高い継続率は「耳がさみしくなるから」--オトバンクに聞くオーディオブック市場と利用動向

 書籍を朗読によって音声化したコンテンツ「オーディオブック」。“耳で聴く書籍”とうたうように、手ぶらですきま時間に聴くことができるのが利点だ。すでに欧米を中心に市場が確立されている一方で、日本ではまだ市場が小さくなじみも薄い。しかしながら近年は徐々に市場が立ち上がりつつあるという。市場動向やサービスの利用動向などを、オーディオブック配信サービス「FeBe」を運営するオトバンクの創業者であり、代表取締役会長を務める上田渉氏に聞いた。

日本のオーディオブック市場は800~900億円のポテンシャルを持つ

  • オトバンク代表取締役会長 上田渉氏

 オトバンクは2004年に創業し、FeBeは2007年からサービスを開始した。会員数は年々右肩上がりで増加し、2015年12月時点で15万人を突破。提供コンテンツも1万5000タイトルを超えたという。こと2015年7月以降は、7月以前と比較して月間登録者数が2.5倍のペースで推移しているという。

  • FeBe登録者数の推移

 利用者数の増加は自社サービスのさまざまな取り組みはもとより、オーディオブック市場そのものも拡大傾向にあることが後押ししているという。上田氏は「現在のオーディオブックの市場規模は50億円程度と言われており、約10年後には800億円から900億円ぐらいになると見込む」と語る。世界的なトレンドとして書籍市場(電子書籍含む)の5~10%がオーディオブックの市場規模とされているなか、先進国の中では日本だけが立ち上がるのが遅かったために市場規模はまだ小さい。今は発展しているタイミングであり、計算上は800億円から900億円に到達するポテンシャルはあるという。

 オーディオブックの利用シーンの多くは通勤などの移動時間に聴くというもの。これは日本でも海外でも変わらず、こと海外では移動に時間がかかるシーンも多いことを背景に受け入れられた。一方日本でもカセットテープをメディアとしたカセットブックなども一時期展開されたが定着しなかった。もっとも時代の変化によってMP3プレイヤー、現在ではスマートフォンのように身近で手軽に再生できるデバイスが普及したことが、日本の市場拡大の後押しにもつながっているという。FeBe会員において、2013年の時点ではモバイルの比率が2割程度だったが年々比率が増加。現在の新規登録者の6割はモバイルになっているという。

エンタメ作品の拡充で若年層や女性層の利用比率が増加

  • 登録者の年齢分布

 これまでは通勤の利用シーンにあわせ、30~40代のビジネスパーソンをターゲットとしてビジネス書や自己啓発、教養といったジャンルを中心に展開。徐々に利用者を拡大していったが、2014年ごろから文芸小説の強化に加え、ライトノベルやアニメ原作、女性向け作品やお笑いジャンルまで含まれるようなエンターテイメント系の作品を拡充。スマートフォンの普及も相まって、若年層の利用比率が向上したという。特にFeBeの女性比率は3割前後で推移していたのが、2015年では5割まで上昇したという。

  • 登録者数の女性比率の推移

 ひとつの事例をして挙げたのは、2015年11月から配信を開始した「世界から猫が消えたなら」。2013年発売のベストセラー書籍で、2014年にはNHKラジオドラマ化。2016年には映画公開も予定されている。これをアニメ「黒執事」のセバスチャン・ミカエリス役などで知られる声優の小野大輔さんが朗読ならびに主演を担当。ほかにも多数の人気声優によってオーディオブック化した。上田氏は購入者の感想として、小野さんをきっかけにオーディオブックの存在や作品に初めて触れたというユーザーが非常に多かったと振り返り、女性ユーザーの比率を押し上げた理由のひとつとした。

  • 「オーディオブック『小説版Wake Up, Girls!それぞれの姿』」ダウンロードカードデザイン

    (C) Green Leaves / Wake Up, Girls!製作委員会

 ほかにも利用者層の変化の要因として、提供(決済)方法の多様化施策として「OTOCA」などカードタイプで販売したことも挙げた。このカードタイプによる提供はコレクション性を生むため、エンターテイメント作品と親和性が高いことも付け加えた。2015年6月に販売した、アニメ「Wake Up, Girls!」のノベライズ作品をキャスト陣自ら朗読した「オーディオブック『小説版Wake Up, Girls!それぞれの姿』」では、キャラクターイラストとキャスト撮りおろし写真を使用した、ブロマイドタイプのダウンロードカードも販売。耐久性の高いカードや高精細印刷などを施した仕様にしたこともあり好評だったという。

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