってある絵が自分の描いたものに変化していったら素敵だと思いませんか? クリエイターも嬉しいし、その飲食店で食事している人にとってもハッピーだと思うんです。アマチュアもプロも関係なく、作品を発表できる場にしていきたいです。
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