マイクロソフトが起業家やエンジニア向けに開催した「Microsoft Ventures Meetup」の2日目に、Internet of Things(IoT:モノのインターネット)分野のトップランナーによるパネルディスカッションが行われた。
スピーカーとして、Cerevo代表取締役の岩佐琢磨氏、Sassor取締役の宮内隆行氏、ZMP代表取締役社長の谷口恒氏、マイクロソフト ディベロップメント代表取締役社長の加治佐俊一氏が登壇。モデレーターは日本マイクロソフト Microsoft Ventures Tokyo 代表の砂金信一郎氏が務めた。
岩佐氏、宮内氏、谷口氏はIoTというキーワードで共通項があるものの、専門分野はそれぞれ家電、電力、ロボットと異なる。モデリストの砂金氏は近年急速に注目をあびている「IoT」について、現状をどのようにとらえているのか。
岩佐氏は「まだ真っ青なブルーオーシャン」と言う。ひたすら水平線が広がるような大海原で、たまにぽつぽつとホットな「赤い島が浮かんでいる」というイメージだそうだ。また宮内氏は、多様な機器やサービスがつながり始めているものの「まだそれぞれが会話できていない。“Internet of Things”というよりまだ“Just Things”」と、2人ともにまだまだ「これから」という認識を示した。谷口氏はIoTという用語そのものについては「あまり意識していない」と冷静。そのうちにインターネットに接続するのが当然となってくるから「次第に意識しなくなるだろう」という考えだ。
加治佐氏は「マイクロソフトは完全なソリューションを提供する会社ではなく、プラットフォームを提供する会社」と立ち位置を解説。未接続なセンサーや機器などが接続することでそれぞれの価値が生きてくると将来に期待し、マイクロソフトはその基盤作りに貢献できるとの考えを示した。
次の質問は、ソフトウェアとハードウェアの融合について。今後本格的にあらゆるものが接続されると期待されている。しかし実際のところ、ソフトウェアとハードウェアの世界はギャップがある。エンジニアもそうだ。人材の課題も含め、今後どのようにソフトウェアとハードウェアを融合させていけばいいのか。
岩佐氏の会社には双方に興味を持つようなエンジニアが多くいるという。中には「『ハードウェア屋はハードウェアのことだけを考えていればいいんだ』……という周囲の空気がイヤで来たという人もいる」と笑う。砂金氏が会場にも展示されているレゴのマインドストームについて振ると、岩佐氏は「ガチにハードウェア側のエンジニアからすると面白さが分からないが、(画面遷移だけで開発が閉じていた)ソフトウェアのエンジニアが何かを動かす楽しみを覚えるきっかけになるならいいね」と話す。
谷口氏の会社のエンジニア構成は1割が機械、3割が電気、残り6割がソフトウェア。ソフトウェアが多いように見えるが、実は大半がエンベッド系。「ウェブアプリ系が少ないのが悩み」だそうだ。岩佐氏は「今後IoTで専門分野の垣根はあいまいになるのでは」と言う。一方、宮内氏のところには「1人で任せてもらったほうがいい」と万能なタイプのエンジニアもいるという。それは“ベンチャーならでは”なのかもしれない。
最後の質問として砂金氏は核心に踏み込んだ。日本はIoTのビジネスや技術で今後、グローバルで勝てるのか。砂金氏は「スマホは欧米にやられた。しかしIoTは家電に近い。家電なら日本にはエンジニアが多数いるし、ロボットが生活に溶け込める文化も根付いている。技術的、文化的な土壌があるのだから、IoTならもう一度勝てるのではないか」とスピーカーに問いかけた。
「そう。めちゃめちゃ勝てるのに、なぜみんなこっちに来ないのか」と岩佐氏。もどかしさもあるのだろうか。岩佐氏によると日本の強みはブランド力。家電やロボットなら「日本製」とついていれば、それだけで選んでもらえる。それは「人生の先輩方が培い、脈々と継承されてきたもの」でもあるという。岩佐氏は「人材力でもブランド力でも日本はIoTで勝てる要素がある」と力説した。
そこに砂金氏が「海外の模倣にはどう対抗する?」と質問すると、岩佐氏は「さくっとやられたら、さくっと負けてしまう。問題はいつやられるか。やられる前にシェアを取り切ればいい」と、ジャンプスタートして早めにシェアをとることの重要性を指摘。日本の投資の現状についての懸念も示した。
谷口氏も同意する。IoTにひっかけて「RoT(Robot of Things)がぼくらの戦略」と話しながら、谷口氏も「日本のデバイス(の技術力)は世界一」と自負を持つ。「2歩先のものを作れば勝てるのでは。大手とベンチャーが協業するのも大事。今進んでいるところ」と話す。
宮内氏も日本の技術力の高さには同意しつつも「見せ方」という課題も指摘。いいソリューションとして提案する、どのような新しい体験があるのかなど、そうしたアピールはまだ日本のIoTができていないところだという。この指摘については、ほかのスピーカーからも悔しがりながら同意する声が続いた。
あらためて砂金氏は加治佐氏にも「日本はIoTで勝てるか」と質問をした。加治佐氏の答えも「勝てると思う」。日本のこれまでの成功パターンを加治佐氏は「Inside of Things」と言う。小さくしたり、多様な機能を搭載してきた(時には過剰な機能や品質になりつつも)。しかしこれからのIoTはデバイスとインターネットがつながる世界であり、デバイスとクラウドが連携する。加治佐氏は「これからは小さなところ(デバイス)に押し込める必要はない。ネットで(機能を)作り込み、分散させ、それらをまたうまく集約させればいい」。
最後に砂金氏は「日本はもっと将来活躍しなくてはいけない。いまIoTに優秀なエンジニアが集まりつつある」と話し、IoTの将来が明るいことを強調してパネルディスカッションを閉じた。
CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)
ものづくりの革新と社会課題の解決
ニコンが描く「人と機械が共創する社会」
ZDNET×マイクロソフトが贈る特別企画
今、必要な戦略的セキュリティとガバナンス