上海で開催中のMobile Asia Expo 2014でドコモは6月10日に発表した「ポータブルSIM」を展示した。ポータブルSIMの開発経緯や今後の展開についてドコモの理事で移動機開発部長の照沼和明氏と、同要素技術開発担当で担当部長の村田充氏に話を聞いた。
ポータブルSIMの開発経緯について、ここ数年ウェアラブルデバイスの利用が消費者の間に広がっている点に着目したと照沼氏は話す。身体に直接装着する小型端末であるウェアラブルデバイスは、Google Glassのようにスマートフォンの画面を小さな画面に出力する製品や、センサの入ったリストバンド型端末のようにスマートフォンにデータを送信する製品などがあり、主にスマートフォンの入出力デバイスとして利用が広まっている。
これに対してポータブルSIMは同じウェアラブルな端末を目指しながらも、それ自身がデータの入出力を行うのではなくスマートフォンの認証を行ったりIDを送ったりできる“全く別の視点”から開発された製品であるとした。
そのようなウェアラブル端末の開発のため、まずはスマートフォンを単機能化することを考えたという。最近のスマートフォンはさまざまな機能が搭載されているが、それらの機能をひとつずつ取り外していき、シンプルな製品を考えていった。どのように機能を外していくかはいろいろな考えがあるだろうが、ドコモの考えでスマートフォンを“丸裸”にしていった結果、残ったものはSIMカードだったという。
この最後に残ったSIMカードを使って何かできないだろうかと考えたものの、SIMカードだけでは外部との通信すらできない。そのため最低限の要素としてNFCとBluetoothを搭載し、製品として出来上がったものがポータブルSIMである。なお単体で動作するようにポータブルSIMには充電式のバッテリも搭載されている。
ポータブルSIMはSIMカードの入っていないスマートフォンやタブレットにタッチするだけで、それらの端末にSIMカードがあたかも入っているように動作させることが可能だ。ポータブルSIMをスマートフォンにかざすとNFCを使いペアリングが行われ、その後はBluetoothで通信が開始されスマートフォンがポータブルSIM内の情報を読み込む。つまりスマートフォンやタブレット側にはSIMカードは不要であり、ポータブルSIMさえ持っていれば複数の端末を自分の回線で自由に切り替え、使い分けできるのである。
村田氏によると、例えば会社用と個人用のスマートフォンを切り替えて使いたい場合や、あるいは家族間でタブレットを1台購入しておき、利用したい家族が自分のポータブルSIMをかざせば自分専用のタブレットとして利用することができる。また企業でのスマートフォン利用も会社用と個人用の端末を完全に切り離すことができるため、BYODの導入も進めやすくなるだろう。
さらにポータブルSIMはペアリング先の端末のアプリ利用やテーマ変更を行う機能も持っている。ポータブルSIMを会社用スマートフォンとペアした場合にカメラやソーシャルアプリの利用を停止させたり、子供のポータブルSIMをタブレットにかざした場合に有害なコンテンツへのアクセスを制限する、といった応用もできるわけだ。
なおポータブルSIM内には、現在でも実際に利用されているSIMカードそのものが入っている。SIMカードにはセキュアエレメントエリアが実装されており安全に契約情報を保存することができることから、高い安全性を確保するためにSIMカードをそのまま採用することにしたとのこと。またSIMカードにしたことで、ポータブルSIMがスマートフォンとペアリングされ通信回線とつながった瞬間から、通信事業者側でポータブルSIMのコントロールを容易に行うことができるというメリットもある。
そしてポータブルSIMには契約者情報だけではなく、個人のID情報を保存しておける。例えば、よく利用するウェブサービスのIDとパスワードを入力しておくと、スマートフォンでショッピングを行う際にポータブルSIMをかざすだけでログインに必要なID情報を自動で入力できる。スマートフォンだけではなくNFC搭載のノートPCへもこの情報を送信可能だ。つまり、通信事業者がID管理サービスを提供することも可能になるわけだ。
但しポータブルSIMを利用するためにはスマートフォン側の対応も必要になる。ポータブルSIMとペアリングしたスマートフォンのアプリ利用制限などは、アプリレベルでの対応が可能だ。一方ポータブルSIM内のSIM情報をスマートフォンが読むためにはOSに若干手を加える必要がある。またスマートフォンに搭載している通信チップセットのモデムのソフトにも多少の変更が必要だ。そのため現在販売されているスマートフォンではポータブルSIMは利用できない。
とはいえモデムソフトの変更は微小で済むためにコストはあまりかからず、チップセットやモデムベンダーにとっては端末販売数向上が見込めるのであれば標準でポータブルSIMへ対応することも期待できる。
なお今回展示されていたプロトタイプはわずか4カ月で開発されたもの。とはいえポータブルSIMのコンセプトそのものはだいぶ前からあったのだという。すでに小型のカードサイズで、このまま商品化できそうな形状をしているものの、この形のまま製品として市場に出すことは考えていないとのこと。カード型の本体内部も基盤の実装やバッテリサイズ、電源管理などは最適化がまだ行われておらず、この状態でも3.5日は利用できるが、最終的にはやはりリストバンドなどウェアラブルな形状を考えているという。
またスマートフォンよりも駆動時間が短いようではスマートフォンとペアリングしようとした際にポータブルSIMが動作せず、その結果スマートフォンが使えなくなってしまう。小型化と長時間駆動を実現するために、ウェアラブル端末メーカーなどとの提携は早いうちに始まるだろう。
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