NTTドコモは10月14日、世界の主要通信機器ベンダー6社と協力し、ネットワーク仮想化技術の実用化に向けた実証実験に成功したことを発表した。同日開催された記者説明会では、ドコモがネットワーク仮想化に取り組む理由とそのメリットを、同社執行役員 R&D戦略部長の中村寛氏が説明した。
音声やパケットの交換機など、携帯電話のネットワークで用いられている機器はこれまで、ソフトに最適化された専用のハードが一体となって提供されていた。それを仮想的なハードの上でソフトを動作させることで、安価な汎用のサーバを共用できるなど、ハードの柔軟性を高められるのが“ネットワークの仮想化”である。
具体的には、汎用のサーバに“仮想化レイヤー”と呼ばれる複数のシステムをエミュレートできるソフトを導入。さらに仮想化レイヤーを導入したサーバのリソースを管理する“仮想化管理システム”を追加することで、仮想的なハードを作り上げる。その仮想化されたハードの上で、交換機などのソフトを動作させるというものだ。
中村氏によると、ネットワーク仮想化のメリットは4つあるという。1つは、通信混雑時のつながりやすさを向上させられること。これまで、災害時などに大量の通信が発生し、ハードの処理能力を超えてしまう場合は通信規制の必要があった。だがネットワークを仮想化していれば、トラフィックが増大した時に仮想化管理システムが自動的にハードを追加して通信容量を高められるとのこと。従来の規制で接続率が5%程度の状況の場合、仮想化によって25%程度にまで接続率を高められるそうだ。
2つ目は、通信サービスの信頼性を高められること。ネットワーク機器は通常、通信を途切れさせないため設備を二重化しているが、機器が壊れた時は修理が完了するまで予備がなく、不安要素が増える。しかしネットワーク仮想化をしていれば、機器が壊れても自動的に新しいハードを追加し、迅速に二重化環境を復旧できるという。
3つ目は、サービスの早期提供が可能なこと。従来の機器はソフトとハードが一体なことから、新しいサービスを導入するにはハードごと調達する必要があり、工事などを含め5カ月程度の時間がかかっていたという。ネットワークを仮想化している場合、ハードは共用のもので済むため、ソフトをインストールし動作テストをするだけと、1カ月程度で新サービスを提供可能になる。
そして4つ目は、ネットワーク設備の経済性向上だ。専用のハードは高額になりがちな上、故障した時のための交換用部品も機器ごとに用意する必要があった。それがネットワーク仮想化によって安価なIAサーバーなども利用できるようになることから、装置自体の調達を安くできる上、部品も共用のものが使えるためメンテナンスもしやすくなるという。
ちなみにドコモは、ネットワーク仮想化技術の標準化に関しても積極的な取り組みをしているとのこと。中村氏によると、ETSI(欧州電気通信標準化機構)で標準化の議論をリードしてきたほか、9月に設立したオープンソースを使って仮想化プラットフォームを作るOPNFV(Opne Platform for NFV)の創設メンバー、かつ最上位メンバー17社の一員に名を連ねているとのことだ。
ただし、単一ベンダーのハードとソフトを導入してしまうと、ベンダーごとにシステムを構築しなければならず、そうしたネットワーク仮想化のメリットを十分活かしきれないと中村氏は話す。
そのため今回の実証実験では、アルカテル・ルーセント、シスコシステムズ、エリクソン、ファーウェイ、日本電気(NEC)、ノキアソリューションズ&ネットワークスの6社と協力し、異なるベンダーのソフトと仮想化したハードの組み合わせで、LTEのパケット通信機(EPC)のネットワーク仮想化ができることを確認したという。
これによって、もう1つ期待していることがあると中村氏は話す。それはエコシステムの変革だ。ソフトとハードが分離されることで、ある会社から革新的なサービスが登場した場合、その会社のソフトを仮想化したハードに入れるだけでサービスを導入できるようになることから、通信事業者の選択肢を広げ、価値を高めやすくなるという。
中村氏は今回の実証実験により「実用化が2、3歩前進したと考えている」と話す。ドコモは、2015年の商用化を目指しネットワーク仮想化に向けて取り組んでいるが、今回の実証実験の対象となったEPCだけでなく、今後は音声の交換機など、対象をさらに拡大していくことも検討しているとのことだ。
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