心身の健全な育成のために--神戸大塚本教授が語るウェアラブルゲームの提案

 パシフィコ横浜で開催されたゲーム開発者向けイベント「コンピュータエンターテインメントデベロッパーズカンファレンス2014」(CEDEC 2014)。9月3日には「ウェアラブルコンピューティングの動向とウェアラブルゲームへの展開」と題した基調講演が行われ、神戸大学大学院 工学研究科 塚本昌彦教授がウェアラブルデバイスに関する現状と予測、そしてあり方について語った。

ウェアラブルは日本から立ち上がるべきだった

 塚本氏はこれまで13年間にわたって、単眼型HMDやウォッチ型のコンピュータをいくつも装着する生活を続け、ウェアラブルコンピューティングを実践している。そして常に「ウェアラブルコンピュータの時代が来る」と主張していたのだが、それは訪れることがなく孤独な生活が続いたと振り返った。これを「世の中が悪い(笑)」という発言で笑いを誘っていたが、実際には小さなものづくりが得意である日本から10年ぐらい前に実用的なウェアラブルコンピュータが出てくるべきで、革新的なものを否定するような社会環境があったと見解を示した。日本がもたついている間に欧米が動き出し、諸外国がそれに追従する流れになったという。

  • 神戸大学大学院 工学研究科 教授の塚本昌彦氏

  • 単眼型HMDのみならず、腕時計型のデバイスも多数身につけて登壇

  • ウェアラブルが日本から立ち上がらなかったことを「失われた15年」として表現

 塚本氏は11年前のCEDEC2003にも登壇。このときには「3年以内にウェアラブルがブレイク」「装着型電子デバイスも1年以内に浸透」などといった“予言”も行っていた。残念ながらその予言は的中したとは言いがたいものの、近年の流れを見るにようやくその予言が真実味を帯びている状況だ。コンピュータの小型化が進み、スマートフォンよりも小さくなり体に装着して実生活に活用される流れは必然的なものと見解を示し、近年の盛り上がりからウェアラブルはバズワードのようにも言われているが、20年以上アカデミックな分野で研究されてきたものだと語った。

 もっとも、ウェアラブルの開発は難しいとも率直に語った。実際に装着して利用してみないとわからないことがあり、さらには生活の中にはさまざまな問題点が待ち構えているという。HMD型のものであれば画面の位置をどこにするかといったことや、有線のデバイスだったときにはケーブルがドアノブに引っかかるといった例を出し、実験中に思わぬ問題点が出てくることが多いという。こういったことから開発は必ず遅れるものだとし、ノウハウを蓄積する経験が必要とした。

  • CEDEC2003で使用したウェアラブルの「予言」。今見ると真実味が感じられる

  • ウェアラブル開発の難しさ

  • 最近になって急にウェアラブルの波が来るようになった

 盛り上がりを見せるウェアラブルのなかでも、最近注目されているのは腕時計型。特に8月28日にはサムスンとLGがデバイスを発表。講演時には発表見込みとしていたASUSやソニーのスマートウィッチも発売されることが明らかになった。さらに9月9日にはアップルがiWatchを発表するのではないかという噂もある。これを“ウォッチウィーク”という表現を使い、立て続けに新製品が登場することによって、本格的な普及に期待を寄せているという。また、Android Wear、Tizenのほか、iOSベースのスマートウォッチのプラットフォーム争いという点においても競争が激しくなっていくのではと見解を示した。

 腕時計型についてはスマートウォッチに限らず、リストバンド型活動量計や「妖怪ウォッチ」のようなおもちゃなど、なにかの目的に特化した専用ウェアラブルデバイスはすでに市場が形成されている。そんななかでも身につける場所の部位や工夫次第では面白いことができるのではと付け加えた。

  • 8月下旬~9月上旬にかけて、ウォッチウィークというぐらいに腕時計型ウェアラブルの発表が相次ぐ見込み

  • 9月9日に発表されるとのうわさの「iWatch」。スライドは塚本氏の推測情報

  • 情報系ウォッチ(スマートウォッチ)のプラットフォーム争いも激化すると予想

  • リストバンド型活動量計。目的がハッキリとした特化型だと市場は形成しやすい。ただ、この分野はまだ改良の余地がありそうだ

  • ほかにもおもちゃなどを中心にした腕装着型デバイスが登場。まだまだ工夫のしがいがあるという

  • ウェアラブルを付ける位置によっても役割は変わる。特にベルトは腹部にあたるため、塚本氏はここでの開発に期待を寄せていた

ウェアラブルでリアルな遊びを再考

 塚本氏がウェアラブルに求めているものは何か。それはただ単にウェアラブルでSNSを使ったり映像を見るような“ながらスマホ”の延長線上のものではなく、実世界の活動をするために、そして目の前の人とのコミュニケーションや、実作業を楽しく便利にして日々の生活を過ごすことだと主張した。

 ゲームへの活用としても、鬼ごっこや缶蹴りといった、体を使った昔ながらの子どもの外遊びを引き合いにだし、それにウェアラブルを活用することでさらに面白いものができるのではと提案した。日本ウェアラブルデバイスユーザー会で提案された「RPG鬼ごっこ」という、RPGのようなステータスやレベルアップの概念を導入した鬼ごっこを紹介し、ウェアラブルを活用した実世界のゲームでは、リアルな遊びを再考することが重要だとした。

  • ネットの普及によって便利なった一方、食事中や会話をしながらスマホを見る、ネットに縛られた生活を危惧

  • 日本ウェアラブルデバイスユーザー会で提案された「RPG鬼ごっこ」

  • 体を動かすといえばスポーツ方面での活用も期待できる

 もっとも課題もある。バッテリの問題や位置精度、視認性の向上もさることながら、かぶれなどの身体への影響や注意力が散漫になることによる転倒や交通事故といったことも懸念材料だ。このあたりはデバイスとして改善する余地があるとともに、ウェアラブルそのものがプライバシーや個人情報の問題、盗撮やカンニングと言った不正利用も懸念材料としてあることから、社会に対して向き合った対応が求められるとしている。

  • ウェアラブルの問題点

  • ウェアラブルゲームの課題点

 最後に講演をまとめる形で「ウェアラブルの波が急に来ていて、近々広まるかもしれない。そしてそれらを使って走り回るような新しい遊びはきっと面白い。昔ながらの子どもの遊びやスポーツをベースに、新しい遊びを作ることが重要。それを通じて心身の健全な育成を推進したい」と語った。

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