登壇したのは、NTTドコモ スマートライフビジネス本部スマートライフ推進部 アライアンス推進担当課長として「ドコモ・イノベーションビレッジ」を担当している平野右平氏、日本IBMのクラウド事業統括 エコシステム・デベロップメント 課長としてスタートアップ企業の支援事業を推進する狩野央道氏、トーマツ ベンチャーサポートで大企業向けにベンチャー企業との共同事業創出やアクセラレーションプログラムのアドバイザリーに従事している上森久之氏。モデレータは、CNET Japan編集長の別井貴志が務めた。
大企業とベンチャー企業はどんどん協業していくべきだ――この声は昨今テクノロジ業界を中心に大きくなってきているが、実際のところ大企業とベンチャー企業はどのような目的において協業を模索していくべきなのだろうか。
この問いに対して、ベンチャー企業を支援する中で大企業に共同事業を提案したり、自治体や大企業向けにベンチャー企業支援プログラムやアクセラレータプログラムの枠組みを立案・提供したりと、大企業とベンチャー企業の架け橋として活躍している上森氏は、一般的な中小企業との線引きが難しい中で、ベンチャー企業を社員数20名以内で今後3年から5年の間に急成長が見込まれる企業と定義した上で、「大企業とベンチャー企業が組んでいくという文化を作っていくことは非常に重要」とコメント。
その背景として、「上場している大企業は“先進国”で、今後の成長が見込まれるベンチャー企業は“発展途上国”と言える。大企業は事業規模の成長だけでなく環境問題や雇用創出、事業継続性の担保など成長以外の課題に取り組まなければならないが、ベンチャー企業は事業の成長だけにコミットしてビジネスを推進できる。お互いにできること、できないことが違うのではないか。大企業の中で新規事業を創出して立ち上げることは非常に難しいが、そこをベンチャー企業が担い、一方でベンチャー企業は大企業の力を利用して成長スピードを上げることができる」と語り、大企業にできないことをベンチャー企業が担うことで、お互いにメリットのある関係を築けることが協業の意義だとの認識を示した。
また、ドコモ・イノベーションビレッジにおいてベンチャー企業向けにアクセラレーションプログラムや、NTTドコモをはじめNTTグループ企業との協業を模索するミートアップの機会、テクノロジの最新動向を学ぶ勉強会などを積極的に展開している平野氏は、上森氏の意見に賛同した上で、「通信業界は、長らくベンチャー企業と協業してきた歴史がある。私たちはプラットフォームを構築することが得意だが、多様化する市場ニーズに対応していくためには、プラットフォームの上に乗るサービスを創出する上でベンチャー企業との協業は欠かせない。例えば、釣りが好きな人のためのサービスが必要だったとして、ドコモに釣り好きの人のためのサービスは作れないが、釣り好きの人たちが集まるベンチャー企業を支援していくことはできる。通信業界にはそういった連携や役割分担をしていく文化があるのではないか」とコメント。大企業のエコシステム全体を活性化するためには、大企業がベンチャー企業を支援して分業していくことが不可欠だとの考えを示した。
一方、早くからベンチャー企業との共創に注目し、クラウド開発環境を提供したり、ベンチャー企業と金融業界の大企業をつなぐ「IBM FinTechプログラム」やベンチャー企業にとってグローバル展開への足掛かりとなるピッチイベントを世界規模で行っているIBMの狩野氏は、上森氏、平野氏の意見に対して、ビジネスのスピードという観点から「市場ニーズに対応するスピードが重要なポイントだ。企業規模に関わらず、今は市場ニーズの急速な変化に対して速やかに対応することが求められている。そのときに、そのスピード感についていけるかどうか、自社内でそのスピード感に対応できるのかどうかは(大企業にとって)重要な課題だ。また市場ニーズに応えるために破壊的イノベーションが求められる中で、大企業の体質ではそのニーズに対応するのは難しい。大企業はスタートアップにこうした“大企業にできないこと”を求めているのではないか」と語った。
とはいえ、歴史ある企業風土を持つ大企業の中には、ベンチャー企業との協業を自然な形で理解し受け入れられる場合もあれば、そうではない場合もある。役員層などにはベンチャー企業との協業を理解してもらえない場合が特に多い。ベンチャー企業と協業して新たなシナジーを創出するために、大企業はどのような文化や社内の雰囲気を作っていくべきなのだろうか。
この点について、狩野氏は「企業内の雰囲気は着実に変わってきている」とした上で、「大企業とベンチャー企業の連携にもいろいろな形がある。薄いつながりから連携をしていく場合もあれば、IBMでは過去10年間にソフトウェアの企業を150社ほど買収している。自分たちの足りないところを、ベンチャー企業を買収することで埋めていこうという考えもある」と大企業側のニーズや雰囲気に合わせた協業を模索していくことを提案。
一方で、上森氏は「社内文化の調整は非常に難しい。新しいことにチャレンジしても、その精神を褒めてくれるのか、そのリスクを心配されるのかという対極の文化があるが、これは景気に左右される部分は大きいのではないか。企業が儲けを出して新規事業への投資に積極的であればチャレンジを推進してくれるかもしれないが、景気が悪くなって事業のリストラが必要になると利益が出ていない、または出るかわからない新規事業は切られてしまう。新しいチャレンジができる予算もなく、チャレンジしようという雰囲気も失われる。中長期的に新しいことにチャレンジする雰囲気を作っても、景気の悪化ですぐに逆転してしまう」と語り、景気の影響を大きく受ける大企業にとって、新規事業への投資やチャレンジに積極的な社内文化を維持していくことの難しさを指摘した。
また、NTTグループという巨大企業体に所属する平野氏は、「グループ内でも規模の大きくない企業であれば、意思決定が速かったり予算を直接使えたりするので、グループ子会社のほうがフットワークは軽いのではないか。イノベーションビレッジでのミートアップなどを見ていると、(ドコモとソニーで共同出資をしている)フェリカネットワークスは非常にフットワークが軽く、意思決定も速いと感じた」とNTTグループ内の現在の状況を紹介した。
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