新経済連盟は、失敗について学び、起業と経営のヒントを得ようという「失敗力カンファレンス」を東京・港区で開催した。パネル1では、「数百億の損失を乗り越える男たち」との表題で、GMOインターネット 代表取締役会長兼社長の熊谷正寿氏、SYホールディングス 会長の杉本宏之氏、USEN 取締役会長/U-NEXT 代表取締役社長の宇野康秀氏が鼎談、モデレーターは、慶應義塾大学大学院 経営管理研究科 特任教授 岩本隆氏が務めた。
冒頭で、岩本教授は失敗力を「失敗を、自身や社会のアセット(資産)にし、失敗によって蓄積したアセットをレバレッジして将来の成功につなげる力」と定義してみたいと提案。ビジネスモデルの創造は、ビジネスモデルの研究開発であるとの視点に立てば、「さまざまな失敗は、失敗ではなく、研究開発における実験データである。科学、技術を研究開発する世界では、失敗から大発見や大発明が生まれることも多い」とした。
次に、議論の軸となる項目として、岩本氏はまず“マインドマネジメント”を挙げた。「マイナスをゼロにするプロセスの中で、気持ちも毎日のように揺れ動くだろうが、自身の気持ちをどう奮い起こし、どう維持してきたか」ということだ。さらに“周りの巻き込み”についてを取り上げ、「うまくいかなくなると、周囲は冷ややかになりがちだが、そのような中、どのように周りを巻き込んでいったか」という点を提示した。
杉本氏は、不動産関連事業のSYホールディングスを率い、不動産業界では史上最速の上場を果たすなど順調な成長を遂げてきたが、リーマンショックの影響により逆境に陥る。その際の経験は、著書「30歳で400億円の負債を抱えた僕が、もう一度、起業を決意した理由」に記されている。「雑誌やネットで散々叩かれたが、あの頃、私は、good peopleに囲まれていた。(サイバーエージェントの)藤田氏や熊谷氏が励ましてくれた。マインドマネジメントを考えると、周りに、相談できる人がいることが重要になる」と語った。
GMOインターネットの熊谷氏は、IT分野で順調に事業を展開していたものの、金融関連企業を買収し消費者金融事業に参入したところ、社会情勢の変化、さらに法改正などがあり、結局は約400億円の損失を出してしまい、株価も大幅に下落した。この頃、熊谷氏は「毎日手帳にスケジュールを手書きで書き、弱気にならない、諦めない、と書き込んでいた」と話す。心の支えにしていたのだという。
USENの宇野氏は大阪有線放送社の創業社長だった父の後を引き継ぎ、さらに、動画配信事業の強化を重視してきたが、宇野氏の場合も、リーマンショックに直撃され業績が悪化、不採算事業の整理や財務圧縮などによる赤字処理に追われた。「辛かったのはリストラだ。悩ましいこともあったが。商売人のプライドとして、借りた金は返すことだけは維持していた」と語り、苦しかった時期を振り返った。
また、熊谷氏は「大失敗した時期には、社内の情報開示を徹底した。いまは苦境にあるが、未来は明るいのだと話した。その時、幹部は一人も社を去らなかった。社内はかえって結束して、幹部たちは問題解決に集中し、むしろ現場は成長した。裏切る人や、逃げ出す人がいた一方で、支えてくれた人もいた」と述べた。
さらに3氏とも、経営者が強くあるため、スポーツや体力つくりに腐心すべきであるとした。熊谷氏は「運動していないといけない。しているとしていないのでは、言葉の勢いが違ってくる」と指摘する。宇野氏はトライアスロンをしており、杉本氏は格闘技の経験もあるという。
日本では、一度失敗すると周囲の目は冷たくなり、人が離れていくことが少なくない。3氏は身をもってこれを体験しているわけだが、彼らが異口同音に語ったのは、人を信頼すること、孤高にこだわらず、いざというとき救いの手を差し伸べてくれる人物を常に見付けておくこと。気力を強化するための基礎となる体力の養成といった点だ。失敗というものの見方について、国内では依然、厳しい視線だけが浮かび上がり、その経験から学び、将来への糧としようとの発想はそれど強くないようだが、今後その意識はどう変化するのだろうか。
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