ものづくりを加速させる「3Dプリンタ」

本当に“魔法の機械”か?--知っておきたい3Dプリンタの基礎知識(後編) - (page 2)

シバタススム2014年09月25日 11時10分

造型する物体データの作り方

Autodesk製モデリングソフト「123D Design」。簡単な操作で3Dプリンタで造型可能なモデルが作れる
Autodesk製モデリングソフト「123D Design」。簡単な操作で3Dプリンタで造型可能なモデルが作れる

 3Dプリンタで物体を造型するには、元となるデータをPCなどのモデリングソフトで制作する必要がある。「熱溶解積層方式」に関しては、業界でデータ形式が統一されており「STL」形式のデータが出力できるモデリングソフトであれば、モデリングした物体を3Dプリンタで造型できる。

イーフロンティア製モデリングソフト「Shade 3D」。3Dプリントアシスタント機能を搭載するなど多機能でかつ高度なモデリングデータの制作ができる
イーフロンティア製モデリングソフト「Shade 3D」。3Dプリントアシスタント機能を搭載するなど多機能でかつ高度なモデリングデータの制作ができる

 なお、モデリングソフトには、3DCGを作るのが得意なものと、CAD設計を行うのに特化しているものに分けられる。どちらの分野でも最近はSTL形式に対応してきているが、筆者が試した限りでは、CAD設計に特化したソフトの方が完成したときの物体のサイズをより正確にできるのでお勧めだ。例えば、世界的にメジャーなCADソフト「AutoCAD」のメーカーAutodeskが配布しているモデリングソフト「123D Design」は、3Dプリンタで造型可能な3Dモデルを比較的簡単な操作で作れ、Windows、Mac、iOS、ウェブアプリと各種プラットフォームを全て無償で使うことができる。

 日本語に対応していないのが残念だが、慣れれば英語でも気にならないレベルだ。また他にも3DCGを得意とするものの、物体のサイズ指定ができ、3Dプリントアシスタント機能を搭載するなど、多機能な「Shade 3D」はBasic版でダウンロード価格9000円と比較的低価格でお勧めのソフトだ。こちらは日本語対応と手厚いサポートがあるための、初心者はこちらから始めた方がよいかもしれない。

実際に作ってみた

 今回は123D Designを使い、CNETの文字入りペン立てを作ってみた。ソフトの説明をすると長くなるので、具体的な手順は割愛するが、円柱を組み合わせて文字機能で文字を載せるだけでものの10分ぐらいで簡単に作れる。

CNETの文字入りペン立てのデータを作成
CNETの文字入りペン立てのデータを作成
このデータをSTL形式で出力すると、拡張子がSTLのファイルが出力される
このデータをSTL形式で出力すると、拡張子がSTLのファイルが出力される
このファイルを3Dプリンタに付属する制御ソフトに読み込ませる
このファイルを3Dプリンタに付属する制御ソフトに読み込ませる
なお、このようなカップであれば、そのまま造型しても問題ないが、造型する物体の形によっては、物体を寝かせたりするなど置く向きを変えた方がより造型が綺麗に仕上がる。基本的にピラミッドのように下から上にいくに従って形状が小さくなるように置くとベストだ
なお、このようなカップであれば、そのまま造型しても問題ないが、造型する物体の形によっては、物体を寝かせたりするなど置く向きを変えた方がより造型が綺麗に仕上がる。基本的にピラミッドのように下から上にいくに従って形状が小さくなるように置くとベストだ
そして3Dプリントのキモになるのが印刷の設定だ。先ほど説明した積層ピッチの厚さ設定のほか、物体内部の密度設定、サポート材、ラフト材の設定などをする。物体内部の密度というのは、物体の内部に材料をいっぱいに充填するか、もしくはハニカム構造などにしつつ中空部分を作り、造型時間と材料を節約することができる設定だ。サポート材は、架橋構造のような空中に張り出した物体の下部に後から除去できる材料を積み上げて安定して造型できるようにするもの。ラフト材は造型する際の一番したに物体より一回り大きい下敷きを作ることで、高さのある物体でも倒れないようにするオプションだ。これらの設定を少し変えるだけでも造型の成否や品質が変わる
そして3Dプリントのキモになるのが印刷の設定だ。先ほど説明した積層ピッチの厚さ設定のほか、物体内部の密度設定、サポート材、ラフト材の設定などをする。物体内部の密度というのは、物体の内部に材料をいっぱいに充填するか、もしくはハニカム構造などにしつつ中空部分を作り、造型時間と材料を節約することができる設定だ。サポート材は、架橋構造のような空中に張り出した物体の下部に後から除去できる材料を積み上げて安定して造型できるようにするもの。ラフト材は造型する際の一番したに物体より一回り大きい下敷きを作ることで、高さのある物体でも倒れないようにするオプションだ。これらの設定を少し変えるだけでも造型の成否や品質が変わる
この設定を終えれば、あとはプリントを開始して3Dプリンタが造型してくれるのを待つだけだ
この設定を終えれば、あとはプリントを開始して3Dプリンタが造型してくれるのを待つだけだ
造型が終わった直後の状態。まだサポート材とラフト材が残っており、これらを除去しなければならない
造型が終わった直後の状態。まだサポート材とラフト材が残っており、これらを除去しなければならない
サポート材とラフト材は手で取れる場合もあるのだが、多くはカッターなどを使って慎重に削っていく必要がある。コンシューマー向けの3Dプリンタでは、プリント後の加工の工程が必ず入っていく。つまり、見たままの物体が必ずしもキレイに造型できるわけではない。実弾が発射可能な銃を制作した大学の職員は、たまたま工作の腕もそこそこあったようで、もし工作精度が出せない全くの素人が作れば、銃を発射しようとしても暴発する可能性が高い。従って、残念ながら今のところ、3Dプリンタは何でも作れる魔法の機械たり得ない
サポート材とラフト材は手で取れる場合もあるのだが、多くはカッターなどを使って慎重に削っていく必要がある。コンシューマー向けの3Dプリンタでは、プリント後の加工の工程が必ず入っていく。つまり、見たままの物体が必ずしもキレイに造型できるわけではない。実弾が発射可能な銃を制作した大学の職員は、たまたま工作の腕もそこそこあったようで、もし工作精度が出せない全くの素人が作れば、銃を発射しようとしても暴発する可能性が高い。従って、残念ながら今のところ、3Dプリンタは何でも作れる魔法の機械たり得ない
そしてようやく出来上がったのがコレ。表面は買ってくる製品のように滑らかではない。市販品のようにするには、ヤスリで削ったり、塗装したりという工程が必要だ。ただ、世界でひとつの自分オリジナルグッズが作れるという点では面白い
そしてようやく出来上がったのがコレ。表面は買ってくる製品のように滑らかではない。市販品のようにするには、ヤスリで削ったり、塗装したりという工程が必要だ。ただ、世界でひとつの自分オリジナルグッズが作れるという点では面白い

 前編/後編とここまで見てきたとおり、コンシューマー向けの3Dプリンタは、今のところボタンひとつで何でもできる「魔法の機械」ではない。むしろ、何か物をつくるときに、今まで木を削ったり、金属を加工したりという工程の代わりに3Dプリンタがベースとなる部分を作ってくれる。実用としてはそんな感じだ。

 従って、現場では日曜大工でDIYをするための道具の一種と考えた方がいいだろう。しかし、今まで加工が難しい複雑な形や同じものを同じ精度で複数個作るなどには長けているため、モノ作りをするときに3Dプリンタがあれば楽にかつ精度が高いものを作成できる。現在、コンシューマー向けの3Dプリンタは1~3色の色しか使えないが、将来的にはコンシューマー向けでフルカラーのプリンタが登場する可能性もある。

 また、30ミクロン前後の高精度な造型ができる光造型方式の3Dプリンタも2015年には個人が入手可能な価格帯で登場する予定がある。従って、今はDIYの道具の一種だが、将来的には市販レベルの物品が作れるようになり、より魔法の機械に近づく可能性は残されている。そうなれば、電子メールが紙の手紙に取って代わったように、今まで店や通販で物を買うというスタイルからデータを買って3Dプリントして物品を手に入れるというスタイルに取って代わる世の中がくるかもしれない。

CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)

-PR-企画特集

このサイトでは、利用状況の把握や広告配信などのために、Cookieなどを使用してアクセスデータを取得・利用しています。 これ以降ページを遷移した場合、Cookieなどの設定や使用に同意したことになります。
Cookieなどの設定や使用の詳細、オプトアウトについては詳細をご覧ください。
[ 閉じる ]