What's Ingress ?

Ingressの核心は「世界をよくするためには外に出ること」--川島優志氏インタビュー(前編) - (page 3)

別井貴志 (編集部) 井指啓吾 (編集部)2015年02月27日 07時00分

川島:それは初期の段階からあったと思います。以前東北地方でのIngressのイベントに行ったときに出会った昔からプレイしているエージェントの方は、Ingressを始めた時は周りに他のエージェントがいなかったというんです。ポータルもほとんどなくて、ハックをしにいって、レゾネーターを挿して、それが自然消滅する間にポータル申請をして、そしてまた挿しに行って……、というようなことをしながらレベル8に近づいていったというのです。初めてポータルが他のエージェントに壊された時は、嬉しそうにずっと、ずっとそこでプレイしていた、という話を聞いています。

 これもまた、コミュニケーションですよね。挿したら壊してもらえると。それがすごいと。でも、そういうような、言葉ではないコミュニケーションがIngressには発生していると思っていて、それが不思議と言葉以上に力を持っているようなところがありますよね。そこから個性が見えてきたりだとか。

 実際に、日本で初めてレベル16に達したirmare(イルマーレ)さんがスピーチで仰ってくれたのは、「Ingressの世界では、他人が不利になることをすると、自分も最終的には不利になる。他人が有利になることをすると、自分も有利になっていく」ということでした。

 そこでまたコミュニケーションが発生して、あの人はこういう人なんじゃないかなと考えたり。それはコミュニティの在り方として非常にユニークだしおもしろいと思いますね。

――COMMにメッセージを書かなくても、実はコミュニケーションをしているんですよね。

川島:そうなんですよ。初めてCOMMに書き込むのに、みんな存在を知ってたってこともあり得るでしょう(笑)。まったく新しいそういうことが、自分の身の回りの、この世界で繰り広げられているということが、Ingressのおもしろい、メディア芸術なのかもしれないですけど。見た感じはただの公園だったとしても、そこで実は激しい戦いが繰り広げられていて、それはIngressのスキャナーを持っている人にしか見えないのです。でも、それはバーチャルなものではなくて、いまリアルにそこにいる人たちによって繰り広げられている、っていうのが、とても不思議な体験ですよね。

――これまでAR(拡張現実)やVR(仮想現実)が散々言われてきましたけど、それらを本格的に実用したのがIngressだとも思います。もう1つ、今のムーブメントでいうと、自治体がIngressを活用する動きがあります。この動きについてはどこまで想定していましたか。

川島:実は自治体が研究会を自ら作って活動したというのは日本が初めてなのです。おそらく岩手県の例が世界で初めてだったんじゃないかと、ジョン・ハンケとも話して確認しています。

 実際に、岩手県が行動を起こしたことで、今だと横須賀市、中野区、陸前高田市など、さまざまな地域で連鎖反応的にそういうことが起こっています。日本はいま、世界の中でも、世界の他のIngressプレイヤーが見ることのなかったところに到達しようとしている感じがありますね。

――日本の都市は、数々のイベントランキングを見てもすごいですね。

川島:すごいです。たとえばアニメなどで町おこし、ということは以前からあったと思いますが、ある程度の効果が出たところもあれば、まったく効果が出なかったところもあると思うんです。アニメだと、そのアニメの中で、ある町が“聖地”として扱われたから、それをきっかけにして何かしらイベントをやろうってことがあると思います。でも、かならずしもその地域の人びとがみんなそのアニメを見ていて、知っていて、そのアニメが好きになっているわけではない場合もあるでしょう。

 Ingressのおもしろいところは、企画を立ち上げる自治体自体が、みなさん本気でIngressをやりこんでいることがほとんどなところ。自分が好きで、他の人にもその楽しさを味わってほしいということで、地元の人たちに遊んでもらう。外から人を呼ぶだけではなくて、地元の人たちがIngressを通して、地元が好きになっていく効果があると、アニメの例とは違うと思うんです。

 地域振興の切り口でよく取り上げられるんですが、自分の身の回りを知るというジョン・ハンケの思想。自分の身の回りのことを、みんな知っているようで知らないんです。こんなものがあったのか、と驚かされるというのがあって、それを認識することで自分の地元が好きになるということがあるわけです。

 それが地域振興では一番大事だと思っています。「外から自分の地元に来てほしい」というだけではなくて、まずは自分が、自分の地元をよく知ることから始めることが大事なのです。

 あとは、Ingressは自分の生活エリア以外の他の場所にも行くじゃないですか。「来てくれ、来てくれ」だけではなくて、他の地域に行くことも大事です。Ingressのプレイヤーは動くことが生活の一部になっていますから、「あそこでイベントがあるなら行ってみようか」という気持ちになるのです。これが本当におもしろい。


3月28日には公式イベント「Shonin(証人)」が京都で開催される

 ※後編では、Ingressが目指す収益モデルや、今後実装予定である新機能について聞いています。

CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)

-PR-企画特集

このサイトでは、利用状況の把握や広告配信などのために、Cookieなどを使用してアクセスデータを取得・利用しています。 これ以降ページを遷移した場合、Cookieなどの設定や使用に同意したことになります。
Cookieなどの設定や使用の詳細、オプトアウトについては詳細をご覧ください。
[ 閉じる ]