6月10日は「時の記念日」──カシオは1970年代から発売してきた多機能時計を一挙に見られる特別展示を東京・成城にある「樫尾俊雄明記念館」で開催する。7月24日までの期間限定だ。公開に先駆けて、プレス向けに説明会を開催した。
Apple Watchの発売を受けて、いまスマートウォッチが注目を集めている。カシオは、1974年に世界初のオートカレンダー付き時計「QWO2-10」を発売したのを皮切りに、対戦ゲーム、電話、健康・フィットネス、テレビ・リモコン、放射温度計測機能を備えたものまで、数々の多機能時計を手がけてきた。
現在のスマートウォッチが有する機能は主に、(1)スケジュール管理など便利さを追求する「ビジネス」、(2)GPS、温度・気圧などの「アウトドア」、(3)音楽再生やカメラなど使う楽しさを広げる「エンターテインメント」、(4)脈拍計や血圧計、活動量計など「健康・フィットネス」──の4つに分けられると説明する。
カシオ 取締役 専務執行役員 時計事業部長の増田裕一氏は、この4点について「よく考えてみると、技術や手段は稚拙かもしれないが、実は80年代、90年代にカシオが出した製品にコンセプトだけは先行して入っている。数十年前から情報機器をつける場所として一等地は“腕”だと考えており、時刻だけではなくさまざまな情報を測定・表示する時計を開発してきた」と語った。
例えば1987年にはワンタッチで電話がかけられるフォーンダイアラー時計「DBA-80」といった変わった製品もリリースしている。その当時のものなので、もちろん時計で直接通話ができるわけではない。時計を電話の受話器に近づけ、あらかじめ登録しておいた番号のプッシュ信号を「ピッポッパ」と発信することで、簡単に電話がかけられるというもの。プッシュ回線の特性を生かした製品だった。
増田氏は「1978年にカシオに入社し、そこからずっと時計事業を担当してだいたいの製品に携わっている。例えばフォーンダイアラーは、海外から突然大量のオーダーが入ってきた。量産したが、これを使うと電話代がタダになるという国があったからだと分かり、途中で止められて在庫になってしまった」など、エピソードを交えながら数々の多機能時計を振り返った。
実はこれらの製品の開発の背景には、コンセプトよりも技術が先行してあったのだという。「当時は70年代、80年代、90年にかけて、半導体が進化していた。電子デバイスにおいてカシオは技術を先取りするという考え方で、後からコンセプトをつけてやってきた」(増田氏)という。
一方でビジネス面でも、連結売上げで700億円までは届くが、なかなかそれ以上を超えられない時期が続いていた。それを打ち破ったのは、ファッション的な要素を入れて成功した「G-SHOCK」の大ヒットだ。一時期は1500億円に達した。
カシオが多機能なデジタル時計を手がけた経験から学んだことは、「毎日使う『時計』らしさの重要性」なのだという。
多機能時計は、「ガジェットとしておもしろいという方もいるが、一般コンシューマである消費者のメインストリームからしてみればクセが強すぎる。ガジェット好きの層までしか広がらなかった。だけどおもしろいね、という状況を何十年も繰り返してきた。われわれとしては、考え方を変えなければいけない。この中から得た資産、ノウハウがある。今のままでは事業が拡大しない。そのノウハウをベースにして、多機能デジタルから高機能アナログウォッチに転換していこうというのが2004年」と説明した。
その高機能アナログ戦略が成功し、カシオは2014年度に過去最高となる売上げを達成している。
これまでカシオが展開してきた多機能デジタルは、時計単体で完結させる必要があったため、操作の複雑化やデザイン面でも悪影響を及ぼすことがあったという。
一方で高機能アナログは、これまで培ってきた技術をもとに、時計の基本的な機能性を高めていくという考え方だ。たとえばソーラー電池を導入すれば、自動的に充電でき、電池交換を考えなくても済む。また、電波やGPSによって自動的に正確な時刻が得られる。さらに、スマートフォンとのリンクによって、時計単体で操作するよりも簡単に操作ができるようになる。
例えばカシオが展開する「EDIFICE(エディフィス)」は、スマートフォンから操作し、世界300都市のワールドタイムに簡単に切り替えられる。
しかし、一見アナログに見える文字盤の裏には、時・分・秒針を独立して運針できる「5モータードライブ」を搭載するなど、最新のテクノロジが詰め込まれている。2都市の時刻を同時表示する「デュアルダイアルワールドタイム」もそれらのテクノロジによるものだ。さらに高機能を搭載しながら、タフソーラーにより電池交換も気にせずに済む。
「いまは汎用の電子部品が数多くそろっているので、誰でも組み立てられる世界。同じことをやっていてもダメだ。Apple Watchはスマートフォンがあって、そのアクセサリとしてあるもの。スマートフォンをヘビーに使う人にはきちんとしたベネフィットがそこにある。でも、消費者のメインストリーマーではまだ入り込めないだろう。生活に密着した本当に必要なキーフィーチャーがでてこないと難しいと思う。単純にカシオがその中でやっても飲み込まれる可能性がある。だから、時計事業としては高機能アナログのアプローチを続けていく」(増田氏)
スマートフォンを“主”にし、時計を“属”にする他社のアプローチに対し、カシオは時計を“主”にし、“属”をスマートフォンにするとした。
またこれらの高機能アナログのアプローチを展開しつつ、新規事業としてリストデバイスも開発中だ。5月に行われた社長交代会見で、2016年のCESで「あくまでも時計らしい端末を出す」と明らかにしており、カシオならではのスマートウォッチを発表する方針だ。
「明確に分けているのはプロジェクト。われわれがやっている“時計の常識”が邪魔する場合があるからだ。なにがお客様に本当に受け入れられるか。AndroidWareを搭載したものが一昨年からでているが、まだ成功していない。アップルは出だしはいいが、今後どうなるかわからない。これまでのカシオの経験を生かしながら、時計らしさを共有財産として集中していきたい」(増田氏)
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