「近未来」という言葉でみなさんは何を思い浮かべますか――メガネ型ディスプレイ、指紋認証、音声認識、ドローン、ロボット、それから宙に浮くホバーボード。
ほかにもいろいろとイメージは湧きますが、これらはどれも1989年製作の映画「バック・トゥ・ザ・フューチャー パート2(BTTF PART II)」の中で、2015年の未来の生活として描かれたものです。試作品段階のものも含めれば、映画の中で描かれた未来がかなり近づいてきましたよね。
バック・トゥ・ザ・フューチャーの中で描かれたもう1つの未来が、自動紐結び機能付きスニーカー「Nike MAG」です。
マイケル・J・フォックス演じるマーティ・マクフライが足をスニーカーに入れると自動で靴紐が締まって「NIKE」のロゴが蛍光色で点灯します。2011年には、自動紐結び機能はありませんが、映画で使用されたNike MAGのレプリカが1500足限定で製品化されました。
そして、映画の中で未来の舞台として設定された2015年10月21日がとうとうやってきます。ナイキが年内の発売に向けて準備を進めているとの報道もありますので、目が離せません。
製品の詳細は発表を待つとして、ナイキはNike MAGを実現するためのテクノロジについて、いくつか特許出願をしていますので、そのうちの1つをみてみます(米国特許第8528235号)。
映画では、足を入れてストラップ(150)、続いて靴紐(点線)が締まるとロゴ(206)が点灯するというフローしか分からないのですが、特許出願では、実現するための内部機構の一例が明らかにされています。ソール(104)部分に点灯制御ユニット(240)、圧力スイッチ(266)などが格納され、足を入れるとボタン(267)が押し込まれて圧力スイッチ(266)がオンになります。
オン信号が圧力スイッチ(266)から点灯制御ユニット(240)に送信されると、点灯制御ユニット(240)は自動締め付けシステム(291)によるストラップ(150)および靴紐(点線)の締め付けと、ロゴ(206)などの点灯を制御します。
映画が1989年に公開されたときは外観のみでしたが、この特許出願(出願日【優先日】2008年5月2日)では内部機構が具体化されていて、2013年に特許権が成立しています。
米国特許庁の審査では映画の存在も考慮されていて、映画以上の内容が特許出願には開示されていると判断されたことになります。日本でも、米国よりは少し狭い範囲になっていますが特許権が成立しています(特許第5460695号)。
実際にNike MAGが発売されたら、内部機構はさらに開発が進んでいるかもしれません。それでも、特許出願は未来のコンセプトが水面下で現実になっていくさまを垣間見ることのできるヒント。そんな視点で特許出願をみてみるのも面白いかもしれませんね。
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大谷 寛(おおたに かん)
弁理士
2003年 慶應義塾大学理工学部卒業。2005年 ハーバード大学大学院博士課程中退(応用物理学修士)。2014年 2015年 主要業界誌二誌 Managing IP 及び Intellectual Asset Management により、特許分野で各国を代表する専門家の一人に選ばれる。
専門は、電子デバイス・通信・ソフトウェア分野を中心とした特許紛争・国内外特許出願と、スタートアップ・ベンチャー企業のIP戦略実行支援。
Twitter @kan_otani
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