ディー・エヌ・エー(DeNA)は10月1日、住まいやインテリアに特化したキュレーションメディア「iemo(イエモ)」を運営するiemoと、女性向けファッションに特化したキュレーションメディア「MERY(メリー)」を運営するペロリの2社を買収し、キュレーションプラットフォーム事業に参入すると発表した。DeNAは両社の株式を総額約50億円で100%取得し、完全子会社化する。両社から受け入れた人数を含め、キュレーションプラットフォーム事業の人員体制は10月1日現在で40名程度だ。
2013年12月にサービスインしたiemoは、2014年9月にはMAUが150万に、そして2013年4月にサービスインしたMERYはMAUが1200万になるなど、両社とも短期間に急成長しており、女性ユーザーが9割を超え、スマートフォンからのアクセスも9割を超えるなど、バーティカルメディアとして確固たる地位を確保している。両社はDeNA傘下に入ることでどのようなシナジーの創出を目指しているのだろうか。iemo 代表取締役CEOの村田マリ氏、ペロリ 代表取締役の中川綾太郎氏、そしてDeNA 経営企画本部企画統括部の牛尾正人氏にお話を伺った。
--iemo、ペロリの2社にお話を伺う前に、まずDeNAがキュレーションプラットフォーム事業に参入する狙いを教えてください。
牛尾:なぜこのタイミングなのかという点ですが、いま世界的にキュレーションプラットフォームの成長の勢いは目覚ましいものがあり、DeNAとしてもこの機会を捉えてビジネスを成長させていきたいと考え、2社を買収する形でキュレーションプラットフォーム事業に参入することになりました。今後はライフスタイルを軸とした他のキュレーションプラットフォームにも可能性を探っていきたいと考えています。
キュレーションプラットフォームの今後については、ただユーザーの興味のある情報が集まる場として終わるものではなく、集まったユーザーに購買機会を提供するなど新たな体験を創出することで、既存の産業構造を変えるようなデジタルイノベーションを各分野にもたらせるのではないかと考えています。
村田:iemoもキュレーションプラットフォームをやることで、家づくりや住まいに興味がある人に集まっていただきながら、将来的には不動産のマッチングサービスにまで成長させていくことで、既存の産業構造を変えるような新しいプラットフォームを生み出していきたいと事業を進めてきました。
そして、今後事業を拡大させるうえで、引き続きベンチャーキャピタルなどから資金調達を繰り返して事業を伸展させていくことと、買収を通じてサービスを加速させていくこととを、両方とも考えてきましたが、今回DeNAとご一緒させていただくことになりました。時を同じくして、iemoと同じスキームで別のターゲットにリーチしている新進気鋭のキュレーションプラットフォーム「MERY」ともご一緒させていただくことになり、お互いが持っている強みやノウハウを寄り合わせ、またDeNAの社会的な信用力や人材、ノウハウとも融合することで、日本の中でも巨大なキュレーションプラットフォームの軸が生み出せることになるのではないかと期待しています。
--DeNAの今後の戦略の中では、どのような位置づけなのでしょうか。
牛尾:ゲーム事業は引き続きDeNAのビジネスにとって一番のコアであり注力をしていく一方で、ゲームはどうしても流行の波がある分野でもあるので、新たな柱として構造的な強みを持つ事業にいくつか挑戦しています。世の中を見ても、成功している企業はユーザーの皆様に長く使い続けていただくことができ、ビジネス的な付加価値を提供できる事業を有しています。DeNAもそういった事業を生み出すために、さまざまなチャレンジをしているのです。
その中のひとつとして、キュレーションプラットフォームの領域はキュレーターのセンスやノウハウと、多様な興味を持つ人が出会える場として構造的な付加価値を提供できるのではないかと考えています。
--MERYは今まであまりメディアに露出することがなかったと思いますが、改めてどのような形で今まで成長してきたのか教えてください。
中川:MERYが生まれた背景としては、女性向けのファッション誌やライフスタイル情報誌はさまざまなニーズに応える形でおよそ100誌くらいあるのですが、一方でインターネットではそれに似たようなメディアや情報の多様性が乏しい状態にあったのです。ECは多彩だったのですが、メディアがありません。“かわいい”、“おしゃれ”といった言語化や定量化が難しく、アルゴリズムだけで情報や商品を勧めるのが困難な領域を、個人のセンスでセレクトされた情報から自分の好みに合ったものに出会えるサービスがあればすばらしいのではないかと思い、MERYを立ち上げました。
今はサービスの規模も月間MAU1200万まで拡大し、より事業を加速するためにDeNAとご一緒させていただくことになりましたが、それまでは大手が参入したらすぐに追いつかれてしまうくらいの会社規模で事業をしていましたので、基本的にはスマートフォンを使っている若い女性をターゲットユーザーに、事業の方向性を変えずにやってきました。
--サービスが急成長した背景はどのようなところにあるのでしょうか。
中川:サービスを開始してからは、ソーシャルメディアやウェブ検索からの流入が定着したというのが大きいですが、それ以前に一番のポイントは、この領域でユーザーが欲しているコンテンツが今までなかったというのが大きな背景だと思います。
主要読者層は18歳~25歳くらいの女性なのですが、彼女たちの趣味嗜好は多種多様でファッションについても好みが細分化されているのですが、こうした中でニーズに応える良質なコンテンツを提供できているのではないでしょうか。例えば、ある特定のブランドの商品で、誰かが商品を紹介することで興味をもってくれる人が増えるのではないか、もともと興味がなくてもキュレーターの切り口によって新しい発見や気づきが生まれるのではないかと考えてきました。商品のさまざまな組み合わせによって多様なニーズに応えられるメディアは、今までなかったと思います。
村田:MERYのように広告やメディア露出を一切せずに、オーガニックにここまで成長できたメディアは珍しいのではないかと思います。世代のニーズに合っている点や、画像やデザインの美しさが後に出てきた類似サービスの追随を許さないクオリティを提供している点も大きいのではないかと思います。
--キュレーターには、どのような人が参加しているのでしょう。
中川:キュレーターの中にはショップ店員、ヘアスタイリスト、ネイリストなどファッションに精通した人も多く参加しているのですが、そのような業界知名度のある人がオーガニックに参加してくださったことによって、一気に知名度が上がったのではないかと思います。
例えば、ヘアスタイリストが自分の手掛けたヘアカタログを掲載したり、ウェブサイトのコンテンツをキュレーションしたりするなどして、女性のライフスタイルを充実させるために価値のある情報を掲載することで、はじめから狙ったわけではなく結果としてお店の知名度アップになるなどの効果が生まれているようです。
--今回の買収でDeNAには何を期待しているのでしょうか。今後はどのようなシナジーを生み出していきたいのでしょうか。
村田:iemoが挑戦している不動産業界というのは歴史が長く大きな業界なので、そこでスマートフォンを使って産業構造を変えようとしても小さなベンチャー企業が2、3年で目標を実現できるような業界ではないと感じていました。そこで、ベンチャーキャピタルなどからの資金調達を繰り返してIPO(株式公開)を目指すという選択肢もあったのですが、こうした経営面よりもサービスの拡充に100%コミットしたいという強い思いもあり、ジレンマが生じていたのです。そのような中、社会的に信用のあるDeNAが資金面、人材面でサポートしてくれることでサービスの拡充に100%注力できる環境が生まれたので、このジレンマがクリアになりました。私たちにとってIPOはゴールではなく、サービスを成功させることがゴールであり、そこに向けて確度の高い選択肢を選んだ結果が今回の買収であると考えています。
実は、これまでもいくつかの企業から出資や買収のお話をいただいていましたが、今回のDeNAと組んだ理由は社会的信用という部分が大きいですね。DeNAはプロ野球の球団を持っているということで、非IT分野の企業、街の工務店の人でも知っているブランドです。私たちがこれからやっていくミッションは、ユーザー体験を拡充させる傍らで全国の不動産関連企業にサービスを提案していくことなので、そこで重要なのは知名度や信用力といったものではないかと考えています。
中川:もともとMERYは、多彩なニーズがあるファッション分野においてスマートフォンでの購買体験をゼロから変えたいと思っていたのですが、メディアのサービスが成長する中で、そこに決済を入れて、コマースを立ち上げようとすると、事業を運営する上でまったく別の分野に出ていくことになると感じていました。私たちは、事業の売却については当初まったく念頭になかったのですが、どうやってMERYを大きく成長させられるかということを考える中で、コマース事業に実績と優秀な人材を持つDeNAと組むことで、メディアを成長させながら、別軸として新しいコマース体験を生み出すという目標を目指すことができるのではないかと考えたのです。
メディアの成長フェイズと次のステップに向けて注力したい時期、DeNAとの事業に対するベクトルの一致など色々なタイミングが重なった形での今回の発表なのではないかと思います。
--両社ともに新たな段階に進みますが、今後の抱負をお願いします。
村田:iemoは買収完了が9月18日だったのですが、既にDeNAから優秀な人材をどんどん送り込んでいただいて、買収当初は8名だったスタッフが10月1日時点で20名を超える体制になり、サービスの拡充を一気に進める予定です。今まで描いていた成長カーブを超えるような急成長を目指していきたいと思います。
また、スマートフォンをフックに不動産業界を変えるという点でも、DeNAはソーシャルゲームを通じて携帯電話を活用したマーケティングにノウハウのある企業なので、そのノウハウを借りながら今まで通り多くの人に楽しんでいただけるサービスを目指し、その次のフェイズとしてリフォーム、リノベーションといった分野から不動産のマッチングサービスに今秋から取り組んでいきたいと考えています。いずれは新築マンションや戸建てといった分野にも拡大し、3年から5年で国内最大の不動産マッチングプラットフォームを目指したいです。
中川:ユーザーに求められるサービスを作っていくという今までの姿勢は変えず、成長のスピードを加速させていきたいと思います。MERYのスマホアプリもリリースに向けて準備していきたいですね。加えて、メディアとコマースを組み合わせた新しいユーザー体験を生み出し、“ウインドウショッピング”のような感覚で人を介してまとめられたキュレーションコンテンツに触れることで、自分の中にある潜在的なニーズが顕在化して新たな購買意欲が生まれるという「スマホでの体験はこうあるべき」というビジョンを実現していきたいです。資本や株主が変わっても変わらない信念を貫きたいと思います。
村田:iemoの考えも一緒ですね。ソーシャルゲームが生まれて急成長したときに、なぜ成功したのかを考えると「スキマ時間をつぶしたい」というニーズを持ったユーザーが数多くいて、それにゲームがフィットしたということがあったと思います。ゲーム分野が飽和してきたときに、スキマ時間を埋めるエンターテインメントとしてゲーム以外の分野もあるのではないかと思ったのです。それをインテリアや住まいの分野で実現したのがiemoであり、ファッションの分野で実現したのがMERYではないでしょうか。スキマ時間の楽しみ方としてゲームに次ぐまったく新しい市場が今後成長していくのではないかと考えています。
牛尾:DeNAは、「世の中に新しい付加価値を生み出していきたいと」努力をしてきた人たちの集合体なので、今までにない新しいユーザー体験を生み出したいという意味では、3社の気質はとても合うのではないかと思います。今回の買収は「こういうのは今までなかったよね」「これがあったから世の中が変わったよね」と思っていただけるような何かを生み出せる大きな機会になるのではないかと感じています。いいものを作って世の中をあっと驚かせたい、という同じベクトルでそれぞれの事業の成長をお手伝いできるのではないかと思います。
キュレーションプラットフォーム事業としては、まずiemoとMERYを圧倒的に成功させ、多くのユーザーの皆さんに愛されるサービスにしながら、既存の産業構造を変化させるような新たな取り組みに挑戦していくことを最重視しています。その上で、キュレーションプラットフォームは他の領域にも進出できるので、DeNAの資金力や人材力によって事業分野を拡大していくことで、リアルな産業構造を変革できればと考えています。
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