一般企業就職で求めた世間の常識--「NARUTO」ゲーム開発の「CC2」松山代表の起業秘話 - (page 2)

「新しい環境へ出て行くと決めたら、まず辞めるのが先ではないか」

 もう1タイトルをリリースした後、松山氏が代表取締役に就任。「.hack」シリーズを生み出し、ゲーム開発会社として知られるようになっていった。松山氏はそのころから、ゆくゆくはゲームディベロッパーに注目が集まり、“どこが作ったか”によって購入判断がなされる時代がくると考えていたという。そしてデベロッパーとして顔を出す施策を打ち出していった。たとえば起業当時からスタッフ全員に名刺を持たせたり、今でも社員がTwitterのアカウントを持つ場合は、サイバーコネクトツー(CC2)の名前を冠することにし、看板を背負わせて自覚を持つように促している。

 ほかにも自身のブログを始め、「CC2の楽屋裏」と題したスタッフブログ、採用情報における会社説明会の様子など積極的に情報発信をしているが、これは前述したデベロッパーの顔が見えるようにするとともに、同社に興味を持つ人が「会社がどういう環境と現場なのか、そしてどういう人たちが同僚になったり先輩になることを知ることの方が大事」という考えに基づいている。そして、「何事も面白くないと興味を持ってもらえない」と、見ている人のことも意識して書いたり発信することを心がけているという。

 松山氏の考えが現れていることとして、中途採用における応募のルールに「既に前職を退職している、あるいは在籍している会社に退職する意思を伝えていること」もあるという。これは松山氏が、まず独立するのが先という考えのもとバックボーンの無い状態で起業したことや、自分が逆の立場だったら嫌だというところもあるが「自分で自分の人生を考えて、自分で決めるもの。新しい世界や環境を求めて出て行くと決めたならば、まず辞めるのが順序として先ではないか」という考えを示した。

 松山氏が代表取締役になったのは「当時は、社長になるか解散するかの2択しかない状況だったから」と振り返ったが、代表になることのプレッシャーを感じたかという問いには、「ゼロだとは言わないが、それ以上に『これで好きにやれる』」と、自分で決断も責任も取れることの喜びがあったという。そして「逆にここで目の前に広がった地平線にワクワクできないような人、プレッシャーに負けるような人が、人を率いてはいけない。気が休まる瞬間もないが、ずっと戦場にいるような状態も楽しめるぐらいじゃないと務まらない」と説いた。

人前でしゃべる努力をするのは“生きた情報は人が持っている”ため

 黒川氏が松山氏に「努力することを楽しめるから今があるのでは」と問いかけると、松山氏は「努力をしていません」と否定。松山氏は月間60冊ほどの週刊・月刊漫画雑誌を定期購読しているのをはじめ、年間1200冊のコミックスを購入するほか、数多くのゲームを遊んだり映画も見ているという。一見するとキャラクターゲーム制作のためと思われそうだが、松山氏は「あくまで好きだからやっていることで、仮にこの仕事をしていなくてもそうしている」と説明。逆に「極論かもしれないが、漫画やアニメを見なきゃ、ゲームを遊ばなきゃと、エンタメに触れることを努力すると感じている人は、この業界に向いていないのでは」とも付け加えた。

 そんな松山氏が努力していることとして挙げたのは「人前に立ってしゃべること」。松山氏といえば取材されたり講演に立つ機会も多く、話術も巧み。アグレッシブな印象も受けるが、普段は寡黙で本当はあがり症、人前でしゃべることが苦手だと語る。それゆえ、講演のたびに反省をし、テレビ番組を見てタレントや芸人の話す姿を研究していると明かす。またスタッフに対しても、スタッフが集まる場で数分間のスピーチをさせたり、講演のリハーサルを何度も行っているという。

 こうした努力を行う理由に、松山氏はコンクリート会社に勤務していたときの上司から教えられた「情報を持っているのは人」という考え方が根底にあると明かした。誰もが知っているような一般的な情報は死んだ情報であり、本当の意味で生きた情報は人が持っているとし「とにかく人と向き合え」と言われたことが、対話することの努力につながっているという。

キャラクターゲーム制作のきっかけは、任天堂のもの作りの姿勢

 黒川氏は松山氏やサイバーコネクトツーが、デベロッパーとしての存在感もさることながら、キャラクターゲームのありかたも変えたと絶賛。それに触れ、松山氏がかつて任天堂の宮本茂氏が行ったある講演をきっかけに、キャラクターゲームの制作に乗り出したことも明かした。

 当時宮本氏が任天堂のもの作りの考え方について「世の中の不平不満に目を向けること」という趣旨の発言をしたと松山氏は記憶しているとのこと。この不平不満を解消するだけでプラスマイナスゼロの位置に立てるだけではなく、褒めたり喜んでもらえることで自分たちのファンになってもらえるという、いわゆる“2倍のニーズがある”と松山氏はとらえたと振り返る。その象徴が“ゲームばかりやっているとバカになる”という風潮に対する「脳を鍛える大人のDSトレーニング」、“ゲームばっかりやっていると運動不足になる”という風潮に対する「Wii Fit」だと推察する。

 キャラクターゲームというと、クオリティが低いゲームも少なくない状況があったため、松山氏は「ちゃんとしたキャラクターゲームを作れば、その世界の金字塔になれる」と思って、その領域に本腰を入れて取り組むことを決めたと明かした。

 会のなかでは、日本のゲーム業界の流れについても触れられた。かつて任天堂がファミコンで一大市場を築き上げ、スーパーファミコンもその勢いも維持し、当時は任天堂の牙城が揺るがないものに見えていたが、その後ソニー・コンピュータエンタテインメントのプレイステーショーン、プレイステーション2が隆盛を極め、それが続くかと思いきやニンテンドーDSやWiiで任天堂が盛り返した。しかしながら現在は、ゲーム専用ハードではなくスマートフォンが巨大ゲームプラットフォームとして君臨している。ほかにも、松山氏がゲーム開発に取り組みはじめたころは「日本はゲーム先進国」として世界でも存在感を示していたが、今や海外メーカーのタイトルがグローバルで席巻している現実もあると説明。

 このような流れは松山氏も全く読むことができず「ゲーム業界は何が起こるかわからない」と率直な意見を述べた。そして「世の中のトレンドや時代の流れに応じてライフスタイルも変化し、それにあわせた新しいものが生み出され、新しい感動を引き起こし、新しいムーブメントを巻き起こす」と、“ゲーム業界は変幻自在なもの”であると語っていた。

 今後の活動について語るなか、松山氏がディレクションに関わらない社内インディーズのような立ち位置で開発を進めているゲームタイトルを、2016年に発表する意向を明らかにした。プロジェクトが巨大化するゲーム開発の風潮に、松山氏は「もっとゲームは自由なものであったはず」と以前から疑問に持っていたこと明かし、社内でもその考え方や動きもあったことから進めていたという。「猛獣たち」と松山氏が称するスタッフによる意欲作だとしている。「これからもサイバーコネクトツーが作ったものだから遊んでみたいと、そう思ってもらえる会社であり続けたい。そして常に人を楽しませるということ、エンタメに対するあくなき追求を続けていく」(松山氏)

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