目線追跡機能のあるVRヘッドマウントディスプレイ「FOVE」を開発するFOVEは5月19日、米国のクラウドファンディングサービス「Kickstarter」を利用した資金調達を開始した。目標額は25万ドル(約3000万円。1ドル=118円の計算)で、調達資金は端末の量産に充てる。349ドル以上を出資した人を対象に、端末を割引価格で購入できる機会を設けている。
FOVEは、視線追跡機能と動作追跡機能を組み合わせることで、装着者が頭と目の両方を使って、仮想現実世界を上下左右360度自在に操作できるようにしたヘッドマウントディスプレイ。“目で見ている三次元上の座標”をアイトラッキングにより特定することで、「見つめたところがはっきり見え、見ていないところがぼける焦点表現」を実現している。
FOVEの当初の主な利用用途は、ゲームやインタラクティブシネマ(映画のようなシナリオと映像演出があり、プレイヤーが自ら操作してストーリーを進められるもの)など。現在は、コンテンツデベロッパーと共同でFOVEに対応したコンテンツの準備を進めている段階で、2015年夏頃をめどに、第一陣の開発パートナーに開発者キット(SDK)を提供する予定だ。なお、FOVEのプラットフォームはUnity、Unrealエンジン、Cryengineを使って開発されたコンテンツと互換性があるため、既存のVRコンテンツをFOVE環境に移植しやすいという。
記者はFOVEを使ってモンスターを撃ち落とすゲームを10分ほど試遊した。解像度2560x1440ピクセルのディスプレイに映し出される“世界”は没入感が高く、視線を使った操作の精度も高い印象。短時間のプレイで酔うことはなかった。やや目が疲れたが、視線の操作に慣れれば快適にプレイできそうだ。
同社では今後、医療や教育、観光、会議といった場面での活用も見込んでいる。これまでにも、FOVEの機能を使って手や腕を使わずに目線だけでピアノを演奏できるシステム「Eye Play the Piano」を開発し、肢体不自由児を対象とする筑波大学附属桐が丘特別支援学校で披露している。当日は同校終業式後のクリスマスコンサートで、同校高等部2年(当時)の沼尻光太さんが同システムを使用して“視線”でピアノを演奏した。
量産するFOVE本体の重量は約400gを予定。ディスプレイの寸法は14.7cm、視野は100度以上、フレームレートは90fpsを予定している。カラーは白と黒。USB 3.0に対応させ、3.5mmのヘッドホン端子も実装予定という。
Kickstarterでの資金調達について、FOVEのCEOで共同創設者である小島由香氏は「VRユーザーに対して『視線追跡機能が必要かどうか』を問うものであり、視線追跡機能をVRの標準にしたいという私たちの目標が数年早まるかどうかの大きな挑戦でもある。これが、今後のVRの実用性を高め、市場をさらに広げることにつながればうれしい」と思いを語った。
FOVEは2014年5月設立。同12月にMicrosoft Venturesが主宰するロンドンの「Accelerator Program」を修了しており、「Japan - UK Startup Pitch Deloitte」、「SF Japan Night Final」などのスタートアップコンテストで優勝している。小島氏はソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE)で「PlayStation Vita」などのゲーム開発に携わった後、グリーで「探検ドリランド」のユニットリーダーなどを務めた経験がある。
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