松村太郎が振り返る2014年のモバイル業界--実につまらなかった1年

 スマートデバイスの普及が進み、あらゆるビジネスの主戦場となりつつあるモバイル領域。2014年もさまざまなニュースが世間を賑わせましたが、モバイル業界に精通するジャーナリストの皆さんはどのような点に注目したのでしょうか。今回は松村太郎さんに、今年注目したモバイルニュースや、スマートデバイス、アプリなどを聞きました。

──2014年のモバイルニュースを3つ選ぶとしたら何ですか。

1.Android陣営内での変化

 2014年もますます、Androidが世界的な支配を強めていくトレンドが見られた。販売されるデバイスの85%以上がAndroid、という状況だ。しかしその内訳には変化があった。これまでSamsungが主導権を取ってきたAndroid陣営だが、中国のHuaweiとXiaomiの台頭により、Samsungの販売台数は前年同期比で700万台減少し、32%あったシェアもおよそ8%減らして24.4%にまで落ち込んだ。Samsungについては経営環境に対する影響も非常に大きく、純利益は前年比で49%の下落となってしまった。同社にとって、実につまらない1年だったはずだ。

 特にXiaomiの急成長には注目しており、低い利益率、というよりほぼ原価でデバイスを販売する価格競争力と、デバイスによってはSamsung製品よりも高い質感に仕上げるデザイン性の高さで支持を得ている。

2.AppleのiPhone偏重戦略

 カリフォルニアで暮らしていると、Appleが地元で非常に愛されている老舗企業であると同時に、トレンドセッターとしての役割と信頼を勝ち得ていることがよく分かる。そんな同社が、iPodやiMacをリリースした本社近くのフリントセンターで披露したApple Watch。2015年の早い時期に登場する予定のウェアラブルデバイスだ。

 PebbleやSamsung、Sonyなどが既にスマートウォッチをリリースし、Android Wear対応製品も充実するこの市場だが、やはりAppleがリリースするのを待っていた感がある。本当にその時代が来るのかは、Appleがやるかどうか。何ともつまらない話であるが、事実でもある。

 ちなみにApple的な「早い時期に」(Early)は、製品のリリース時期に合わせてモデルの識別用に用いられる言葉でもある。これが指し示す期間はおよそ1月から4月の間。4月は一部、「中頃」(Mid)と表現されることもあり、3月までのリリースに期待しておこう。

 Tim Cook氏がCEOに着任してからのAppleの戦略は、「世界に最も多数のAppleブランドを届けているiPhoneを生かす」ことだ。これもまた、実につまらない数字の上でもブランド的にもまともな戦略だ。

 Appleがまともなことを、あの規模で行うと、実に恐ろしい存在だ。なにしろ、ホリデーシーズンの四半期には6000万台とも7000万台とも予測される膨大な数のiPhoneを世界中に販売してしまうのだ。例えば、Apple Watchが1割の人に受け入れられるだけで、600万台から700万台となる。Appleが仕掛けているのはこうした数の論理なのだ。もちろん、なぜAppleがこれだけのiPhoneを売りさばけるようになったのかは評価すべきだし、真似することは難しいだろう。

 一方、こうした「ドライバー」を手に入れたAppleは、それを生かさない手はない。Apple Watchだけでなく、OS X YosemiteによってMacですらiPhoneと連携するアクセサリとして活用できるようになってきた。すべてをiPhoneと連携させる。確かにビジネスとして正しい。しかも使ってみれば、我々の生活を最も実直かつ実感が伴う形で、しかも簡単に変化させてくれる。ただ、「そうではない何か」への期待もまた求めてしまうのである。

3.T-Mobile--モバイルキャリアへの期待

 これは少し個人的なことだが、米国でのモバイルキャリアをVerizonからT-Mobileに乗り換えることにした。これまで夫婦2人で140ドル、通話700分、データそれぞれに2Gバイトというプランを契約していた。LTEの速度も速いし、VoLTEにも対応して、快適ではあったが高い。

 そうした中でT-Mobileは、「Uncarrier」というスローガンで、既存のモバイルキャリアの常識を崩し続けており、その魅力がいよいよ高まってきた。T-Mobileは米国のプリペイド系のモバイルキャリアだったが、Uncarrier戦略で最も勢いのあるブランドになった。SIMフリーデバイスを買わなければならないが、契約期間の制限はなく、解約時の違約金もない。さらに他社から番号ポータビリティで乗り換えると、端末の下取りは最高300ドルまで、中途解約金の350ドルをT-Mobileが負担してくれる。

 また、月額料金も安い。通話無料、SMS無料、データ3Gバイトのプランで月額60ドルだが、2台目はこれが40ドルになり、データが合計2Gバイト増えたのに100ドルで収まる。しかも、年末のキャンペーンで、2人で100ドルのプランはデータが無制限だ。ただ料金が安いだけでなく、データの繰り越しを行えるようにしたり、SpotifyやiTunes Radio、Beats Musicなどの音楽ストリーミングサービスを使用する際にはデータをカウントしない、といった仕組みを提案したりしている。

 もちろん安いに越したことはないが、顧客の利用動向を見ながら、ユニークなサービスを次々に打ち出すT-Mobileは、非常に魅力的に映る。もちろん契約者数が増えれば回線を圧迫する。設備投資とコストカットで吸収していくことになり、舵取りも容易ではなさそうだ。一方、日本はどうだろう。2015年にも導入されるSIMフリーの義務化で、T-Mobileのような面白い展開を行う大手キャリアは現れるだろうか。変化がなくジワジワと単なる値上げによる、ロイヤリティなき収益確保を続ける事態が来年も続いてしまうのだろうか。

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