大企業がスタートアップとの協業に期待すること--CNET Japan Startup Award - (page 2)

井口裕右 撮影:津島隆雄2015年12月25日 14時30分

大企業とスタートアップ企業の協業で気をつけるべき“お作法”

 このように話が進んだところで、話題は「スタートアップ企業との協業・連携で、大企業が気をつけなければならないこと」に。

 このテーマについて平野氏は、「大企業はぼんやりと“何か新しいことがやりたい”という考えでベンチャー企業にコンタクトしてはいけない。連携や協業では大企業とベンチャー企業がゴールを共有できなければ、先に進めないのではないか。仮にテーマを絞ってもゴールを設定することが難しいのに、例えば“IoTで何か新しいこと”といったニーズの幅が広いうちに協業の相手を探しても、結局、候補企業を絞り切れずに協業そのものが実現することもある」と提言。大企業が明確な目的意識を持ってベンチャー企業との協業を模索することが重要であるとの認識を示した。

NTTドコモの平野右平氏
NTTドコモの平野右平氏

 また上森氏は、大企業の意思決定の遅さを背景に、ベンチャー企業とのコミュニケーションにおける注意点を話した。「ベンチャー企業側にとっては社運を賭けるほどの協業を長期に渡り交渉していたとして、大企業側にとって協業を見送る可能性がもしも否定できないのであれば、それは早いうちにベンチャー企業側に伝えるべきだ」(同氏)。最終段階まで前向きな話が進んでいて土壇場で話がなくなるケースは少なくなく、そうした事態はベンチャー企業にとって死活問題になる場合もある。ベンチャー企業の経営状況に配慮したコミュニケーションが大企業側に求められるのだ。

 一方で、ベンチャー企業は大企業にアプローチするために、まず何をすべきなのか。

 上森氏は、「ベンチャー企業にとってまず困るのは、相手先企業のどこにアプローチする窓口があり、ライトパーソンがどこにいるのかわからないこと。人脈がなければ、なかなか意中の企業にコンタクトを取ることができない。大企業には、ベンチャー企業からのアプローチを受け付ける窓口を作り、門戸を開いてほしい」と大企業に提言。その上で、「ベンチャー企業側は、カウンターパートとなる担当者にとって、提案している協業がどのようなメリットになるのかを理解した上で交渉を進めるべきだ。交渉の中で親しくなってきたら、“私たちが何をすれば、あなたのポイント(成果)になるか”を直接聞くことが、交渉をクロージングする近道なのかもしれない。協業のメリットや根拠となるデータなどを盛り込み、構成が練られた提案書がきちんと作れることも重要だ」とベンチャー企業にとっての作法を説いた。

 この意見に対して、平野氏は「すでに大企業から支援してもらっているベンチャー企業の人や人脈ネットワークが広い人からの紹介で大企業にアプローチするのがいいのではないか。“誰からの紹介”というのは大企業にとって相手を判断するひとつの材料になる」と説明。その例としてイノベーションビレッジの例を挙げ、「ドコモを通じてさまざまな企業にビジネスを提案したりなど、結局はドコモという“のれん”に価値がある。たとえ提案が上手くいかなかったとしても、“ドコモだから”という理由で相手企業がテーブルについてくれて、それが新たな人脈になる。ベンチャー企業だけでは実現できないことだ」と語り、ベンチャー企業にとって重要なのは、ビジネスの人脈を広げてネットワークを作っていくとだとの認識を示した。

日本IBMの狩野央道氏
日本IBMの狩野央道氏

 また狩野氏は、ベンチャー企業に求められる信頼性について、「ベンチャー企業が大企業に会いに来て、まず要求されるのは、“実績”だったり“信用”だったりする。それは、例えば大企業がクライアントに提案する際に同じように“実績”や“信用”を要求されるからだ」と説明。その解決のひとつとして、「過去に企業経営を経験している人などに社外取締役に就任してもらうことで、社会的な信用を担保することができる」と語り、社外取締役を登用することを提案した。

世の中に挑戦していく人をもっと増やしたい

 パネルディスカッションの最後に3人は、今後、スタートアップ企業とどのように関わっていきたいかという抱負やベンチャー企業へのメッセージを語った。

 上森氏は、「世の中に挑戦していく人をもっと増やしたいと本気で考えて取り組んでいる。チャレンジする人たちを罵るのではなく、応援したくなるような世の中を作っていくことができれば。新しいビジネスにチャレンジする人を取り巻く全ての人が、チャレンジというキーワードにアレルギーを持たないような世の中にしていきたい」とコメント。

 狩野氏は、「イノベーションとは社会的な課題を全く新しい発想で解決していくということ。それは熱意がなければ実現できない。我々は今IoTやコグニティブコンピューティングをいかに日常生活の中に取り込んでライフスタイルを豊かにできるかを考えているが、同じ熱意を持ったベンチャー企業とはぜひ協業したい」と語った。

 平野氏は、「未来の予想は非常に難しく、そこに“やり切る”だけのチャレンジ精神がなければなかなか(目標への挑戦を)完遂できない。私たちもベンチャー企業に負けずに新たなチャレンジに取り組んでいきたい」と述べた。

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