3つのクラウドで付加価値を提供し続ける--アドビ社長 佐分利ユージン氏が挑む2年目

別井貴志 (編集部)2015年11月08日 11時00分
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 アドビ システムズは、2014年7月1日付けで日本法人の代表取締役社長に佐分利ユージン氏が就任した。佐分利氏はマイクロソフトに約19年間在籍しマーケティングに従事してきたが、アドビの社長に就任した当時は、ちょうど各ソフトウェア製品がサブスクリプションモデルに移行している最中で、ビジネスモデルを転換してる時期だった。

 そして、現在のアドビはクリエイティブソリューションの「Adobe Creative Cloud」、マーケティングソリューションの「Adobe Marketing Cloud」、ドキュメントソリューションの「Adobe Document Cloud」と3つのクラウドサービスが事業の柱となっている。アドビの代表取締役就任から1年経過した佐分利氏に、事業を振り返ってもらいつつ、今後の展開を聞いた。

--この1年間を振り返ってみて率直な感想は?

アドビ システムズの代表取締役社長である佐分利ユージン氏 アドビ システムズの代表取締役社長である佐分利ユージン氏

佐分利氏:非常に早かたっし、楽しかったですね。代表職というのは初めてだったので、なれなければいけない面もありましたが、個人的にはすごく満足感があり、充実していたと思います。

--事業としては3本柱となりました。まずは、マーケティングソリューションの「Adobe Marketing Cloud」はどんな1年でしたでしょうか。

佐分利氏:昨年と比較して明確なのは、Marketing Cloudの8つの製品群を複数、つまりマルチソリューションとして導入してくださっている企業が圧倒的に増えました。これまでは、どうしてもオムニチュア時代のレガシーがあるということで、リアルタイムマーケティング分析・レポート「Adobe Analytics」だけを導入していただく企業が多かったのですが、現在はこれに加えてABテストの「Adobe Target」、デジタルアセット管理の「Adobe Experience Manager」(AEM)や、比較的新しいソリューションであるテレビ番組配信プラットフォーム「Adobe Primetime」など、複数の製品を組み合わせて導入いただいてます。これに伴い、導入企業数も増えています。詳細な数値までは申し上げられないのですが、グローバルの成長率を日本は上回っています。

--そのように日本が高成長している背景は何でしょう。

佐分利氏:「Adobeがすごいから」と言いたいところですが(笑)、正直言って日本市場の潜在需要が顕在してきたということが大きいように思います。モバイル分野やデジタル化に対する関心が高まっているので、市場全体が暖まってきているという面があると思います。ただ、これまでAdobeのクリエイティブ分野の製品を導入いただいていた企業が、制作したアセット(クリエイティブ資産)をAEMで管理しようとする企業も増えてきましたので、われわれが描いている4M戦略(Adobe Creative Cloudによる「MAKE-制作」、「MANAGE-管理」、Adobe Marketing Cloudによる「MESURE-計測」、「MONETIZE-収益化」)が日本の企業にも浸透してきたと考えています。

--マーケティングの世界ではディープランニング技術などを用いて、顧客の行動を予測しつつ、アクションにつなげていくことがトレンドだと思います。

佐分利氏:われわれから見て、2通りあると思います。まずはキャンペーン系です。ユーザーの属性データ、行動データ、心理データを見て、今後はどんなキャンペーン、クリエイティブ、コピー、タイミング、メッセージングを最適化すれば反応がよくなるかです。そして、もう1つはそのユーザーの体験をしっかりと構築していくことです。どのデバイスにも対応しているソリューションで、いかにユーザー体験を構築していくかということになります。明確に売上を目的としたマーケティングのプロジェクトと、どちらかというとブランドやイメージなどユーザーに提供する体験を意識したものとに分かれるでしょう。

  • 1.商品認知のきっかけをメディア別で5年前と増減を比較(画像をダウンロードしてご覧ください)

  • 2.日米の広告費推移(画像をダウンロードしてご覧ください)

  • 3.テレビ、雑誌、新聞を見たあとに一般消費者はどのような行動をとるか(画像をダウンロードしてご覧ください)

  • 4.問題のあるウェブサイトの経験(画像をダウンロードしてご覧ください)

 日本国内の広告費が年間6兆2000億円。そのうち、商品認知のきっかけをメディア別で5年前と増減を比較した図です(1)。テレビ、新聞、雑誌などは軒並みダウンしています。対してデジタルは、ニュース/ポータルサイトが29%、企業のウェブサイトが17%、ソーシャルが25%とかなり成長しています。マーケティングミックスというか、媒体のトレンドを見ると、明らかにデジタルが普及しています。

 日米の広告費の推移を見てみましょう(2)。米国を見ると、すでにインターネットが紙媒体もテレビも抜いています。そして成長率の乖離は開いています。日本を見ると、インターネットがやっと紙媒体を2012年に抜きましたが、テレビもインターネットも伸びています、若干縮まってはいますが。これを見ると、デジタルが着実に伸びてはいますが、日本はまだまだこれからという面があるでしょう。

 テレビはまだまだ強いという印象はありますが、テレビ、雑誌、新聞を見たあとに一般消費者はどのような行動をとるか見ると、約9割近くがウェブを見て情報を収集しています(3)。つまり、体験を意識してテレビと平行してさまざまな施策を構築しなければならないでしょう。テレビや雑誌、新聞よりも店頭を意識している企業にとっても、実は店舗内もしくはあとでウェブを見て情報収集しています。

 さらに見ると、その先でユーザーがウェブで情報を収集する際に、そのウェブサイトの体験がよくなかったり、矛盾があったりすると、63%近くのユーザーが商品の購入や情報の収集を中断してしまっています(4)。つまり機会損失ですね。日本は米国に比べてオールドメディアがメジャーですが、それと平行してユーザーがデジタルを見る傾向が非常に強いため、「or」の世界ではなく「and」の世界と言えます。一緒にして考えなくてはなりません。そのため、日本でマーケティング施策をするばあいには、キャンペーン系と体験系を両方大事にしなければだめなのです。シンプルなことですが、ユーザーが店頭に行って展示してある「赤いクルマ」を見たならば、ウェブサイトにもその「赤いクルマ」が表示されていなければいい体験にはならないのです。組織的にはテレビの制作をやっている人と、ウェブの制作をやっている人が担当が異なり、ほとんど会話がないと行ったケースもあるでしょう。社内の組織論やプロセス論にも影響され、ソリューションだけで解決できる話でもないのですが、ユーザー体験を向上させる工夫はまだまだあると思います。

--「Adobe Marketing Cloud」では、次の1年以降どのように取り組んで行きますか。

佐分利氏:営業に限らず、コンサルティングも含めて人材を増やしていき、より多くの業種や企業にデジタルマーケティングのソリューションを提供して参ります。それに伴ってパートナーとの取り組みも強化していきます。既存のパートナーの扱える製品の幅を広げていきますし、新規パートナーも増やしていきます。

--では、次にクリエイティブソリューションの「Adobe Creative Cloud」を振り返ってみて、この1年いかがでしたか。

佐分利氏:私が着任した時は、ちょうどサブスクリプションモデルに切り替わった直後でした。「補助輪がとれた直後」という言い方をしていたと思います。最初は正直苦労しました。市場の告知というか、サブスクリプションに変わりましたということ周知徹底しなければなりませんでしたが、とても時間がかかることでした。実は2014年の夏というのはWindows XPのサポートが終了するなど、外部環境的にいろいろなネガティブな面も重なりました。しかし出荷本数、あっ、出荷本数とはは言えなくなりましたね。クラウドサブスクリプション数は戻ってきて、過去最高数になりました。

 6月に発表した「Adobe Creative Cloud 2015」は、日本に適したリリースだと考えてます。まずマーケティングのメッセージでいうと、欧米では「クリエイターとしてのポテンシャルを最大限に引き出す」というどちらかというと感情に訴えかけています。日本市場は、そうしたメッセージは伝わりにくく具体性を好みます。「これを購入して使うと何が得なの?」といった話です。そのため、日本だけメッセージを変えていて、たとえば「Illustratorを使うと最新のリリース版ではPCのGPUを活用することで処理能力が10倍高まりました。つまり、スクリーンがフレッシュになるのが早いので、気持ちよく作業に戻ることができます」、あるいは「Photoshopは新しい補正フィルタが入っているので、ピンぼけしていてもそれをシャープにできます」といった感じで、具体的な機能を語ることによってユーザーにアピールしました。実際に取り入れた新機能の多くは、日本のユーザーが求めていることを反映させています。そういった点でも、Adobe Creative Cloud 2015は好評価を得ていると思います。

--Adobe Creative Cloudの今後は?

佐分利氏:日本では、クリエイターの祭典とも言える「Adobe Live -Best of MAX」を11月11日に開催しますので、これを楽しみにしてほしいですが、いまのところ半年に一度のペースで新機能を追加していく予定ですので、クラウドサービスとして引き続き充実したサービス、機能を提供して参ります。

 昔からある製品に関しては日本語化は進んでいるのですが、クラウドサービスの新しい製品はローカライゼーションが遅れている面がありました。これも大幅に改善し、モバイルアプリも同時リリースで日本語化されるようになりました。世界中のクリエイターが自身の作品を数百万件以上公開しているソーシャルネットワークサービス「Behance」はベータでリリースしてましたが、日本語バージョンを出しました。

--では、3つめで一番新しい取り組み分野である「Adobe Document Cloud」をこの1年間振り返ってみるといかがでしょう。

佐分利氏:以前のPDFとはまったく異なる発想ですので、ポテンシャルは大きいと思ってます。実際にビジネス的にも社内の目標は達成できました。PDFはどちらかというと、回覧やセキュリティを重視してきましたが、新しい「Acrobat DC」はもちろん回覧できますが、まずはモバイルをサポートし、紙文書をAndroidやiOSのさまざまな端末に対応させています。モバイルで写真を撮るケースが多いと思いますが、その場で文字認識をして、PDF化して、デスクトップで再利用するといった何段階かの作業を減らせます。ビジネス速度が速い現代において作業効率は上がり、情報やドキュメント共有が大幅に加速できるのは利点だと思います。

 もうひとつ大きいのは電子署名の「e-Signサービス」ですね。日本では署名や印章など紙に固執したビジネス社会だと思われていますが、実際に市場調査すると紙に対するフラストレーションはものすごく高いのです。米国よりも高いのです。つまり、紙のやりとりについて「いい選択肢があればすぐにでも止めたい」という意向が高いのです。ですが、いざデジタル化するとなると「どうしていいかわからない」というのが日本の実態です。この辺をうまく伝えて、提案していきたいと考えています。

 ただし、ペーパーレスやデジタル化の訴求は地道な活動を続けなくてはならないでしょう。法律的に認められるかどうかという理解に時間がかかりますし、企業内の業務プロセスにも影響しますので、ITだけで動くプロジェクトではないのです。そのため、ユーザーに理解してもらい、実際に導入していただくにはどうしても時間を要すると思います。

--事業の柱である3つのクラウドをそれぞれお聞きしましたが、総合的に今後どのような展開を図りますか。4つめのクラウド事業が出てくる可能性はあるのでしょうか。

 各クラウド事業の長所を活かしながら次の展開を考えますが、基本的にはユーザーに継続して価値を提供していく方針ですね。たとえば、4Mの話をしましたが、2つのクラウドを活用しているユーザーが増えてきました。それをワークフローで体験していただくというシナリオはどんどん作っていきたいです。制作部隊からマーケティング部隊に、社内外であってもシームレスにつなげるというのは、アドビらしいシナリオだと思います。マルチクラウドを通じた付加価値を提供し続けていくことが、差別化にもつながるでしょう。

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