この連載では、シンガポール在住のライターが東南アジア域内で注目を集めるスタートアップ企業を現地で取材。企業の姿を通して、東南アジアにおけるIT市場の今を伝える。
顧客のウェブ上の行動を分析しリアルな場での行動を促す「O2O(Online to Offline)」に取り組む企業が増えている一方で、逆に「Offline to Online」、つまり顧客のリアルにおける行動を分析しウェブ上での行動を促すことに取り組む企業はまだ少ないかもしれない。
マレーシアのクアラルンプールに拠点を置くスタートアップ企業のTIDEは、店舗などリアルなチャネルを訪れた顧客の属性や行動に関する情報を収集・分析し企業に提供する、独自のデバイスとウェブ上のマーケティングプラットフォーム「TIDE Analytics」を提供している。
その使い方はシンプル。店舗にある電源にデバイスを接続するだけで、そこを訪れた顧客のさまざまな情報がウェブ上のプラットフォームに表示され、リアルタイムに更新される。
訪問者のうちの新規とリピーターの比率、指定された期間内の総訪問者数、リピーターの訪問回数、平均滞在時間、最長・最短滞在時間、訪問者が使用しているスマートフォンのOSの比率、期間内の訪問者数など指標の推移などが閲覧できる。さらに、TIDE Analyticsと連携する専用のアプリを通じて、クーポンなど特典や情報を訪問者に提供することも可能だ。
TIDEの共同創業者であるIvan Loh氏とDennis Soon氏は、その仕組みについては企業秘密ということで明かしてくれなかったが、個人情報などプライバシーをおかさないよう配慮がなされているという。TIDE Analyticsは現在パイロット版が公開されており、国内の飲食やアパレルなどあわせて6店舗で試験的に導入されている。企業は月額100マレーシアリンギ(およそ3200円)から利用できる。
世界的に見れば米国の「Euclid」、カナダの「RetailNext」などが競合にあたる。Dennis氏はそれらと同等の機能を、同社が得意とする分析やインフォグラフィックのような最新のトレンドとあわせて提供できるところに強みがあるとし、アジアのマーケットにおいてアドバンテージがあると語る。
直近で、ショッピングモールのようなより規模の大きな施設での導入を目指して交渉や製品の改良などをしている。2014年内にインドネシアに進出し、2015年にはシンガポール、フィリピン、タイにも事業を拡大する考えだ。
TIDEは同じくマレーシア・クアラルンプールに拠点を置く投資ファンド「1337 Ventures」の支援を受けている。同ファンドのCEOであるBikesh Lakhmichand氏いわく、同国は先進国と比べてエンジニアの人件費を安く抑えることができる。また、マルチメディア開発公社(MDeC)を通じて政府から認定を受けた外資系のIT企業については、最長10年間の法人税免除、外資規制の撤廃、外国人雇用の自由などの優遇がなされるため、スタートアップ企業が拠点を置く国に適しているという。
一方で、政府の方針に影響を受けることがあり、また先進国と比べるとファンドの数が少ないことがデメリット。Bikesh氏は周辺国のファンドや企業とも連携を図ったり、国を超えてスタートアップ企業同士が交流できる機会を作るなどして、同国の市場の活性化に取り組んでいきたいという。
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