スポーツはテクノロジの力によってどうイノベーションしていくのか。この連載では、スポーツトレーナーの視点から、海外を中心とした最先端の知見と事例を紹介する。今回は「スポーツ×LED」をテーマに、LED光を使って体内の乳酸閾値を計測、フィードバックする「BSX Insight」を紹介しよう。
2014年3月にKickstarterでの募集を開始して、わずか1カ月でファンドレイジングを終了させたBSX Insightがいよいよ出荷される。
スポーツトレーニングの効果は、限界をどこに設定するかに密接に関係している。筋力の限界点を突破するために、トレーニングに励むことで筋繊維が破壊されれば、超回復によって筋力の向上を期待できる。Vo2Max(最大酸素摂取量)の限界を知ることでも有酸素トレーニングの限界に挑むことができる。トレーニングコーチが設定すべきいくつかの限界のひとつに「乳酸閾値」がある。
アスリートを自称する人は多いが、「乳酸閾値」を説明できる人は少ない。乳酸とは、運動のエネルギーのもとになるATP(アデノシン3リン酸)の合成に必要なエネルギーを得るプロセスで生成される代謝産物のことだ。
乳酸閾値を簡単に説明すると、乳酸を血流が排出する速度よりも、生産する速度が上回った時の値のことだ。乳酸閾値に達すると、脚が重くなったように感じたり、筋肉に痛みが出たと感じるようになる。
乳酸閾値を計測するには、運動中に繰り返し筋肉中の要素を分析する必要がある。一般的には注射針と研究室が必要で、とても個人のアスリートがリーチできるものではない。ヒューストンに本拠地をもつBSX Insightのチームが開発に成功したのは、この障壁を取り去るウェアラブルデバイスだった。
BSX Insightには、LEDの発射口があり、ふくらはぎに照射することで筋繊維中から毛細血管、脂肪組織層までを見透かすことができる。
1秒間に数回照射することで、皮膚下でリアルタイムに起きていることを分析できるという。開発のきっかけになったのは、2009年にJournal of Strength&Conditioning Researchにおいて発表された「赤外分光法を用いて被験者の運動の最高強度を測定」するという論文だ。
BSX Insightは乳酸閾値のほか、ペースやスピード、心拍数、走行距離、カロリーも同時に計測できる。創業者のダスティン・フレックルトン氏は、BSX Insightのフィードバックをすべてのトレーニングプラットフォームで受け取れるようにするつもりだという。
Bluetoothを用いてスマートウォッチと連携することで、リアルタイムに乳酸値のフィードバックを得ることができるため、コーチからより的確な指導を受けられる。さらに、トレーニング後に分析を受けることで、自分でも成果を確認できる。
BSX Insightは、アスリートが限界に挑戦するための、究極のパーソナルトレーナーデバイスと言えるだろう。
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渡邊拓貴(わたなべ ひろき)
2012年カリフォルニア州立大学運動生理学科卒業。早稲田大学スポーツ科学部4回生。専攻はアスレチックトレーニング。ロンドンオリンピックでは障害馬術競技選手の専属トレーナーとして帯同する。以降トレーナーとして各地で活動。
スポーツがテクノロジにもたらすイノベーションをテーマに専門メディア「SportTechBros」を創設。
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