3月10日、デジタルハリウッド大学大学院駿河台キャンパスにて「エンタテインメントの未来を考える会 黒川塾(十七)」と題したトークセッションが行われた。コラムニストの黒川文雄氏が主宰、エンターテインメントの原点を見つめなおし、ポジティブに未来を考える会となっている。
今回はゲーム・エンタメ系メディアの編集に携わる3名を招いて、2013年のエンターテインメントのトピックを振り返りつつ、あくまで勝手賞という位置づけながら、エンターテインメントの未来を考える大賞を決めるというテーマのもとに実施した。ちなみに2012年は「パズル&ドラゴンズ」などを制作したガンホー・オンラインエンターテインメントを選出している。
登壇したのは、KADOKAWA エンターブレインブランドカンパニーで雑誌「週刊ファミ通」の編集長を務める林克彦氏、「インサイド」「Gamebusiness.jp」など、イードが運営するゲーム系メディアを統括する土本学氏、ITニュースサイト「CNET Japan」でエンタメコンテンツを扱う佐藤和也の3人。さらに占い師タレントとして活躍するゲッターズ飯田氏もゲストとして登壇した。
冒頭では「モンスターハンター モンスター占い」という著書を出すほどのモンハン好きで知られる飯田氏だが、従来のゲームに比べて、最近のゲームは"全般的に分かりにくくなった”と指摘した。
飯田氏はそもそもスマートフォン向けゲームアプリをインストールするにはどうしたらいいかわからないと話す。また、昨今増えている基本無料のタイトルについても、多額の課金の話題だけがひとり歩きしているイメージが強く、プレイすると騙されるのではないかという恐怖感を持っているそうだ。このほか、ネット接続が前提となっているゲームについては「ネット接続をしないと面白くないというのはどうかと。ネットがつなげなくても面白いゲームを遊びたい」という考えもあるという。
いわゆるゲームに興味のある人にとって“できて当たり前”“知ってて当然”ということが多すぎるため、一度離れてしまうと戻ってこられないのが最近のゲームであり、エンタメ業界全般においても最も不親切な業界であると指摘する。また、ゲームの進化としてよくうたわれる“リアルさ”についても言及。飯田氏は、自身のまわりにリアルさでゲームを褒めている人はいないとし、イマジネーションがなくなるのではとも語っていた。
ハードのスペックが上がることにより、コントローラや操作が複雑化する側面は確かにあり、不親切な部分やマイナスイメージがつきまとっていることについては、伝える側としても一考するところはある。またゲームの原体験がどこにあるかによっても、感覚が異なるところはある。登壇者はほぼファミコン世代と呼ばれる年代だが、若年層であれば、はじめから複雑化した操作方法になれ、ゲームビジュアルもフォトリアル化しているのが当たり前という世界だ。それによって、より没入していく感覚と達成感を味わえるのがゲームとしての魅力でもある。
もっとも、必ずしもリアルさや複雑化した操作をこなすことを追求したゲームばかりがヒットしているわけではなく、シンプルさを出したスマートフォン向けゲームも多種多様にリリースされている現状もある。「むしろリアルさが普通で、ドット絵で表現するゲームが目新しさを感じられるかもしれない」(林氏)というような一周まわった状況も考えられる。さらに、マルチプラットフォームも当たり前の状況のなかで、どこからヒット作が飛び出すかもわからない状況だ。「艦隊これくしょん~艦これ~」もPCブラウザゲームというプラットフォームでムーブメントを起こしたヒット作で、「次世代ハードのPS4の好調さと艦これのヒットというある意味両極端な例で、どこからヒット作が生まれてきてもおかしくない状態です」(林氏)と分析する。
登壇者が考える魅力的なハードやコンテンツはどういうものだったか。まず林氏はPS3「The Last of US」、PS3/PC「ファイナルファンタジーXIV: 新生エオルゼア」、3DS「ゼルダの伝説 神々のトライフォースII」を挙げた。特にThe Last of USのストーリー面を評価し、この部分についてはあまりゲームをしない飯田氏も興味を持っていた様子だった。
土本氏は注目していたものとして、ヘッドマウントディスプレイの「Oculus Rift」(オキュラス リフト)を挙げた。最近、土本氏の子供が生まれ、日々新しいことを覚えながら楽しんでいる様子を見て、"新しい体験”こそがエンターテイメントであると考えているという。オキュラス リフトは、視覚や聴覚でさらに新たな体験に導いてくれる可能性を秘めていると説明した。ソフトとしてはスマートフォン向けの「ヘイ・デイ」と、Wii U「Wii Sports Club」。土本氏としては、Wii Uはまだまだこれからのハードだと主張する。
筆者は3DS「ソリティ馬」とスマホ向け「ラブライブ!スクールアイドルフェスティバル」(スクフェス)を挙げた。スクフェスに関しては以前掲載したインプレッション記事でも少し触れているが、遊べる楽曲そのものに課金を設けず基本無料で楽しめることにより、楽曲を通じて新たなファンを獲得するとともに、アニメから興味を持ったファンが過去にリリースされた楽曲に触れ、コンテンツへの没入感を深められる効果が大きかったと考えている。
黒川氏が挙げたのはスマホ向けの「モンスターストライク」。ミクシィの業績回復を担った点や、さまざまなゲームのいいところを凝縮して詰め込み、みんなで遊べるゲームとして昇華させたタイトルとして評価。そのほかムーブメントを巻き起こした「艦これ」、ハードとしてはオキュラス リフトやPS4も挙げていた。
最終的にエンタテインメントの未来を考える大賞としたのはPS4。厳密にいえば日本では2013年に発売されていないものの、林氏は2013年を振り返ると新世代機の話題が中心だったと語る。準備期間として2013年が動いていたことや、日本発売は諸外国から遅れて最後発となり失望する声も聞かれたが、海外での順調な滑り出しを切ったことで日本でも購入したいという雰囲気を作り出せたことが良かったと語っていた。
ゲームハードが選出されたということで、黒川氏がソフトでも受賞作を選出することを提案。来場者も含めてさまざまなタイトルが挙がったが、最終的にはソリティ馬が選出された。
ソリティ馬はポケットモンスターシリーズの開発で知られるゲームフリーク初の自社パブリッシングタイトルで、ソリティアと競馬の要素を掛け合わせたゲーム。ニンテンドーeショップでのダウンロード専売ソフトで価格は500円。ソリティアをうまくこなすほど馬のパワーがたまり、そのパワーを使って速く走るという内容となっている。
筆者の意見となるが、提案した理由として競馬が詳しくなくてもカードゲームの定番であるソリティアがわかれば楽しめる間口の広さやわかりやすいルール、馬の操作もアクションではなく位置取りを決めるという簡単な操作性と絶妙なかけひき、個性的なキャラクターに独特なセリフから醸し出される世界観、馬を育成するやりこみ要素などあらゆる面において秀逸。500円という価格も、圧倒的にコストパフォーマンスが高いと感じている。ゲーム初心者から上級者まで幅広いユーザーに面白いゲームとして勧められる魅力的なソフトだ。
また、昨今では個人や中小規模の開発会社によるゲーム開発が注目を集めているなか、直接ユーザーに届けられるダウンロード専売ソフトにもスポットライトが当てられるきっかけになればというのも提案した理由のひとつ。ネットを中心に話題となっているものの、まだまだ知らない層も多いと思われる。
最終的な選出の決め手は、数多くのタイトルが挙げられたなかで飯田氏以外の4人が実際に遊んでいたからというシンプルな理由だった。ただ「瞬間風速的にはまったタイトル」(林氏)、「丁寧なゲーム作りを感じられる」(黒川氏)、さらに土本氏のインサイドとGame*Sparkのスタッフが選ぶ「Game of the Year 2013」の3DS部門で受賞したことを踏まえると、今振り返っても選出に足りうるタイトルだったと感じている。
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