3月25~26日に開催されているウェアラブルテクノロジのカンファレンス「Wearable Tech Expo in Tokyo 2014」。ヘッドマウントやスマートウォッチをはじめとした、国内外のウェアラブル業界のキープレーヤーが登壇。最新技術や動向、展望を2日間にわたって語るイベントとなっている。
SFアニメ作品が描き出した近未来の世界。ウェアラブル端末の登場は、さまざまな作品に描かれてきた近未来というフィクションを現実のものにしようとしている。果たして、ウェアラブル端末は私たちのライフスタイルに何をもたらすのか。
デジタル業界の第一線で活躍するTelepathyの井口尊仁氏と慶應義塾大学教授の夏野剛氏、そしてSFアニメの世界で活躍するSF小説家の冲方丁氏と映画監督の本広克行氏が、「日本のアニメに見るウェアラブルの未来」について語り合った。
冲方氏が最新作で構成と脚本を担当している「攻殻機動隊」に代表されるように、日本はSFアニメ大国。ウェアラブル端末のような最新ガジェットが好きなギーク層の中にはSFアニメが好きな人も多く、そういう人たちは現実に登場するずっと前からアニメを通してウェアラブル端末に触れてきた。こうした体験がウェアラブル端末の可能性を引き出すと夏野氏は語る。
「ウェアラブルの可能性を引き出すには、ハードが持つポテンシャルをどれだけ想像できるかが重要だ。日本のSFアニメにはすでにウェアラブルが創り出した近未来が描かれており、こうした作品に触れてきた日本人はウェアラブルのポテンシャルを理解しているのではないか」(夏野氏)。
しかし現実には、こうした近未来を実現するデバイスは海外から生まれていると指摘する。「アイデアは日本のアニメに描かれてるのに、技術が米国からくるのが悔しい」と井口氏。夏野氏は、日本では先進的なアイデアに対する世の中の理解と投資が十分でない点を挙げ、「アイデアはすべてSFアニメの中にある。こうした作品に描かれている近未来の世界に多くの人が関心を示すべきだ」と提言した。
一方、こうした近未来の世界を描いてきたクリエイタたちは、テクノロジが変革させた世界に起こりうる弊害についても指摘する。特に、新しいテクノロジに対する抵抗感から生じる社会の拒否反応にどのように対応するか、また新しい価値観の登場に対して既存の社会の仕組みや制度がどのように適応するかは大きな課題であり、「時間が解決する」という言葉で片づけられるものではないとする。
「さまざまなテクノロジの登場で、“社会が脱皮”しているのではないだろうか。ただ、その脱皮についてこれない人々が不幸にならないかが気がかりだ」と冲方氏。本広氏も、“もしも水を飲むだけで高級ワインを飲んだような体験ができたら”という投げかけに対して「テクノロジのおかげでさまざまなバーチャル体験が実現しても、果たしてそれが本当に幸せだと言えるのか」と疑問を投げかけた。
ウェアラブルがもたらす利便性や豊かな体験に焦点を当てるだけでなく、それによって社会やライフスタイルにどのような変化が生まれるのか、そしてその変化が世の中にとって望ましいものなのかを議論する必要性を感じさせるコメントがクリエイタ側から語られたのが印象的だった。
ただ、ウェアラブル端末がもたらす利便性は私たちのライフスタイルに大きな変革をもたらすというのが、4人の共通見解だ。
夏野氏は「人の記憶は脳内からクラウドサーバに記録されるようになった。これから人の脳は、“記憶するためのもの”から、“イマジネーション、クリエイションするためのもの”になる。利便性によって生まれた“ヒマな時間”によって、人はよりクリエイティブになれるだろう」と語る。
また、冲方氏も「プロでなくてもテクノロジを駆使して優れたクリエイティブができる時代になってきた」と語る。本広氏も「クリエイティブを発信する人が視聴者とダイレクトに繋がる時代になった。プロのクリエイタはより一層センスを磨いて勝負していかなければならない」と鼓舞した。
テクノロジは私たちのさまざまな行動を代替し、負荷を軽減することで思考や行動に“余裕”を生み出していく。ウェアラブル端末の普及が進めば、私たちの生活や仕事はさらに便利になり、その余裕も大きくなっていくだろう。重要なのはこの余裕をどのように生かしていくかであり、それがクリエイティブなものになれば、世の中はさらに豊かで楽しいものになっていく可能性を秘めている。
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