さて、ポータブルSIMはドコモが開発した製品・規格であり、現時点ではまだ他社への採用は決まっていない。特にドコモが独自に商品開発を進めていくと、ポータブルSIMの規格そのものが孤立化してしまう恐れがある。例えばSIMカードを読み込むBluetoothプロファイル「SIM Access Profile」は現在のBluetooth 4.0よりも古い時代に利用されていたものだが、このプロファイルの標準化を進めていきたいという。そしてポータブルSIMのような外部端末とスマートフォンの組み合わせの使い方を、移動体通信業界団体のGSMA(GSM Association)などにも働きかけていくとのこと。
Mobile Asia Expo 2014のドコモブースのポータブルSIM出展コーナーには海外の通信事業者やメーカー、そして消費者の来場が1日中絶えず、ポータブルSIMのコンセプトは海外でも大きな注目となっているようだ。通信事業者関係者の中には端末それぞれにSIMカードを入れるのではなく、1つのポータブルSIMで複数端末が使えるということで回線契約数が減ってしまうのではないかという懸念の声も聞かれたという。しかしその一方ではこの新しいアイデアに賛同する声も多く、モデムベンダーなども大きな関心を寄せているとのことだ。
端末を自由に切り替えられることで、消費者にとっても複数機器の使い分けがより自由になる。その結果、より多くの機器に通信チップが搭載されるようになり、さらには一個人が複数の端末を購入しやすくなることから、業界全体として端末の販売数拡大にもポータブルSIMは寄与するだろう。
ポータブルSIMの普及拡大のためにはまずドコモが対応端末を多数出すことも必要だ。だが現時点ではこれから販売されるすべてのスマートフォンやタブレットをポータブルSIMへ対応させるかどうかは未定とのこと。1台のスマートフォンの利用だけで済む利用者にはポータブルSIMはかえって利用がわずらわしいものになってしまうだろうし、ポータブルSIMとスマートフォンを2台持つのも面倒である。
とはいえ実はポータブルSIMは、SIMカードの入っているポータブルSIM対応スマートフォンでも利用できる。普段はSIMカードの入ったスマートフォンを使っているユーザーが、たとえばデータ通信料金の安いポータブルSIMをペアリングさせれば、後からペアリングしたポータブルSIMがスマートフォンに入れているSIMよりも優先して利用される。このようにポータブルSIMは「端末のSIMレス」を目指すものではなく、SIMカードそのものをスマートフォンから分離して使うことにより回線と端末の自由な使い分けを可能にするデバイスなのだ。
ポータブルSIMは今まで携帯回線が使われなかったケースにも利用範囲を広げられる。例えば、今後はクルマにも4Gが搭載されるようになるだろう。しかし、すべての人がクルマの通信契約を結ぶとは限らない。週末しかクルマに乗らず「カーナビも音楽もスマートフォンを使えばいい」と考える人も多いからだ。だがポータブルSIMを利用すれば、車に乗った瞬間に自分のスマートフォンから自動車へ自分の携帯回線を簡単にスイッチできる。このようにポータブルSIMは、身の回りにある通信モジュールが搭載されたデバイス全てを、自分の契約回線で簡単に利用できるようになるわけである。
ポータブルSIMは通信回線の利用シーンを増やし、結果として通信事業者の収益を上げることも期待できる。そして何よりも重要なのは、消費者にとって複数のデバイスを使い分けやすくなり、しかも個人情報を安全に保管しつつ、ウェブサービス利用時などのID認証としても利用できるメリットがある。ポータブルSIMのエコシステムが国内外に広がればIDサービスを含めた新しいビジネスとして普及が拡大することも期待できそうだ。
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