「失敗」が成長を牽引?--様変わりしたインドのEコマース市場

佐々木誠(マイクロアド・インディア代表)2016年02月25日 08時00分

 私がインドに赴任した3年前には、Eコマースは存在していたが、それほど注目度は高くなかった。オーダーしても商品が届くまでに2週間ほどかかり、忘れたころに届くので、便利と感じることは少なかった。

 だが、ここ2年間でインドのEコマースは様変わりした。テレビをつければ、4本に1本はEコマース関連のテレビCMである。街に出れば至るところにEコマースの看板が出ている。道路を走っているバイク便も、Eコマース各社のロゴをつけて走っている。Eコマースがすっかり身近なものになってきた。今回は、なぜインドでEコマースが急激に伸びているのかについて考えてみたいと思う。

伸びるきっかけは「失敗」?

 インドでは、毎年10月ごろにディワリというヒンドゥ教で一番大きなお祭りがある。この時期に物を買うと縁起が良いということで消費が伸びる。この時期を狙って、一昨年の2014年に「Flipkart」というインド最大手のEコマースが、「ビッグ・ビリオン・デー」と銘打って大々的にセールを実施した。商品が4~5割引で買えると話題になり、結果としてセール開始後10時間で1億ドルを売り上げた。

 一方で、アクセスが殺到したため、システムが不具合を起こしてオーダーが勝手にキャンセルされたり、在庫不足により商品がなかなか届かないといったトラブルが起き、経営者が謝罪する事態になった。こうした失敗を鑑みて、2015年は倉庫や配達スタッフを大幅に増やして物流を改善。段階的にセール対象のカテゴリを開放して負荷の分散などを図った。結果は全くトラブルなく、前年のセールと比較すると売上は3~4倍伸びたようである。

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「モバイル・オンリー」の国インド

 インドの街中で、若者がスマートフォンを使っている光景は当たり前のものとなってきた。中国メーカーの参入もあり、端末価格は5000ルピー(約9000円)程度まで下がっている。年間8000万台のスマートフォンが売れており、2億人近くが利用している。スマートフォンユーザーが伸びることで、大都市のみならず、地方の消費者へのアプローチが可能になった。

 インドのファッションEコマース大手である「Myntra」は、2015年にウェブサイトを閉鎖し、モバイルのアプリケーションに特化した。Myntraはウェブサイトを閉じる前、トラフィックの90%、売上の70%がモバイル経由だったという。インドはモバイルの壮大な実験場になりつつある。

【スマートフォンユーザーの推移】イーマーケッター調べ
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課題は決済手段?

 日本では、Eコマースの決済はクレジットカードが多いが、インドでは代引き(キャッシュ・オン・デリバリー)が主流である。2年前で約7割、最近では5割のユーザーが代引きを利用しているという調査結果がある。消費者からすると、商品が届いて確認してから現金で支払うので安心して買い物ができる。

 その一方で、Eコマース会社からすると、本人確認が必要であり、商品を受け取る際のキャンセル率が高いという大きな悩みがあった。各社は、オンライン決済の比率を高めようと、ネットバンキングなどを使って買い物をすると、一定のディスカウントを提供するなどをして改善を図っている。また最近は、モバイル決済の会社が伸びている。

 モバイルでは決済の際に、毎回カード番号を入力したりするのが面倒なため、あらかじめカードを登録しておけば、ログインするだけで決済が可能になった。こうしたモバイル決済の会社は、もう一歩踏み込んで、銀行口座を持たない消費者も次なるターゲットとして狙っている。現金を口座にチャージできる機械を街中に設置したり、現金回収人が家まで来てチャージしてくれるようなサービスを始めているのだ。

 インドのEコマースは大きな壁に何度もぶつかりながら、その度に大きく改善してきた。一方で、スマートフォンの普及により、ユーザーの裾野は急速に広がっている。インドで暮らしていて、新聞やネットニュースでEコマース関連の記事を見ない日はない。インドが世界最大のEコマース市場になる日もそう遠くないと考えている。

佐々木誠

マイクロアド・インディア 代表。2012年よりインド・デリー在住。
大学卒業後、商社に勤務後、2000年にサイバーエージェントに入社。
ネット広告事業に営業担当として携わり、「Ameba」の立ち上げや新規事業にも参画。
2012年マイクロアド・インディア代表に就任後、ディスプレイ広告の配信プラットフォーム「MicroAd BLADE」を主力サービスとしてインド企業や日系企業を開拓中。

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