躍進するスタートアップ3社が語る、組織作りやプロダクト作りの“ホンネ” - (page 2)

井口裕右 撮影:津島隆雄2015年12月26日 11時00分

良いモノを作らなければ、人もお金も集まらない

 では、このように2015年更なる飛躍を遂げた3社は、成長を加速させるために、組織作りにおいてどのような点に留意しているのだろうか。ここから先は、起業を考える人が直面する課題について、Q&A形式でディスカッションが進んでいった。

 「人、プロダクト、資金。起業家はどこから手をつけるべきか」という質問に対しては、3人全員が「プロダクト>人>資金」と回答。山田氏は「まずプロダクトのアイデアやコンセプトがあって、どうすればそれが実現するかを考える必要があり、それで初めて実現のために必要な人材像が明確になる。資金も重要だが、最初は自己資金でできることもあり、人材を増やしていく段階で資金調達を進めていけば良いのではないか」と語る。人材の登用の際も資金調達の際も、共通して言えるのは軸となるプロダクトのアイデアやそれが実現するための構想がしっかりしていることが重要だとの認識を示した。

AgICの清水信哉氏
AgICの清水信哉氏

 この点については高場氏も山田氏も同意する。高場氏は「創業当時、Brain Warsは3人で4カ月かけて開発した。まず良いプロダクトを作ることができれば、自然と同じ志を持った人や支援したい人が集まり、資金調達の話もスムーズに進めることができる。良いモノを作らなければ人もお金も集まらない」とコメント。一方で清水氏は両氏の話に共感しつつも「組織のバランスを考えることも重要ではないか。ロジカルで建設的な意見を考える人と直感的にアイデアを生み出していく人、ビジネスのことを考えながらプロダクトを考える人と技術を追求しながらプロダクトを考える人、そのようなバランスをとっていくことがチームを作る上で重要だ」と語った。

 また、プロダクトの成長を支える人材の採用について、清水氏は「一番重要なのはフレキシビリティ。私たちのようなテクノロジ中心のスタートアップでは、技術がどういう方向に進んでいくかわからない。先週と今週でやるべきことが違うことも多い。そこで保守的な考えを持ちタスクに固執してしまうとついていけない。柔軟にやるべきことを考えていける人がいい」とコメント。平野氏から「そういう人材は少ないのではないか」と指摘されると、清水氏はお互いを理解している身近な人(大学時代の同期や会社の元同僚など)の中から“最初の人材”を探していくことをポイントに挙げた。

トランスリミットの高場大樹氏
トランスリミットの高場大樹氏

 一方、同じ問いに対して高場氏は、「夢を持っている人。その夢のベクトルが会社の夢と一致している人。中途半端で妥協せずに目指す高い目標に向かって強い心で一緒に頑張れる人材であることを重視している」と語り、100人以上の人材を束ねる山田氏は「普通のことを普通にやるのではなく、目標を突破するために大胆にものごとを考えて行動できる人(を重視したい)」とコメント。目指す夢や高い目標を共有し、アグレッシブに仕事に打ち込める人材が重要であるという点で、3人の意見は一致した。

プロダクトが不発だった……撤退はどう決めるのか

 では、スタートアップ企業にとって、その存在意義の全てとも言える製品やサービスといったプロダクトについて、どのような基準で成功・失敗を判断し、その結果もし失敗という判断になった場合には、どのような基準で撤退を決めるべきなのか。

 山田氏は、最初にリリースしたメルカリのAndroid版における定着率の良さや、その後リリースしたiOS版の順調なユーザー数の伸びなどをもって、事業の成長に向けた追い風を感じたという。しかし一方で、「もっと良くしなければならない、もっと機能を拡充しなければならないという覚悟を持った」と語り、サービス拡充のスピードアップに強い熱意を持ったのだそうだ。

モデレータを務めたTHE BRIDGE編集長の平野武士氏
モデレータを務めたTHE BRIDGE編集長の平野武士氏

 また、アプリストアでのピックアップなどでユーザー数の伸びを実感した高場氏は、「試作段階では関係者から良い反応を得ていたものの、実際にリリースした直後は、あまり反応は良くなかった。しかし、アプリストアでピックアップされたのをきっかけにダウンロード数が急増し、“当たった”という実感を得た」と当時を振り返る。資金調達もこの出来事がきっかけとなり決まったのだそうだ。

 一方で清水氏は、「2014年は電子回路が印刷できるプリンタを開発・販売して海外の大学などで採用されたりもしていたのだが、結果的には(プリンタの販売から)撤退することにした」と事業の一部から撤退したエピソードを紹介。その背景として、プリンタの販売そのものに市場の成長性を感じることができなかった点を挙げ、「プリンタのユーザーに、どのように活用しているかを実際に聞きにいったことが良かった。継続的に需要が伸びていくのかという点で疑問が残り、撤退を判断した」と語った。

 しかし、成果がゼロではない状態で撤退を決断することは難しく、場合によっては撤退のタイミングを逃してしまい採算性の悪い事業を抱え込んでしまうこともある。どのようなタイミングで撤退を判断すべきかという点について、山田氏は「メルカリの前には数多くのプロダクトで撤退してきた。撤退判断は難しく(始めた事業は)辞めるに辞められないが、事業を開始する際にあらかじめ『基準=いつまでにどのような目標を達成するという撤退条件』を作っておくことが重要ではないか。退路を断って、ひとつのことに集中して取り組んでいくことも大切だ」とコメント。

 一方でリリースしたタイトルがいずれも大ヒットとなっている高場氏は、「サービスの撤退基準は難しい。赤字を出し続けていれば判断は早いが、そうでなければ、プロダクトへの愛情もあり易々とサービスを止められるものではない。少しでも利益があれば撤退せずに続けてしまうかもしれない」と胸中を語った。

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