3月25~26日に開催されているウェアラブルテクノロジのカンファレンス「Wearable Tech Expo in Tokyo 2014」。ヘッドマウントやスマートウォッチをはじめとした、国内外のウェアラブル業界のキープレーヤーが登壇。最新技術や動向、展望を2日間にわたって語るイベントとなっている。
テクノロジの進化と製品の改善努力により、装着しただけで目の前に迫力のあるバーチャルリアリティ(VR)を体験することができるヘッドマウントディスプレイは、現実世界と同じような体験をより違和感なくスムーズに行えるようになってきた。また、VRを楽しめるコンテンツも飛躍的に増加しているのが現状だ。
しかし、「VRが私たちにもたらすのはただ“楽しい”だけの体験にとどまらない。VRは体験を提供するだけでなく、人と場所や新たな価値観を結びつける新たな手段になる」と語るのは、VRヘッドマウントディスプレイ「Oculus Rift」を開発するAKQAのダレル・ネルソン氏。25日の「ゲームを超越し、インタラクションの未来へ」と題したセッションに登壇し、VRの新たな活用事例として、日産自動車が東京モーターショーで行ったOculus Riftを用いたプロダクトマーケティングの試みについて紹介した。
ネルソン氏によると、日産にはスマートデバイスには関心があるが車には興味がない人たちにどのように車に対する興味を喚起するかという大きな課題があり、解決のためには彼らが欲しい車を提案するのではなく、彼らから直接声を吸収することが重要だと考えたという。
そこで着目したのが、車のデザインコンセプトだ。従来は日産社内のデザインスタジオに任せていたデザイン企画作業に、一般の人の意見を取り入れていくという試みにウェアラブル端末を活用した。「どうすれば多くの人に車に対する情熱を持ってもらえるか。その解決方法として、社内で留まっていたクリエイションに多くの人を関わらせるコ・クリエイション(共同創造)に挑戦した」とネルソン氏は語る。
具体的には、東京モーターショー2013の日産自動車ブースに出品したコンセプトカー「NISSAN IDx」のカラーリングやデザインを、来場者の好きなようにカスタマイズすることができる体験型コンテンツを展開。AKQAのVRヘッドマウントディスプレイ「Oculus Rift HD」を用いて、日産のデザインスタジオで行われるデザインプロセスを疑似体験できるような空間を創り出したという。
このVR体験は7分間に及ぶ内容だったが、結果的には全体で95%の完了率を達成し、のべ250時間のユーザー体験を提供したという。「多くの来場者を日産の世界に引き留めることに成功した」とネルソン氏。それに加え、参加者からは2018種類にのぼるデザイン案が寄せられ、また解析可能なユーザーログも1万4000件以上集めることに成功。従来のマーケティング活動からは見えてこない消費者の潜在ニーズを把握することができたのだという。「集まったデザイン案やログデータは日産自動車のR&Dチームにフィードバックされて、今後の製品開発に反映されるだろう」(ネルソン氏)。
この事例から学べるのは、ウェアラブル端末とバーチャルリアリティが生み出したコンテンツが、企業と人を強く結びつける存在となり、企業に新たな気付きをもたらすことができるということ。“楽しみ”や“驚き”ばかりが注目されてきたウェアラブル端末に、“プロダクトマーケティングでの活用”という新たな可能性を見つけることができたのだ。
「VRは、ヘルスケア、建築、デザイン、コミュニケーションデザインなど、ゲームプラットフォームを超える新たな体験を生み出していくべきだ。いまVRで実現できているのは氷山の一角に過ぎず、今後も多くの人々と共にウェアラブルの将来を創り出していきたい。未来はまだ始まったばかりだ」とネルソン氏は語った。
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