孫正義氏、新たな「3つの成長分野」で情報革命に挑む

 ソフトバンクは7月30~31日の2日間にわたり、法人向けの大規模イベント「SoftBank World 2015」を開催中だ。初日の基調講演では、ソフトバンク代表の孫正義氏が登壇し、同社の今後の成長戦略について語った。

 2014年8月に子会社の米スプリントによるTモバイルUSの買収を断念。また、日本国内では携帯キャリア3社からiPhoneが発売されるなど、モバイル事業において以前と比べると競争力が落ちているソフトバンク。そんな同社が、新たな成長分野として注力しているのが「IoT」「AI(人工知能)」「ロボット」の3つだ。


ソフトバンク代表の孫正義氏

「IoT」--あらゆるモノがつながる世界

 1つ目が、あらゆるモノがインターネットにつながることを意味する「IoT(Internet of Things)」。現在は1人あたり平均2つのインターネットデバイスを所有しているが、30年後の2040年には1人あたり1000デバイスを持つようになると孫氏は予想する。「人間の人口よりも多い10兆個のデバイスがインターネットにつながり、あらゆる情報がクラウドに集まる。これらのビッグデータをクラウドで分析することで新たなビジネスモデルを構築できる」(孫氏)。

 たとえば、インターネットにつながった椅子に座るだけで、クラウドに送られたデータを分析して、病気を発見したり、姿勢を矯正したりできるようになる。また、この椅子が冷蔵庫やヘルスメーター、さらには歯ブラシなどあらゆるものと連携することで、生活者の健康をトータルに支援できる社会がくると語る。

  • ソフトバンクが注力する3つの成長分野

  • 1人あたり1000デバイス以上持つ時代がくると孫氏

  • 椅子がネットにつながることで健康管理ができる

 「冷蔵庫の食品をリアルタイムに管理し、賞味期限が切れそうになると冷蔵庫が自動で指示して、翌朝には新しいミルクが玄関に届く。1人の人間が家族や同僚とコミュニケーションするように、人とモノがつながり、モノとモノがつながる。これらを活用する家庭や自治体は医療費が安くなるといった、病気をしにくい社会が誕生する」(孫氏)。

 「IoTは本当に広がるのか」と疑問視する声も多い。これに対し孫氏は、当初は日本では見向きもされなかった「iPhone」が、いまでは日本で最も売れているスマートフォンとなり、人々のライフスタイルを変えていると指摘。IoTはそれ以上の可能性を秘めていると語り、ソフトバンクグループやパートナー企業とともにIoT領域に挑戦していきたいとした。


「AI(人工知能)」--IBMとWatosonを日本展開

 2つ目が「AI(人工知能)」。ソフトバンクは2月にIBMと提携し、人工知能「IBM Watson(ワトソン)」の開発と日本展開を共同で進めることを発表した。Watsonは、膨大なデータを分析することで、自然言語で投げかけられた質問の内容を解釈して、根拠に基づいた回答を提示する質問応答システム。両社は、Watsonの日本語化を進めている。

 孫氏は、コンピュータのトランジスタの数は“ムーアの法則”によって増え続け、3年後の2018年には人の脳細胞の数である300億を超えると予測。それにより、銀行の融資担当者やホテルの受付け、簿記や会計といった事務など、半数近い業種・職種が30年以内に人工知能にとって代わられると話す。

  • あと3年でトランジスタの数は人の脳細胞を超えると孫氏

  • コンピュータによって自動化される仕事

  • 人工知能が得意なこと、苦手なこと

 ただし、悲観的になる必要はなく、それにより人々はよりクリエイティブな活動や、未知の課題の解決に注力できるようになると付け加えた。「人間が当たり前のようにやっている作業の多くは、良い悪いは別にして、(人工知能に)置き換えられる時代がやってくる。そこで人工知能が苦手なことを、人間がもっと磨いていけば良い」(孫氏)。

「ロボット」--Pepperは法人向けに展開へ

 3つ目がロボット。ソフトバンクは6月から世界初の感情認識ロボット「Pepper」を一般家庭向けに発売した。まずは1000台限定で受付けたが、販売からわずか1分で完売するなど注目度は高い。7月分の1000台は7月31日に販売する。

 孫氏は、2040年には100億台を超えるロボットが地球上に存在し、それらはいずれも人工知能を搭載したロボットになると予想。その歴史の第一歩となるのが感情を認識できるPepperだと強調した。「ほとんどの科学者は、機械に心を持たせるなんてSFの世界だ、無謀だと言ったが、我々はついにロボット史上初めて心を持ったPepperを発売した」(孫氏)。

  • 家族など周囲の環境で感情が変化する

  • ニュースや天気予報など外部情報も感情に影響

  • Pepperの感情認識の仕組み

 Pepperは、「手をさわられた」「誰々がこちらを見続けている」などセンサによって取得した外部情報を瞬時に分析。表情などから、ドーパミンやセロトニンなど人の内分泌物質の状態を予測し、相手の感情がポジティブなのか、ネガティブなのかを理解する。IBMの人工知能「Watson」を搭載し、認識の精度をさらに上げる取り組みも進めている。

 同日には、法人向けモデルである「Pepper for Biz」の申込み受付けを、10月1日に開始することも発表された。受付けや店舗での声かけなどビジネスに活用できるアプリを搭載しており、自社向けのカスタマイズアプリの開発や、複数のPepperの一括管理などもできる。月額5万5000円のレンタルプランで提供するという。すでに、ネスレ日本やみずほ銀行など、一部の企業で導入されていたが、10月からより大規模に展開する。

  • 商品を見せて、実際にPepperから説明を受ける孫氏

  • 「Pepper for Biz」のサービス内容

  • 月額5万5000円のレンタルプランで提供

コンピュータが人を超える「シンギュラリティ」

 今後の注力分野として、「IoT」「AI(人工知能)」「ロボット」を挙げた孫氏だが、これらによって実現したい“情報革命”は、単なる生産性の向上や企業の成長だけではないと話す。それは、コンピュータが人間の知能を超える瞬間である「シンギュラリティ(技術的特異点)」への対応だ。

 「コンピュータの知能が人類の知能を超える日はあと数年でやってくる。まずはハードウェア、そして次にディープランニング(深層学習)。我々の未来は進化か破滅か。私は情報革命は人々を幸せにするための革命だと思っている。人間より賢くなるからこそ、彼ら(ロボット)に心を持たせたい」(孫氏)。


 ソフトバンクの情報革命は始まったばかり——そう言って孫氏は講演を締めくくった。

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