“超高齢化社会”の日本に医療・介護SNSを--日本エンブレースの挑戦

 日本が「高齢化社会」と言われるようになって久しい。総務省統計局が9月に発表した調査結果によると、65歳以上の高齢者は3296万人で総人口の約4人に1人。さらに約8人に1人が75歳以上とされている。国立社会保障・人口問題研究所の推計によると、この割合はさらに上昇し、2035年には3人に1人(33.4%)が高齢者になる見込みだ。

  • 日本エンブレース代表取締役の伊東学氏

 そこで問題になるのが、高齢者の医療や介護だ。このまま高齢者が増え続ければ、病院での診察の待ち時間はさらに長くなるだろうし、ベッドが空いておらず入院を拒否される患者が増える可能性もある。そのため、国では在宅医療・介護へのシフトを急ピッチで進めており、従来の病院モデルからの脱却を図ろうとしている。

 「日本は“超高齢化社会”を世界で一番最初に迎える国だが、言い換えれば最初に課題に直面する国でもある。Facebookを始め海外発のサービスが存在感を高めているが、この領域では日本がアドバンテージを持てるチャンスがある」――こう語るのは、日本エンブレース代表取締役の伊東学氏だ。

組織をまたいだ「患者中心」の医療・介護SNS

 同社は2013年7月から、ソフトバンクテレコムとともに医療・介護専用の完全非公開型SNS「メディカルケアステーション」を運営している。医師、薬剤師、ヘルパー、ケアマネジャなどが、組織や立場の垣根を超えて担当する患者の診療やコミュニケーション情報をリアルタイムに共有できるサービスだ。

 患者を担当する主治医などが参加者を招待し、選ばれたメンバーはタイムライン上で発言できる。ITに不慣れなスタッフでも簡単に使えるよう、シンプルなインターフェースを採用している。また、患者の症状やX線の写真、連絡ノート、報告書などの文書ファイルもアップロードできる。PCだけでなくスマートデバイスでも利用できるため、外出先の患者宅から「発熱があります」といった情報をすぐさま共有可能だ。忙しい時は「了解!」ボタンで既読を伝えることもできる。


「メディカルケアステーション」のイメージ

 メディカルケアステーションでは、従来アナログで行われていた患者の情報共有を効率化できるが、最も重要な点はより密なコミュニケーションができることだと伊東氏は語る。「患者宅を訪問した介護士が『患者さんがイライラしていた。怒りたくないのに怒ってしまう。死にたいと涙を流していた』と書き込んだりする。こうした情報はこれまであまり伝わらなかった。それを知るか知らないかで、医師のモチベーションも変わってくる」(伊東氏)。

 患者が難病の場合、医師の判断でその患者や家族が参加できるタイムラインも別途設けることができる。「言葉を発することができず意思疎通ができない患者がSNSでは意思を明確に示すなど、医師もこれまで体験したことのないことが起きている」(伊東氏)。また容態が急変した際などにも、リアルタイムに状況を伝えられるため、臨機応変に対応できる。

  • タイムラインでは文章のほか、ファイルのアップロードもできる

  • 患者の心境なども共有できる点がSNSならではの特長だ

  • 主治医が参加してほしいメンバーを選んで招待する

 ただ、組織をまたいだサービスと聞くと気になるのがセキュリティだ。この点については、厚生労働省や総務省の各種ガイドラインに準拠したセキュリティ対策を施していると説明する。具体的には、暗号化に対応した通信や、アプリ連携におけるVPNの採用、招待・承認フローによるアクセスコントロール、施設ごとに活用する医療・介護情報に応じたネットワーク構成などによって、安全性を高めているとした。

 なお、医療・介護機関はメディカルケアステーションを無料で利用できる。これは、主にアプリパートナーから得られる収入などでサービスを運営しているためだ。今後は、専用のアプリセンターをサービス内に設ける予定で、医療・介護機関は各社が提供する、調剤薬局向けアプリや、在宅向け電子カルテ、予約システムといったさまざまなアプリを、アドオンを追加するように利用できるようになる。現在は70社が参加を表明しているという。また、既存のシステムとの連携開発などにも対応する。

栃木県と群馬県の医師会に採用

 伊東氏は、“医療IT”というと電子カルテを中心とした情報共有システムに見られがちだが、実際の医療機関での導入率は2~3割であると説明し、「7割の医師はもっと画期的な電子カルテでなければいらないと言っているに等しい」と指摘。そこで電子カルテに依存しない、SNSというアプローチで医療のIT化や在宅医療へのシフトを推進したいと語る。

 サービスを開始して1年が経ったが、すでに栃木県と群馬県の医師会に採用され、全県域の医療・介護ネットワークとして活用され始めているという。ユーザー数は公開していないが、「この2県だけで10万人の医療・介護者がいる」と伊東氏。今後も各県の医療・介護機関の理解を得ながら、利用者を増やしていきたいとしている。

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