日本音楽著作権協会(JASRAC)は3月24日、創立75周年を記念したシンポジウム「著作権集中管理団体に求められる役割」を開催した。国内の著作権集中管理団体として代表的な存在であるJASRACが、パネルディスカッションで「デジタル技術は集中管理団体を不要にするか」という、自らの存在意義を問うテーマを掲げたことなどが話題を集め、事前予約は満員となった。
シンポジウムは2部構成となっており、第1部はJASRAC常任理事である北田暢也氏と、成蹊大学法科大学院教授/一橋大学名誉教授の村上政博氏の講演。第2部のパネルディスカッションは、中央大学 法科大学院教授の安念潤司氏がコーディネーターを務め、早稲田大学教授の上野達弘氏、国士舘大学大学院 総合知的財産法学研究科 客員教授の上原伸一氏、日本大学 芸術学部 客員教授の福井健策氏、JASRAC理事長の菅原瑞夫氏が登壇し議論した。
第2部のパネルディスカッションに注目が集まる中、「著作権集中管理団体の現状における役割」というテーマで、JASRACの現状を改めて詳細に示した北田氏の講演。そして、「諸外国における著作権の集中管理」というテーマで独占禁止法専門家の立場から諸外国の状況と日本におけるJASRACの立ち位置を示した村上氏の講演は見ごたえのある内容となった。
特に村上氏の講演では、こと音楽については欧州主要国においても単一の団体が著作権を集中管理していることが語られたほか、米国では3団体が存在しているがそれぞれが異なる楽曲を保有していることから、競争や競合といった関係ではなく単に利用者側の支出総額が増大しているだけという現状に触れ、単一団体による管理が効率性と経済合理性を持った仕組みであるとの見解を示した。
「デジタル技術は集中管理団体を不要にするか」をテーマにしたパネルディスカッションでは、それぞれに立場の違いはあれど、登壇した全員が冒頭のコメントで必要性を訴えた。まず、弁護士の福井氏は「(来場者の)期待に応えたい思いはあるが」と前置きしつつ「デジタルによって流通するコンテンツが増大し、いわゆる『孤児著作物』が数多く存在する現状を考えると、著作権集中管理団体に期待するものは多い」とした。
一方、主催者でもある菅原氏は「デジタル技術によって権利者が個別にプラットフォームやユーザーと対峙できるようになるのであれば、JASRACは不要になる」と指摘。その上で「権利者が個別に交渉するようになると、曲目ごとに金額を変えたり、嫌な相手に許諾を与えなかったりと不利益が生まれる恐れがある。そういった個人のわがままを封じこめる一方、円滑に市場へと流通させるのが集中管理団体の役割」と説明した。
デジタル技術で変化が考えられる内容として俎上にあがったのは、公正取引委員会からの独禁法排除措置命令でも話題を集めた放送事業者との包括契約。上野氏が「利用許諾については利便性の面から従来どおり包括契約でいいとしても、デジタル技術を伴う全曲目報告などが整う中で、徴収・配分については個別でやるという議論はありえるのではないか」と指摘し、公取委や裁判所とは違う内容で一石を投じた。
これに対し、元朝日放送著作権部長でもある上原氏は「フィンガープリント(FP)技術を用いたレコード音源曲の特定でも80~90%。(FPの使えない)生演奏については元から全曲報告義務があるが、それも100%は達成できていない」との現状を報告。また、そうした要因は個々の現場番組制作者の考え方にあるとし、いくらデジタル技術が進んだとしても、「自動的に検知して100%報告するようなことは無理」との見解を示した。
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