記者と考える9つの社会課題、取材から見えた「解決策」--未来メディアキャンプ

井指啓吾 (編集部)2015年12月09日 09時00分

 朝日新聞社は12月6日、参加者がメディアを使って記者とともに社会課題の解決に挑む「未来メディアキャンプ」の2日目のワークショップを開催。11月9日のワークショップで結成された9チームが、チームごとに設定した社会課題に対して、3週間にわたるフィールドワークを通して形にしたアイデアを発表した。

朝日新聞 未来メディアキャンプ。それぞれ異なる社会課題をテーマに据えた9チームが、3週間かけて形にした解決アイデアを発表した
それぞれ異なる社会課題をテーマに据えた9チームが、3週間かけて形にした解決アイデアを発表した

 各チームが掘り下げたテーマと具体的な解決策は次の通り。テーマの詳細は前回記事を参照のこと。

(1)社会課題:難民受け入れ、日本はどうすべきか

 解決アイデア:フィールドワークを通じて、難民受け入れの大きな課題は「仕事」と「コミュニティ」だとわかったという。日本は外国人観光客が年々増えており、宿泊施設が不足しつつある。そこで、難民主導のホテルを開設する。難民に「衣食住」と「コミュニティ」を提供できると同時に、宿泊施設を増やせる。難民支援として国際社会にも貢献できると見ている。

 外国人観光客に人気のある上野、浅草など観光地周辺で中古の一軒家を借り、地域の学生たちを巻き込んでリノベーションをする。バックパッカーを主なターゲットとして、宿泊料金は安価な1泊3000~5000円に設定。ウェブや旅行ガイドブックなどを通じて海外に訴求する。ホテルを開設する地域の利点として、(1)経済の活性化、(2)難民との交流、(3)地方創生――を挙げる。

(2)持続可能な農業をどう実現するか

 高齢化が進む農業は、農家数が年々減り、耕作放棄地が増えている。また、「つらい」「カッコ悪い」「もうからない」などのイメージがあるため、若者の参入が少ない。そこで、農業のよいイメージを若者に与え、稼げるロールモデルを作り参入を促すことを考えた。

 ビジネスのロードマップでは、まずクチコミ効果の見込める「子育て世代」を囲いこむため、スマートフォンで遊べるゲームを開発し、同時に、子どもの好き嫌いを克服できる可能性のある「甘いピーマン」などの特殊野菜を中心に販売していく。その後、時代にあわせて、VRなどを活用し遠隔でロボットを動かして農業を体験できる取り組みなどを始める。

(3)野生動物との共存の道をさぐる

 日本初となるジビエ(狩猟によって食材として捕獲される野生鳥獣やその肉)のまとめサイトを作る。シカ肉の仕入れ先のリストや、シカ肉の料理を出す飲食店の情報などを表にまとめる「シカ肉業界マップ」、日本全国の地方自治体の取り組みを訴求する「日本全国ジビエの旅」、狩猟の現状を取材して読み物にまとめる「コラム『山に埋まる高級食材』」の3つをコンテンツの柱とする。そのほかには、ジビエを家庭でも食べられるようにするレシピなども掲載する。

 サイトに掲載する情報は、農林水産省や環境省、地方自治体、飲食店などから受け取る。現在、独立して存在しているこれらの情報に横串を通して、情報の価値を高める。消費者が欲している情報を検索エンジンで見つけやすくしたり、SNSで情報が拡散されやすくしたりする。サイト運営費は地方自治体や飲食店からの広告費でまかなえる可能性があると見ている。

(4)民意を反映させる政治システムとは

 民意が政治に十分に反映されていない原因を、多くの有権者が政治に無関心であることと、政治に関心があってもアイデアを政治家に伝えられないことだと分析。そこで、政治に無関心な人から「日々困っていること」を募り、関心のある人からは「政策に関するアイデア」を募る、「有権者の課題を集めて政策にする」仕組みを考えた。

 サービスには人工知能技術を活用し、集まった膨大な数のアイデアをタグ付けして処理する。有権者の関心やニーズに沿った情報をおのおのに合わせて発信する。教育機関などから助言を受けて集合知を磨き、政治家に対して政策を提言できるレベルまで育てる。提言した政策が通らなかったとしても、その理由がわかれば、有権者にとっても満足度の高いサービスになると考える。

(5)障害者と共に生きる社会を考える

 2013年に民間企業による障害者の法定雇用率が2%に改正されたが、2015年6月時点で半数以上の企業が達成できていないことに着目。フィールドワークを通じて、企業の障害者雇用の難しさに気付いたという。そこで、障害者雇用に関する認知を高めるために、専用のポータルサイトを立ち上げる。先進企業の事例を掲載するほか、担当者の悩みを共有して解決できる仕組みを作る。

 メディアやNPO法人、専門家と連携して情報を拡充する。将来的には、有料のレコメンドサービスなどで収益化を図る。

(6)老後破綻のない社会をどうつくるか

 老後破綻を「自分の貯金や年金で生活を賄えなくなること」と定義。ヒアリング調査を通じて、その原因を(1)地域に頼れるコミュニティがない、(2)頼れる家族がいない、(3)病気や介護による費用負担が大きい――と分析。それぞれの解決策として(1)地域のコミュニティを形成、(2)家族のつながりを強化、(3)健康寿命を延ばす――と考えた。

 その3つを満たし、心身ともに健康になってもらうための仕組みを考案。高齢者の家族などに先払いで“ミールクーポン”を購入してもらい、高齢者がそのクーポンを使って通常よりお得に「定食」が食べられるようにする。そして、その場で同世代の方々と交流できる環境を整える。事業を持続させるために「医療費、社会保障費などの削減」「地域活性」をフックに自治体に協力を依頼する。プロモーション施策として、毎年6月5日を「老後の日」にする案もある。

(7)性的マイノリティーが生きやすい社会とは

 LGBTの制度設計が進み、人々の認知も広がっているが、特にLGBTの子どもたちを取り巻く環境の整備はまだ不十分。フィールドワークを通じて、LGBTに関する団体の多くは「思春期を迎えた後の子どもたち」に対してLGBTへの理解を深める取り組みをしていることがわかったという。そこで「思春期前の子どもたち」「新たに親になる人」にアプローチすることにした。

 妊婦健診の待ち時間を活用してLGBTについて考えるきっかけを作るほか、親と子どもがともにLGBTへの理解を深められるように、日本の現状にあった絵本を制作して配布する。クラウドファンディングサービスやLGBTのコミュニティ、メディアを通してサポーターを募る計画を立てた。

(8)ニュースとテクノロジーの新しい関係

 インターネットが普及した現在、受け取る情報が多すぎて重要なニュースを“自分事”として考えづらくなっていることを問題視。おのおのに必要なニュースを選別するために「感情」に着目し、「ニュースを活用した新たなカテゴリのアプリ」を考案した。

 脈拍計測などが可能なウェアラブル端末と、既存のメッセージングアプリやスケジュールアプリなどを連携させ、自然言語処理技術を用いて、利用者の感情を読み取る。利用者の感情にふさわしいニュースを、ふさわしいタイミングで配信する。記事に加えて、感情にあわせた広告を配信することで、収益を得る。また、集まった感情データをニュース提供者や研究機関に販売することも視野に入れる。

(9)途上国への新しいお金の流れを探る

 先進国と途上国の不均衡の問題の中で「食べ物」に着目した。廃棄寸前(賞味期限が間近)の食材を活用し、ミシュランで一ツ星を獲得しているシェフがつくった料理をワンコイン(500円)で食べられる飲食店を開店する。来店者は、家庭で買いすぎた賞味期限内の食材を店舗に持ち寄ることができる。ワンコインあたり50円をNPO団体を通じて途上国に寄付する。

 メディアや協賛企業に情報を発信してもらい、集客をする。店舗を同じ意識を持つ人々が集まるプラットフォームとしても機能させたい考えだ。

 当日は「アイデアの革新性」「実現・実行性」「メディアを活用しているかどうか」などの視点から審査員が優秀なアイデアを表彰した。(1)難民受け入れ、日本はどうすべきか、(7)性的マイノリティーが生きやすい社会とは、(8)ニュースとテクノロジーの新しい関係――の各チームが審査員賞を受賞。また、ワークショップの参加者全員で選ぶ賞を(8)ニュースとテクノロジーの新しい関係――のチームが受賞した。

 審査員は、ロフトワークの共同創業者で代表取締役の林千晶氏、朝日新聞メディアラボ室長の堀江隆氏、CNET Japan編集長の別井貴志の3人が務めた。

朝日新聞 未来メディアキャンプ 発表後、参加者がそろって記念撮影
発表後、参加者がそろって記念撮影

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