6月17~18日に開催されたイベント「Google Atmosphere Tokyo 2015」。“「働き方のこれから」が、ここで見つかる。”をテーマに、モバイルやクラウドなどのテクノロジを活用した新しい働き方を探るイベントだが、2日目には全日本空輸 ANA業務プロセス改革室 イノベーション推進部 主席部員の林剛史氏が「ANAが取り組むワークスタイルイノベーションの成果」と題して講演した。
激動の時代と言われる航空業界で新規路線の開拓や国際線の増便など、新たな経営戦略を推進している全日本空輸(ANA)。講演した林氏は、同社内に設置された業務プロセス改革室で、全社の働き方改革の旗振り役として業務にあたっている。部署が誕生した背景には、やはりグローバル化の強化などで横断化、多様化している経営課題を解消していくために、組織を挙げて全力で取り組むことが必要と判断されたからだ。
同社の国際線における外国籍の乗客は、現在は約40%だが、2016年度はこれを50%にまで引き上げる目標を掲げているという。林氏は「これまでは企業側が顧客はこういう人たちだと設定して、サービスはこういうのがいいだろうというやり方で進めてきた。しかし、グローバルな展開が進むと、顧客のニーズも多様化し、主導権は顧客の側に移っていると考える。多様な顧客のニーズに応えるために、社員はより広い視野や視点を持っておかねばならないという危機感がある」と語る。
一方で、スマートフォンの普及など、顧客自身が自分のデバイスを使って、いつでもどこでも自分のペースでチェックインするなど、手続きのセルフ化が進んできている航空業界。だからこそ、人との接点のある人的なサービスでは、要望に対する、よりパーソナルでシームレスな柔軟性の高い対応が求められているとも分析する。
そこで重要になってくるのが、やはり主体性と労働生産性。しかし、ワークスタイル改革を始める前は、社内の状況はとても悲惨だったと林氏は振り返る。
その1点がデスクでなければ業務ができないこと。「メールすら外で見られなかった。会社のファイルも会社のデスクでしか見られないため、外出しても戻ってこないと仕事にならなかった。顧客に接するフロントラインのスタッフも情報はオフィスに取りに戻るという非効率な状況が習慣化されていた」と林氏。
さらに、働き方が日本的であるという問題。「努力と根性で乗り切るというのがベースにあって、海外に出ると控えめになってしまうという傾向が当社にもあった。海外拠点がどんどん増えていき、そこで働く人も増えているなかで、海外との環境の格差も大きかった。海外のスタッフが日本と同じ情報を同じタイミングで、同じレベルで見られないという状況が少なくなかった」としている。
そして「社員の意識が受け身的であった」と指摘。「プライベートでは皆コンシューマーITを使っいるのに、会社に入るとできなくなるというケースが多かった。情報は与えられるまで待つという習慣が根強かった」と自省の念を表す。
「このような働く環境で仕事をしていては、社員の意識や行動は変わらず、発想は広がっていかない」と危機感を持ったANAでは、3つの目指すべきワークスタイルのキーワードを定義したという。
1つ目が“ワークライフバランス”。生活部分を充実させることによって労働生産性も上げていき、本業に注力できる時間をつくるという考え方だ。
2つ目が“ダイバーシティ・インクルージョン”。「グローバルを目指す以上、社員構成はますます多様化し、価値観も当然異なる中で標準化ではなく、違いを尊重し、最大限に生かして、成果を出していく。そういうことが今、問われている」と林氏は説明する。
そして3つ目となるのが“チェンジ”。社員一人ひとりの意識改革が必要で、「それぞれが頑張っていると考える中で、その中に潜む不足点を自ら気付いて課題として認識し、発信し、それを組織が受け止めて解決していくというサイクルやプロセスをしっかりつくっていくのがグローバル競争を戦う上で大切なワークスタイルである」と主張する。
3つのポイントにアプローチするためには、3つの方面から行うべきだというのが林氏の見立てだ。“意識、制度、環境”がそれである。「よくツールがあれば変わるんじゃないかという考え方があるが、ワークスタイル変革はツールの問題ではない。社員がしっかり危機感を持ち、目指すべき方向に向けて意識を調整していくことが一番大事」と林氏。制度は社内に風土やカルチャーをつくると言う意味で大切で、それを支える意味で初めて環境という方面に辿り着くというのだ。
「ワークスタイル改革を確実に実行していくには環境だけでは不十分。カルチャーや風土を変えていくために、当社では人事総務系とがっちりタッグを組んで取り組んでいる」(林氏)というANAでは、人事総務系が主導となり、安全面や顧客の視点、チームスピリットなどすべての行動の原点となる冊子を作成し、全社員に配っていると説明。そのほか、共同で定期的に働き方改革会議を開催したり、協働して進めていると明かした。
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