ベンチャーキャピタル(VC)から投資を受けることは、創業後急速に成長していくというスタートアップの定義そのものといってよいですが、そこで必要になるのが「事業計画書」。
事業計画書に書くべき内容は交渉するVCによって若干異なるものの、おおむね以下の4つに整理することができます。
これらのポイントについてしっかりと説得力ある説明ができるかどうかが大切です。
この中でビジネスモデルに注目してみると、サイバーエージェント・ベンチャーズ代表の田島 聡一氏が執筆された「起業前に知っておくべき!事業計画書で失敗しないための5つの注意点」という記事では、「課題設定」「プロダクト概要」「戦略」「マーケット」の流れで説明するとベンチャーキャピタリスト側は分かりやすく、特にどういった課題を解決できるのか、何が課題なのかを十分に説明できていないケースが多いと指摘されています。
また、「WhatsApp」「Instagram」「YouTube」に出資し、インターネット黎明期には「Google」「PayPal」「Yahoo!」に出資してきたセコイア・キャピタルのウェブサイトでは事業計画書に書くべき10項目が挙げられています。ビジネスモデルに関連する項目としては、「課題」「解決手段」「なぜ今なのか」「市場規模」「競合」「プロダクト」「収益モデル」の流れでの説明が望ましいとされています。特に、顧客が今感じている痛み(the pain of the customer)を最初に説明することが求められています。
こうしてみると、スタートアップが事業計画を立て、それをVCに説明するためには「顧客の課題は何なのか」を徹底的に突き詰めておくことが必須であることが分かります。
そして、これって特許出願のプロセスで考え抜かないといけないポイントでもあるのです。
少し連載の復習をしますと、何かを解決するための新しい視点が「発明」です。その「発明」を国に申請する手続きが「特許出願」です。国の審査を受けて通過すると「特許権」が与えられます。
ですので、特許出願をするためには、みなさんのスタートアップが提供(しようと)するプロダクトを「発明」という切り口で捉えることが必要となります。つまり、ターゲット顧客はどのような課題を抱えているのか、そしてそれをどういったアプローチで解決していくのかを言語化していく、これが特許出願のプロセスになります。
特許出願をする上で特徴的なのは、1つの出願の中で設定する課題は1つに絞り込むという点です。実際のプロダクトには解決課題が複数あって、それらをすべて満たして初めて顧客ニーズも満たされるという場合がほとんどです。しかし、特許出願では課題がブレていると権利範囲が狭く解釈されるおそれが高まるという背景もあって、通常は課題は1つに絞り込み、複数ある場合には必ず優先順位をつけることになります。これは意外に簡単ではなく、特許出願の準備をする過程で自社プロダクトの解決課題に対する理解が一段深まるということも珍しくありません。
ベンチャー企業が知っておくべきファイナンスについて解説した良書「起業のファイナンス」に以下の一節があります(増補改訂版136ページ)。
成功する事業家というのは、こちらが「この営業を行うのに何人くらいスタッフが必要なの?」「この技術はどうやってクリアするの?」といった質問をぶつけても、たちどころに「なるほど」という答えが返ってくることが多いです。
逆に、事業の根幹に関わる部分について、「ええと……」と詰まってしまったり、「それは考えてませんでした……ね」といった答えが返ってきたりする場合は、あとから見ても成功していないケースが多い気がします。
スタートアップの特許出願を支援していても、同じ印象を受けます。
「解決課題はどういう感じですか?」「それってマストですか?」という質問をぶつけると、1つに絞るという意味で特許出願上の課題設定は特殊なプロセスなため、即答できるケースは多くはありません。ですが、きちんと考え抜いて結論を出してくれるチームは、後から見てもシリーズA以降のVCからの資金調達が上手くいっているようです。
面倒な書類作成。そんなイメージもありますが、実は事業計画を立てるプロセスとの共通点もある特許出願。事業計画を立てる時のように、未来に対するイメージを深めていく時間として、ぜひ楽しんでみてください。このようにして生まれた特許出願は、ビジネスモデルをしっかりと支える経営資源になっていきます。
ご質問ありましたら Twitter(@kan_otani)で。
大谷 寛(おおたに かん)
弁理士
2003年 慶應義塾大学理工学部卒業。2005年 ハーバード大学大学院博士課程中退(応用物理学修士)。2014年 主要業界誌二誌 Managing IP 及び Intellectual Asset Management により、特許分野で各国を代表する専門家の一人に選ばれる。
専門は、電子デバイス・通信・ソフトウェア分野を中心とした特許紛争・国内外特許出願と、スタートアップ・中小企業のIP戦略実行支援。
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