著作権は何のためにあるのか?著作権をどう変えていくか?

福井健策(弁護士・日本大学芸術学部 客員教授)2014年10月10日 11時00分

 さあついに「18歳からの著作権入門」最終回。泣いても笑っても最終回。いや別に泣いても笑ってもいないけれど……えっ、でも何?この頬を伝わる熱いものは?

 みたいなのはもういいので、はじめましょう。

TPPと「コミケ終了」

 前回、シリーズ最大のヤマ場「二次創作」では、グレー領域で花開く日本の二次創作の現状をリポートしました。ところが、この二次創作への脅威が2011年、意外な方向から襲来します。それがTPP(環太平洋経済連携協定)でした。言わずと知れた多国間の貿易協定で、現在米国や日本、カナダ、東南アジアの国々などで妥結に向けてギリギリの交渉やら膠着やらが続いています。

 実は著作権・特許などの知的財産はこのTPPでも最難航交渉分野なのです。交渉は主に、知財分野で世界で稼ぎまくる米国が権利の強化を他国に求め、他国がこれに抵抗するという構図で展開されています。その交渉項目の中に、「非親告罪化」というものがあります。

 これはどういうものかというと、著作権侵害には刑事罰があると第4回で書きましたね。法定刑だけでいえば最高で懲役10年又は1000万円以下の罰金と、なかなか重い罰則です。しかし、これは日本では親告罪なのです。つまり、著作権者などの権利者が悪質だと判断して刑事告訴しない限り、起訴・処罰されないのですね。

 そしてこの制度が、前回書いた「グレー領域」や「阿吽の呼吸での二次創作」とはなかなか相性が良いのです。多くの権利者は二次創作を正式に許可はしない(出来ない)。しかしやり過ぎなければ刑事告訴や損害賠償の訴訟までは起こさない。だからうまく共存できる、という訳です。

 しかし、米国などは著作権侵害を非親告罪にせよ、つまり被害者の告訴無しでも処罰できるようにせよ、と交渉国に求めています。この時ネットを駆け巡ったのが「コミケ終了」の言葉です。というのは、コミックマーケット(コミケ)で売られる同人誌は75%までが、既存のマンガ・アニメの何らかの「パロディ」なのですね。

 パロディにはいわゆるエロ・グロ系もありますから、以前から反感を持ったファンの方が関係団体に通報するような事件はありました。しかし、親告罪ですから権利者が告訴しなければそれまでだった。しかし、これからは第三者通報だけで理論的には起訴・処罰があり得る。そうなったら表現の現場は萎縮するだろう、というのです。この辺り、興味があればこちらを。

 なるほどあり得る話ですが、他方で、警察もいちいち同人誌を潰して回るほど二次創作に恨みもないだろうし暇じゃないだろうという気もします。気もしますが、しかし前回登場した「ハイスコアガール」のように、法的にも微妙な二次創作のケースで(この件は告訴もありましたが)40名もの捜査官が捜索・差押のために上京したという情報を聞くと、冷や水を浴びせられた気になります。

 「二次創作」ということは、単なる海賊版とは話が違います。摘発はいわば表現を国が規制する話であり、憲法問題に関わります。しかし警察はあっさりと出版社や作家宅の強制捜査に踏み切り、メディアでは「刑事か民事か」という決定的な区別もつかない程度の報道しかされない。

 これは、二次創作だけに限りません。電子図書館のような注目の「デジタルアーカイブ活動」だって、かならず何らかの権利侵害は混入します。多くの企業活動でも、資料コピーなどで著作権侵害は必ず少しはあるものです。その時に、団体に恨みを持つ第三者が通報し、警察が強制捜査に乗り出すかもしれない。なるほど不安を抱く人もいるでしょう。

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