大きな話題となったサマーレッスンだが、原田氏が言うには本当にお金をかけず制作したという。ここで原田氏からサマーレッスンの制作秘話が語られた。原田氏は、VR向けのコンテンツ制作についてハードルは高いものの、ムーブメントが起きるものだからこそ今から取り組むべきだと、社内で主張し続けていたのだという。数々の資料を作成して提示したというが、コスト面からハードの普及率を問われ、それが低い中では先陣を切るリスクを負えないと保守的な反応になり、副社長の鵜之澤伸氏からも「部活でやれ」と言われてしまうぐらいに、なかなか理解されなかった振り返る。
結局説得できない状況下であったため、2カ月程度の短期間でサマーレッスンを制作。そして話題になると社内からいい意味での手のひら返しが巻き起こり、企画が多数上がってくるようになったという。さらに他社からの問い合わせもさることながら、ゲーム会社以外のところからのアプローチも舞い込んでいると語った。
原田氏はゲーム業界に向けたVRのアピールとして制作したことから、業界的なVRの一般化には狙い通りに成功したとしつつも、東京ゲームショウ2014での出展取りやめになるほど、話題として沸騰するとは予想外だったと振り返る。
こと女子高生とコミュニケーションを取るというシチュエーションも物議を醸し出しそうだが、原田氏によると「反対していたほど、体験してみるとこれは素晴らしいと言ってくれる」という。そして一様に緊張したという感想を述べるとも付け加えた。この理由として、例えば人と人、顔と顔が近づけば意識してしまい緊張するもの。その人間同士の距離感と緊張感を主に制作したからであり、一番モチーフとして最適かつ技術的に難易度が高かったのは女性だったからと語った。
ちなみにテスト段階では鉄拳シリーズの三島一八を出してみたそうだが、筋骨隆々な男性が登場しても「……で?」という反応になって誰も喜ばなかったと振り返った。カッコイイ男性はあまり表情が動かないもので、それよりは女性の表情豊かな顔を見ているほうが伝わってくるものがあり、こちらを認識しているような感覚にとらわれ、緊張するのだという。
原田氏はVRを活用したゲームはいろいろ考えつつも、第一段階としてはHMDを何時間も装着しているようなものではなく、15分から20分程度でVRの中の世界が気になるようなものを考えているとのこと。ちなみに鉄拳シリーズへの活用を質問された原田氏は「目の前で格闘家が暴れている光景は耐えられない」とし、楽しめるものにはなりにくいという。ただ、近藤氏は「ポピュラス」のような神の視点で箱庭のように眺めるものであったり、“見上げる”という視点で進行していくようなものは面白いのではと付け加えた。
VRのように臨場感が高いものであるほど、3D酔いや装着時間の長さによる疲れも問題もつきまとう。吉田氏はまだ開発初期段階の試作機はすぐ酔ってしまうような状況であったが、現状ではだいぶ改善しているという。とはいえ、今でもコンテンツや環境によって酔ってしまうようなものもあるとし、技術やコンテンツ制作のノウハウが進むと将来的にはその問題が解消していくと予測している。
近藤氏は、ハードの進化だけではなく身体的な適応の部分もあるようで、数時間HMDを装着していても平気だという。ただし、VRの世界に関心を持てるかは第一印象がいかにいいものであったかが重要で、最初の体験で酔ったりマイナスを印象を持ってしまうと、二度とやらないというぐらいに近付かなくなるという。それゆえに、最初はできるだけいい環境でVRを試してほしいと訴えかけるように語った。
気になるProject Morpheusのリリース時期についても質問が及んだ。吉田氏は開発機としてはある程度のところまできたとしているが、商品とする上では技術的に高めたいとしてもう少し時間がかかるとのこと。もっともハードだけではなくコンテンツも必要。しかしなかがらサマーレッスンが発表されるまでは、原田氏しか興味を持っていないというぐらいにサードパーティからのアプローチは乏しかったと原田氏は振り返った。
前述のようにサマーレッスン発表後は火が付いたわけだが「業界から火を付けようと思ったら、世間のほうから先に火が付いた」とも語った。その観点でいけば、先の東京ゲームショウ2014はVR関連の出展として大成功だったと吉田氏は語った。Project Morpheus、Oculus Rift、GearVRが出そろいテレビでも報じられ、近藤氏もゲームショウを境目に、それまではHMDをかぶることに抵抗を示す人が多かったが、それ以降は前向きに体験したいという人が増え、大きな変化を感じたという。
話題はVRの活用についても触れられた。寝たきりになって外に出られない老人が、VRで外のきれいな景色を見たり旅行に行った気分になって感動したエピソードのほか、片方の目が弱視で映像が立体的に見えにくいというユーザーが、Oculus Riftを使用し左右の映像の明るさなどを変えて、見えないほうの目に刺激を与え続けた結果、立体的に見えるようになったという話を吉田氏は語っていた。
トークの締めくくりとして、それぞれが考えるこれからのVRの展望について語った。近藤氏は、過去を振り返るとVRのブームみたいなものはあったが、今回のは本物だという直感を感じているという。また、かつてはコンピュータが個人では買えないような時代もあったが、今はパーソナルコンピュータとして普及したように、VRもパーソナル化していくものと考えているという。東京オリンピックが開催される頃のVRは、サングラスのように身近に、ヘッドフォンステレオのように持ち運べるようになるのではと、近未来の予測を語った。
原田氏は個人的にやりたいことと前置きして、カメラに自分の動きをリンクさせたアバターを登場させ、VRの世界のなかでみんなで集まって話をしたり、麻雀のようなテーブルゲームをするようなことを早く体験したいという。最終的にはゲームに結びつけたいとしながらも、技術が高まれば個人だけではなくいろいろな人とリンクできるようになって、一緒の体験ができるようになればすごいことになると、未来の展望を語った。ただ今のVRのブームについては楽観視はしていないようで、ちょっとしたことで収束してしまう危うさも感じているという。一般化に向けたブレイクスルーを加速させる意味では、SCEだけではなく大きい企業が参入してほしいとも付け加えた。
吉田氏は、まず今回のVRのブームは本物がきていると改めて強調。今当たり前のようにスマートフォンを使っているように、誰でも当たり前のようにVRが使われる時代がくるという。もっとも楽観視しておらず、この先普及のためにはいくつもの壁を乗り越えていく必要があり、普及するための道筋を考えなければらなないと語った。その上で、現状ではPCやモバイルを中心にしているOculus VRとコンソールを中心にしているSCEの2つがそろって展開していることは、話題作りの意味でも裾野を広げる意味でもいい状況であるという。
続けて、3Dグラフィックを活用したゲームもVRのゲームを作るのも技術的には同じとし、そのハードルを越えている人は業界にいっぱいいると説明。その人たちにVRの体験を通して、これまでできなかったコンテンツが作れることを実感してほしいという。ゲームの開発者もユーザーも新しいゲームの体験やジャンルも求められているが、近年ではなかなか生まれないが、VRを使えば「これまでなかった」というゲームがたくさん生み出せる状況だという。そして、かつて「DOOM」や「リッジレーサー」、「マリオ64」、「バーチャファイター」のような先駆者的なタイトルがでてきたように、誰でも先駆者になれるようなタイトルを生み出せるチャンスだという。「この半年から1年で思い切る決断が、先駆者になれるかなれないかの境目になる。クラブ活動で作りましたというぐらいでもいいので、アイデアとパッションで進めてほしいですし、できるだけサポートします」と述べた。
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