アドビシステムズは2月15日、都内で2016年度の事業戦略説明会を開催した。「Photoshop」や「Illustrator」といったクリエイティブ分野でビジネスを展開してきた同社だが、近年はマーケティングやドキュメントの分野にも注力している。代表取締役社長の佐分利ユージン氏は、「デジタルトランスフォーメーションで顧客とのタッチポイントが増える。企業は優れた顧客体験を提供し、競争力を強化しなければならない」と主張。コンテンツの制作から顧客分析、収益化までを一気通貫の製品ポートフォリオで支援する同社の優位性を訴えた。
2012年からアドビは自社製品のクラウド化を進めている。2015年度収益は、対前年比15%増の48億ドル。そのうち70%がクラウド製品による収益だったという。
アドビのクラウドは、クリエイティブ分野の「Creative Cloud」、マーケティングソリューション群の「Marketing Cloud」、文書管理ソリューションの「Document Cloud」に大別される。2015年度の売上金額を見ると、Creative Cloudが26億ドル、Document Cloudが3億9700万ドル、Marketing Cloudが15億9000万ドルとなっている。
中でも急成長を遂げているのがMarketing Cloudだ。売り上げは前年対比25%増で、「過去最高を達成」(佐分利氏)。米国では大手企業がコンテンツ管理からソーシャルメディア分析、収益化のためのキャンペーン管理まで、複数のソリューションを一括で導入するケースが多いという。実際、Fortune 500のうち約70%がMarketing Cloudを導入しているとのことだ。
佐分利氏は、「顧客とのタッチポイントが増えれば、マーケティングに必要な価値の高い情報を多く入手できる。反面、消費者の期待値は上がるので、魅力的なコンテンツを揃え、パーソナライズされた情報を提供し、消費者の利便性を損ねることなく、いつでも、どこで、どのデバイスからでも同じ体験を享受できる環境の構築が求められる」と語る。
アドビ独自のグローバル調査によると、「テレビ広告で関心を持った製品はサイトで詳細を調べる」と回答した消費者は90%に上ったという。さらに、50%が「実店舗に行っても製品購入前にサイトで情報を調べる」とし、65%が「(興味のある製品でも)サイトに有益な情報がないと購入しない」と回答した。消費者の80%が「興味のない製品/サービスを紹介するメールはスパム」と認識しているという。
こうした消費者意識について佐分利氏は「優れた顧客体験を提供するためには、魅力的なコンテンツと正確なデータで可視化された情報を組み合せ、収益を生み出す施策が求められる。これを実現できるのがアドビであり、差別化要因だ」と語った。
日本市場でもCreative Cloud、Marketing Cloud、Document Cloudの分野ごとに注力していく。Creative Cloudでは、映像素材の提供を開始するとともに、モバイルアプリを強化することで、新規ユーザーの獲得を目指す。Document Cloudでは「Adobe Acrobat」の製品力を訴求し、企業の経営層に対するアプローチを強化していく。同時に、エグゼクティブコミュニティーの醸成も支援する方針だという。
Marketing Cloudについて佐分利氏は、「日本市場と業界ニーズにマッチした提案をしていく」と説明する。業界に特化したニーズをくみ取り、最適なソリューションをコンサルテーションサービスとともに提供していく方針だ。具体的には金融、旅行、製薬などの業界に対し、統合ソリューションとして訴求していくという。
現在、同社の売り上げの70%はパートナー経由だ。佐分利氏は、「パートナーエコシステムの拡大には、引き続き強化する」と力説する。また、グロービス経営大学院大学と協業し、人材育成にも注力していくとのことだ。
最後に佐分利氏は、「2020年(の東京五輪)に向けて、多言語対応のデジタルコンテンツのニーズが高まることは間違いない。同時に、デジタルサイネージについても、多言語化が求められるだろう。われわれが提供するクラウドソリューションであれば、こうしたニーズに対応でき、優れたユーザー体験を提供できる」と強調した。
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