4月7~8日に新経済連盟の主催で開催された「新経済サミット2015」。世界の経済と産業を牽引するキーマンたちが東京に集結して、次世代の産業とイノベーションのあるべき姿についてディスカッションした。
第1日目の「クラウドでオフィスの生産性をあげる! いまを代表するクラウドサービス経営者が語る」と題したセッションでは、クラウドによるオフィス生産性の向上の秘訣と、日本のオフィス生産性向上を加速させるために、どのように取り組むべきかを語り合った。
登壇したのは、多様なデータをメモとして整理するクラウドサービス「Evernote」を提供するEvernoteの最高経営責任者(CEO)であるPhil Libin氏と企業向けのファイル共有クラウドサービス「Box」のエンジニアリング担当シニアバイスプレジデントであるSam Schillace氏。モデレーターは、SOHO向けクラウド会計サービス「freee」を提供するfreeeの代表取締役で、新経済連盟の幹事でもある佐々木大輔氏が務めた。
オフィスワークの代表的なアプリでは、表計算ソフト「Excel」、プレゼンソフト「PowerPoint」、ワープロソフト「Word」などで構成される「Microsoft Office」シリーズが“オフィススイート”として広く使われているが、これは紙の書類を電子化しただけになっている。
「オフィススイートの画面を見ると、ディスプレイの大部分は、あれこれ印刷するためにデザインされており、ツール自体も紙としてふるまっている。しかし、実際には、大半の文書は印刷されることはなくなっており、特定の拠点で、特定のデスクに座ってオフィススイートで書類を作っても、コラボレーションに時間がかかってしまう」とEvernoteのLibin氏は語った。
英語圏では、オフィススイートのことをオフィスプロダクティビティスイート(オフィス生産性スイート:Office Puroductibity Suite)と呼んでいる。しかし、クラウドが実現する新たなワークスタイルでは、紙の書類の作成を効率化するのではなく、新しいワークスタイルの品質を向上させることに注力すべきだというのだ。
「情報のやり取りはすべてがミニサイズになった。昔なら、週に1度友達に電話するだけだったのが、より短い時間に、より短い内容でスナック菓子のようなコミュニケーションになっている。ネットワークが発達した現在なら、家庭でも電車でも仕事ができる。情報のやり取りや処理は、数時間、数日といった単位ではなく、数分という単位で1日に数十回、数百回と行われるようになっている」
BoxのSchillace氏も、この意見に賛同した。
「情報のトランザクションコストが下がったため、コミュニケーションの本来の役割に集中できるようになった。フォーマットにこだわる公式のやり方と比べて、正式な書類など気にしないやり方のほうが、スピードも速く、ノイズも少なく、短い時間で何度も情報をやり取りできるのだ。クラウドは、このようなワークスタイルをさらに推進していくだろう」
「クラウドの最も価値があるところは、開発者がお客様と毎日対話できる点にある」とSchillace氏はさらに語った。従来のソフトウェアであれば、出荷された後に実際どのように使っているのか調べることはできなかったが、「クラウドであれば、どのように使っているのか詳細にモニターできるし、ひっかかっている点があれば改善策を試すことができる。クラウドは、開発手法も根本的に変化させた。開発者は、お客様の使っている姿を学習し、アプリを永続的に改善していくことができる。このような手法は非常に強力なので、数年後には当たり前になるだろう」
Libin氏も、このような開発手法の変化について自分の考えを述べた。
「Evernoteの場合、見込み客を説得してサービスを使ってもらう余裕は初めからなかった。だから、それは自分たちの仕事じゃないと割り切って、生産性を向上できる機会をクラウドを理解している会社に提供することに注力した。これは、リソースと優先順位の問題だ。もしも100万ドルあれば、それを使って宣伝を強化することもできるが、同じ100万ドルを使ってサービスを改善した方が、すでに使っている人たちのビジネスは成功しやすくなるだろう。その成功から、他の企業は学んでいくはずだ」
本来、オフィスワークの生産性向上はドキュメント作成の電子化にとどまらない。マネジメントや管理部門がやるべきことの本質は、ビジネスの現状を見える化し、次の打ち手を計画、決断していくことにあるはずだ。しかし、日本の多くの企業や企業間の取引では、そのスピードは速くない。従来のオフィススイートは、丁寧に作られた書類で時間をかけて調整するために使われてきた。
このような状況を改善する可能性に気付いた人たちが、スピード感をもってビジネススタイルを変革し始めている。そして、彼らが大きな成果を上げ始めたとき、日本の経済活動のあり方が変わっていくに違いない。
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