東南アジアに拠点をかまえる顧客企業を支援し、自らも事業拡大を図ろうと、進出を検討しているウェブ制作会社は少なくないだろう。そんな企業にとっては先人にあたる、「TAM(タム)」のシンガポール法人TAMSAM代表を務める藤原寛明氏に、市場の概況と同社の歩みについて話を聞いた。
求められる技術のレベルがさほど高くない小規模な案件と、反対に、求められる技術のレベルが高い大規模なものに二極化してきており、当社では主に後者の案件に積極的に取り組んでいます。たとえば、スマートフォンアプリや、セールスフォースなどのクラウドサービスとコンシューマー向けウェブコンテンツとの連携など。あつかう情報の管理に求められるレベルも高度化してきています。
日本国内でウェブ制作への需要は引き続きあるものの、企業におけるウェブ制作部門の内製化や、フリーランスのエンジニア、デザイナーへの発注の増加を背景に受託制作市場の縮小は避けられないことから、2012年8月にシンガポールに現地法人を設立しました。
以前進出していた香港に再度進出し、あらためて中国本土での事業拡大をねらうという選択肢もありましたが、一度目で独特の難しさを感じていました。次の国を検討した際に、ある程度の日系企業がすでに進出していて最初の錨(いかり)をおろしやすく、また周辺国にビジネスモデルを展開していくという観点からシンガポールを選びました。
自分たちの技術レベルは十分通用するという認識を持つと同時に、日本法人とあわせて120人という、他の制作会社と比較してあまりない規模感が顧客企業に安心感を与えていると実感しています。
2012年後半から2013年末にかけて、シンガポールに進出する日系のウェブ制作会社が増えましたが、2014年に入ってからは落ち着き、撤退する会社も現れ始めたように思います。
撤退する理由は、国単体で見たときに市場が小さく、それにともなって案件規模も小さくなり、結果として小さいパイの取り合いになるからだと推測します。また、制作の委託先を人の紹介で決めてしまう企業の担当者が多いことから、マーケティングを行っても効果が出にくいかもしれません。当社も一時期は、日系企業に対してテレアポや飛び込み営業を行いましたが、やはり効率はよくありませんでした。
外資系のグローバル企業が委託する規模の大きい案件はたしかに存在していますが、日系企業に関して言えば、東南アジアにおけるマーケティングの決定権を日本で握っている企業が少なくなりません。また、大企業はすでに日本で付き合いのあった総合代理店に委託するケースがあることから、中小規模の制作会社がそこに入り込むのは簡単ではありません。
制作会社の進出先としてシンガポールは、法人設立のハードルは低い点はおすすめします。また、ある程度の日系企業がいることから、2~3人の規模を維持していきたいと考える制作会社にはよいかもしれません。
採用で苦労しています。まず、これはよく言われることですが、一人あたりの勤続が短いこと。そして、人材のレベルと給与のバランスです。優秀な人材の給与がとても高すぎると感じています。シンガポールで採用するのではなく、日本で採用し、遠隔で働いてもらうという選択肢も現実的に検討しなくてはいけません。
2013年、2014年は日系企業に対する知名度を高めてきたことから、案件の問い合わせを定期的にいただけるようになりました。2014年から注力しているのが、エデュケーションテクノロジー。その一例が、Eラーニングシステムの開発です。すでに、中国のインターナショナルスクールで導入されるシステムの開発を行いました。将来的には、韓国の学校でも導入されることを見据えたものです。
シンガポールでは、2012年に政府主導でラーニングマネージメントシステムが導入され、多くの学校ではiPadも配布されました。当時は、利用できるシステムが民間3社に限定されていましたが、それが2014年に解放されたと聞きました。これを受けて、学校ごとにシステムをカスタマイズしたいなどの需要が高まってきていることから、本格的に参入していきたいと考えています。
この分野ではすでに、MoodleやILIASのような、カスタマイズしなくてもかなりの高機能を備えている、オープンソースのラーニングマネージメントシステムがたくさんあります。とはいえ、教育理念は学校や教師によりさまざま。当社では、このようなニーズに応えるためにシステムを各教育機関向けに最適化するための開発を行っています。
また、このシステムは学校だけでなく、企業の社内研修にも展開できます。一案件あたりの規模は、150~300万円。毎月コンスタントに受注していければ、この事業にフォーカスし他国への展開も検討する予定です。そのほかの案件も含めて、2015年1~12月で売上7000万円を見込んでいます。
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