6月30日、デジタルハリウッド大学大学院駿河台キャンパスにて「エンタテインメントの未来を考える会 黒川塾(十九)」と題したトークセッションが行われた。コラムニストの黒川文雄氏が主宰。エンターテインメントの原点を見つめなおし、ポジティブに未来を考える会となっている。
今回のテーマは「ゲームと映画の創造性と、その未来へ」と題し、ゲームと映画に精通した制作者によるトークが展開された。登壇したのは「ノーモア★ヒーローズ」や「LOLLIPOP CHAINSAW」などのゲームクリエイターとして知られるグラスホッパー・マニファクチュア代表取締役の須田剛一氏、映画「ヤッターマン」や「凶悪」などを手かげた日活のチーフプロデューサーである千葉善紀氏、グラフィックデザイナーや映画評論などのライターとして活躍する高橋ヨシキ氏が登壇した。
冒頭では、ヒット作の「Grand Theft Auto」シリーズで知られるロックスター・ゲームスの話題が挙がった。特に「レッド・デッド・リデンプション」について、3人が一様に大絶賛。そんなロックスター・ゲームスのタイトルの魅力のひとつとして高橋氏は“ライティング”を挙げ、単にグラフィックの追求だけではなく人間の視覚に近い表現をしており、自然に見える感覚に近いからこそ没入感が得られるという見方を示した。
須田氏によれば、ロックスター・ゲームスの信念は映画にあるという。たとえとして、太陽を見ると急にハレーションを起こして、少しそらすと元に戻るなど、徹底した描写や演出にこだわっているという。創始者の両親が舞台監督と女優であったことから、映画好きで親しんできたことが根底にあると推察している。
黒川氏と千葉氏は、ハリウッド映画と日本映画のライティングの違いについて言及。千葉氏によれば、ハリウッド映画は強い光量をあてて絞るという絵作りをしており、それゆえにダイナミックかつ奥行きのある表現ができているという。須田氏も、ゲームにおけるライティングアーティストの地位を高く重要視しているのは、このハリウッド映画からの流れから来るものだとした。
須田氏が手がけたタイトルは独特の世界観を表現したものが多く、自身もライティングにはこだわり、特に影を強く出すことを意識しているという。須田氏が影響を受けたと語ったのは、「デビルマン」や「バイオレンスジャック」といった、永井豪氏の漫画だ。ゲームについてはインベーダーゲームからはじまり、子どもの頃に見たATARI版の「スターウォーズ」にショックを受けたなどのエピソードも披露。面白いことには分け隔てなくフラットな視点で貪欲に楽しむという姿勢が、子どもの頃から今に至るまで続いているという。
そんな須田氏を、千葉氏は日本発信で海外の人に売れる作品を作れるクリエイターとして絶賛。千葉氏は映画の買い付けを行っていた時期があり“買わされる”立場を経験していたことや、日本映画があまり高値を付けられていなかったことから、海外の人に日本映画を買わせたいという思いがあったという。ゲーム業界にも海外に通じる世界観と発想を持つ人がいることに共感したとともに、高橋氏についても「構想を実写化するとお金がかかりすぎるけれども、それだけ発想がアメリカ的で飛び抜けた面白さを考えられる人」とあわせて絶賛。須田氏と一緒にゲームなどで形にできると面白いものができるとした。
このような発想術の根底にあることの一端として触れていたと思われるのが、千葉氏と高橋氏が危惧していると語った「テレビでの洋画体験がなくなったこと」。地上派テレビ局での洋画放送が少なくなり、子供心に破天荒な作品や場面を見てショックを受けたり、好奇心をそそられるという体験が少なくなっていると高橋氏は指摘。千葉氏も「テレビで放送されたジャッキーチェンの映画を見て、こんなにすごい人がいるんだと思った人も多いはず」と同調。
千葉氏と高橋氏は、視聴の選択肢そのものは広がる一方で、自分の趣味嗜好の範囲内のみで作品を選ぶことや、損得勘定が強くあり、無駄なものは見たくないという風潮に異を唱える。須田氏が「宝はハズレの中にある」と主張し、黒川氏は「無駄だと感じたこと、それ自体が無駄ではない」というように、さまざまな視聴体験の蓄積から生み出されるものがあると話す。
さらに、海外での大作が日本ではヒットしないような、日本だけが世界のエンターテインメントの潮流に取り残されるような状況に向かうことを千葉氏と高橋氏は危惧し、「ゲームでも映画でも巨額の資金を投じて作られた作品に触れていないのは、ものすごく損をしている」と千葉氏は語った。また高橋氏も、「ロード・オブ・ザ・リング」シリーズを手がけたことでも知られる映画監督のピーター・ジャクソン氏が、かつて「ブレインデッド」というB級スプラッター映画を制作した際に、政府から補助金を受けていた事例を挙げ、日本でのコンテンツ支援策について、内容の好みなどを問わずにサポートできるのかということも付け加えた。
須田氏は、米国ではゲームと映画が対等な関係にあることと、そして映画からゲームへの流れがあることを説明。映画「スカーフェイス」のゲーム版では、映画のエンディングの続きで物語の「if」を自分の操作で体験できることを例に挙げ、映画を知っていればゲームをより深く味わえるようにと、ゲームに対してリスペクトしているからこそできることとの見解を述べた。高橋氏も「ゴッドファーザー」のゲーム版について、マフィアの下っ端として映画の名シーンを再現しながら楽しめることを挙げて、須田氏の考えに同調した。
こうした背景には、須田氏が「海外の若い監督にはゲーム好きの人が多いから」との見方を示し「日本でも映画とゲームが深いつながりを持てるような流れになれば」と期待を寄せていた。千葉氏も「日本の映画業界の人は、ゲームで遊んでいる人は少ないが、もう少し遊んでほしい」と付け加え、映画とゲームの相乗効果を期待するメッセージを投げかけていた。
現在須田氏は、PS4用新作タイトルとして「LET IT DIE」を開発中。先日米国ロサンゼルスにて行われたE3 2014で、「Mortal Kombat X」に刺激を受けたようだ。これは対戦格闘ゲーム「モータルコンバット」シリーズの最新作で、日本では表現規制を受けるのが容易に予想できるほど残虐的な表現をしていることを特長としている。須田氏は、グロテスクなシーンを現地のユーザーが大笑いしている様子を見て「これを負かしてやると思って、日本に戻って開発現場にグロくしていくと言ったら、どん引きしてました」と笑いを誘いつつも「(モータルコンバットに負けるのは)くやしいじゃないですか」と付け加え、貪欲な姿勢の一端をうかがわせた。
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