新製品の大量投入や海外ブランドの参入など、2014年もヘッドホン、イヤホンシーンは賑やかだった。「ハイレゾ」をまたとない契機と捉え、製品企画のコンセプトとして据えたものが数多く出回ったのはご存知のことだろう。
それに伴って、価格、性能などハイエンドにシフトする傾向にあった。逆に、ShureやAKGのような高価格モデルを有するブランドからカジュアルなラインも登場した。これによって製品の選択肢やバリエーションが広がったといってもよいだろう。既存のブランドが得意としている領域以外にも、積極的に攻勢をかけているのだ。
それはこの市場の隆盛を物語っている一方で、音楽を聴かせる装置としてある程度の到達点を迎えたともとれる。イヤホンでは複数のドライバを組み込む方式が、ヘッドホンでは振動板やイヤパッドの素材へのこだわりといった、これまでの技術をベースにした、マイナーチェンジ的な進化に止まっているからだ。
これからは、ヘッドホンアンプやハイレゾ対応のポータブルプレーヤーなどとの組み合わせを視野に入れた展開がなされるだろう。ただ、バランス駆動に対応したモデルの登場や、平面駆動型ドライバの密かな進化、さらにDACを内蔵したヘッドホンやスポーツ対応モデルの増加など、主役になるとは言わないまでも、このジャンルを面白くしてくれそうな気配もある。また、ユーザーの耳型を採取してオリジナルのイヤホンが作れる、カスタムインイヤーモニタ(IEM)も各社ラインアップを拡充し、取扱いショップの拡大も図っているのも印象的だ。
ここでは2014年に発表された各社の新製品の中から、モデルをヘッドホン5モデル、イヤホン5モデルの計10モデルを紹介する。前半となる今回はヘッドホン5機種を紹介する。
サウンドはもちろん、デザインにも徹底したこだわりを感じさせる「Fidelio」シリーズからは次々と魅力的なアイテムが登場している。オーバーヘッド型のハイエンドモデル「X2」もリリースされたばかりだ。
本機は、小型密閉オンイヤータイプ「M1」「のバージョンアップモデルである。ボイスコイルを軽量化し、レスポンスを高めて再生レンジを拡大させた。従来通り、マグネットにはネオジウムを採用。低反発フォームを用いたイヤパッドは適度な厚みと柔らかさがあり、フィット感は抜群だ。そのサウンドは、立ち上がりが速く、ボーカルは輪郭がくっきりとしているのが特長的。低域は力強さがあるが、盛り上がり過ぎることがないため中高域を邪魔しない。
2種類のカラーバリエーションが用意されており、M1MKIIBOはイヤパッドやケーブル、さらにヘッドバンドのステッチ部分にオレンジがあしらわれ、程よいアクセントとなっている。
AKGといえば老舗であり、かつスタジオユースやハイエンドモデルを数多くラインアップするブランドである。そこから思いもよらないカジュアルな製品群が2014年、お披露目された。Yシリーズ(ちなみにYはYoung proを意味しているそうだ)がそれで、ハウジングにロゴを大胆にあしらったアラウンドイヤーの「Y50」、DJ用のオンイヤー「Y55」、Bluetoothによるワイヤレス伝送が可能な「Y45BT」、そして本機Y40である。
オンイヤータイプの密閉型で、上位モデルと同じ40mmのドライバユニットを搭載する。またハウジング部は90度回転し、フラットにして付属のポーチに収納できる。メタリックなハウジングとマットなヘッドバンドというデザイン上のコントラストも面白い。ケーブルは左側片出しで、着脱も可能だ。サウンドはマイルドで耳に心地よく響く。重低音から高域までバランスよく聴かせるところに、エントリーモデルとはいえ、このブランドらしさを感じることができた。
AKGのYシリーズ同様、プロユースを得意とするブランドが取り組んだポータブルモデルが「SRH144」である。上位機とはまったく違う佇まいを有しているのもYシリーズと共通している点だ。本機はオンイヤータイプのセミオープン型。ドライバユニットは36mm。なお、兄弟機として密閉型の「SRH145」、さらにSRH145をベースにリモートマイクを追加した「SRH145m+」もラインアップされている。
装着の調整は、ヘッドバンドの内側にある溝にハウジングがマウントされており、それをスライドさせることで行える。シンプルなルックスを損なわないための工夫だ。また、ハウジング自体が傾く領域も大きいため高いフィット感を得ることができる。透明感の高さと音場の自然な広がりは、セミオープン型ならではのもの。特に女性ボーカルは伸びやかさと温かみが両立し、耳に心地よい。
ノイズキャンセルヘッドフォンといえばボーズ、と多くの人が連想するはずだ。それは30年以上に渡る研究開発に裏付けされた高いクオリティが製品に息づいているからにほかならない。
「QuietComfort 25」はその最新版で、コンパクトかつオーソドックスなアラウンドイヤータイプだ。だが、前モデルと比較してデザインはよりスマートに、カラーもブラックに加え、ホワイトも用意されている。軽量であり、イヤパッドも耳を優しく包み込むため長時間の使用でも疲れない。駆動は単4アルカリ電池1本。これで約35時間の連続使用を可能にしているという。
サウンド面では、設けたポートによって豊かな低域を創出する「TriPortテクノロジー」を搭載。これも同社が磨き上げてきた技術だ。ほかに音質補正技術「アクティブ・イコライザー」も採用されている。ボーカルは伸びやかでリアリティが高く、ベースやドラムスは確かな存在感があるが、濁ったり荒れたりすることはない。
ソニーは「MDR-1ADAC」、オーディオテクニカは「ATH-D900USB」というヘッドホンを、欧米ではフィリップスがアップルのLightning端子を搭載したモデルをリリースしている。いずれも内部にD/Aコンバータを搭載し、入力したデジタル信号をアナログ変換して音にするという構造だ。
しかし「ATH-DN1000USB」はUSB端子を備えつつ、「フルデジタルヘッドホン」を謳う。それはトライジェンスのデジタル信号処理技術「Dnote」を採用しているからだ。これは、ヘッドホンに入力されたデジタル信号にオーバーサンプリングとデジタル変調をかけ、複数のデジタル信号に変換し、それらが直接4基のボイスコイルを駆動。つまり音の限りなく最終出口までデジタル信号のままなのである。
これによってアナログ変換による音の劣化や、DACの性能によるカラーレーションも抑えることができる。世界初の試みであり、まだ本機しか登場していないが今後の普及を期待したい注目の技術である。
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