この連載では、シンガポール在住のライターが東南アジア域内で注目を集めるスタートアップ企業を現地で取材。企業の姿を通して、東南アジアにおけるIT市場の今を伝える。
ここ数回は、アジアのスタートアップシーンを紹介するウェブメディア「Tech in Asia」が5月に開催したイベント「Startup in Asia」で取材したスタートアップ企業を紹介している。
自分で自分の姿を撮影する「自撮り」は、日本では恥ずかしくてなかなか受け入れられない行為かもしれない。しかし海外では、「Selfie(セルフィー)」と呼ばれ社会現象にまでなっている。オックスフォード辞書が発表した「Oxford Dictionaries Word of the Year 2013」に選ばれ、同編集部が実施した調査によると、その言葉は前年と比較して170倍も英語の会話の中で登場したそうだ。
セルフィーの人気を加速させた要因のひとつがこの写真。米アカデミー賞の授賞式で司会を務めたエレン・デジェネレスがスマートフォンで撮影したものだ。そこにはブラッド・ピット、「プラダを着た悪魔」のメリル・ストリープ、「アメリカン・ビューティー」のケヴィン・スペイシーなど、米国を代表するスターたちが勢揃い。Twitter史上最多の320万回以上のリツイート、170万回以上のお気に入りが行われ、世界中に拡散された。
セルフィーはアジアでも大人気だ。シンガポールに限らずいろいろな国で電車に乗ったり、カフェに入ってみると、いたるところで特に若い女性やカップルがスマホで自分たちの姿を撮影している。あまり周りの目は気にしていないようだが、周りも大して気にしていない様子。自撮りすることに対して恥ずかしさを感じたり、ときには撮影している姿を冷ややかな目で眺めてしまうのは、日本人の国民性なのかもしれない。
前置きが長くなってしまったが、そんな「セルフィー文化」をアジアでさらに盛り上げようとするアプリが「Selfiely」だ。モバイルアプリのゲーミフィケーション化を支援するプラットフォームを提供するシンガポールのGametizeが、元々は自社製品のショーケースとして開発し、Startup in Asiaの開催中にソフトローンチした。その後、ユーザーからこのアプリ自体に対するポジティブな反響が集まり、ソフトローンチ後も同社は開発に力を注いでいる。
Selfielyは自撮りした写真の評価で競い合う、写真共有アプリでもあり、ゲームアプリでもある。ユーザーはFacebookアカウントでログインし、挑戦する「クエスト」を選ぶ。クエストごとに与えられたお題に沿って自分の写真を投稿し、その得票数やコメント数に応じて得られるポイント数で競い合う。
例えば、今回の取材に際して同社が用意してくれた「CNETクエスト」では、面白い自撮りの技を極めるのが目的で、「鏡を使って自撮りしてみましょう」「大好きな親友や家族と一緒に自撮りしましょう」「愛用しているかっこいいITガジェットと自撮りしましょう」などのお題が出されている。撮影した写真はフレームやステッカー、テキストなどのエフェクトで演出し、キャプションを付けて投稿できる。
投稿された写真には元から10ポイントが付与される。他のユーザーからの1回の投票につきそれが1ポイントずつ加算される。現時点では、高いポイントを獲得したユーザーへのインセンティブは特に用意されておらず、ユーザーたちは交流を楽しむために自発的に写真を投稿している。将来的には、得票数の多かった写真を印刷して投稿した本人に届けるなど、スポンサー企業の協力を得てユーザーに対するインセンティブを設けていきたいという。
現在、アプリのダウンロードと利用は無料。今後は、著名人も参加するクエストへのアクセス権など一部の特別な機能を、アプリ内課金システムを使ってユーザーに有料で販売することを検討している。さらに、商品やサービスを宣伝できる広告商品としてのクエストを、広告主向けに販売するなどしてマネタイズを図っていく計画があるそうだ。
海外では競合にあたるサービスがすでに存在している。もっとも知られているのは人気ミュージシャンのジャスティン・ビーバーが出資する「Shots」だろう。他にも、「Selfie Challenge」や「Selfie Battle」などがある。こうした先行者に対抗するために、Selfielyではユーザーからのフィードバックを踏まえサービスを改善したり、写真共有アプリで氾濫しがちな公序良俗に反する表現の写真を少なくしコミュニティの活性の維持に努めているという。直近の1年間で50~100万ユーザーを獲得したいとしている。
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