デジタル端末を作るにあたって、Appleはさまざまな手法に挑戦してきた。そしてスマートウォッチのケース製造には、時計業界最新の製法を採用した。公式サイトの動画を見ればわかるように、ケースはプレスされ、その後すべての表面を削って歪みが取られている。パネライやグランドセイコーほど手間のかかる形状ではないが(そのためプレスは極めて容易だ)、製法はまったく同じだ。確かにプレスのち切削という手法ならば、素材は硬くできるし、歪みのない面も与えられるだろう。Appleがわざわざ「特殊な冷間鍛造プロセス」と自慢するはずだ。ただ筆者の見る限り、この製法は鍛造の可能なステンレスとゴールド素材(Apple Watch Edition)にのみ採用された。鍛造に向かないアルミケース(Apple Watch Sport)はMacBookと同じく、切削だけで仕上げたはずで、つまりはそれが、ステンレスとの価格差だろう。
ちなみに他のスマートウォッチのケースは、40年前の「スマートウォッチ」にほぼ同じだ。具体的には、素材の大部分にプラスチックを使うか、金属を使う場合も、プレスし、その表面をヤスリがけしたものが多い。それを示すように、ほとんどのスマートウォッチは、平板な造形とツヤのない筋目仕上げ入りケースを持っている。なるほど筋目仕上げならば、プレスで生じた歪みは消せるだろう。しかし歪みのない鏡面、つまり高級感を立体的なケースに与えるのは難しい。
初代iPod以降、さまざまなプロダクトに高級時計の仕上げと製法を盛り込んできたApple。実際Apple Watchを手に取った感想をいうと、ケースの仕上がりは、超高級時計もかくや、というウェブサイトの写真(あるいは画像)には及ばないが、かなり近い次元には到達した。それは多くの高級時計のケースを上回っているし、今後Appleは、さらに質を改善するだろう。多くの時計関係者が、LGやSamsung、ソニーやPebbleではなく、Apple Watchを脅威と見なすはずだ。
もちろん筆者はこの「時計」を、ケースの完成度だけで判断するつもりも、無条件に褒めるつもりもない。次回は時計としてのパッケージングと、ハードウェアとしての弱点、そして時計業界に与えるであろうインパクトを述べたい。
Apple Watchは高級時計の夢を見るか?(後編)--弱点とアップルが試みた「再定義」時計ジャーナリスト。
時計専門誌『クロノス日本版』主筆。国内外の時計賞で審査員を務めるほか、学会や時計メーカーなどでも講演を行う。一般誌、専門誌で執筆多数。
CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)