「痛印堂」(いたいんどう)という、イラストを印面に彫ったオーダーメイドの印鑑の通販サイトがある。かわいい女の子のイラストが入った“痛い印鑑”、すなわち“痛印”を提唱し、銀行印として使えるなど実用性が高いところから話題になった。さらに人気作家や「魔法少女まどか☆マギカ」、「アイドルマスター」などのアニメ作品とコラボした公式の印鑑を販売しているところから、注目を集めている。
痛印堂の印鑑はゴム印や浸透印ではなく、ツゲを使用したものであるため実用性が高いことが特長。運営元であるe3paperの代表を務める中川貴文氏によると、持ち主の実名が入ったものであれば、イラスト入りの痛印でも銀行口座を開設し銀行印として使用可能。一部窓口の対応によって認められない事例もあるが、ほぼ認められる状態であるという。
オーダーメイドで自分だけの印鑑が作ることができ、しかも丸印なら1380円から作成できる。軽い気持ちで記念に作ろうと思えるぐらいの手頃な価格も魅力だ。もともと用意されているデザインやイラストから希望の文字を彫ってもらうことも可能だ。
ほかにも法人登記にも使用できるほか、同社に寄せられた購入者の報告によれば、宅急便の受領印や検品、出欠確認などさまざまな場面で利用されている。
市役所での対応については「自治体や窓口によって印鑑の図案化は登録できないと定められているところもあるので、認められるかどうかは本当にまちまちです」(中川氏)としながらも、これまでに出生届や実印登録ができたという報告もあるという。さらにはこんなエピソードも。
「最近、痛印を押した離婚届が受理されたというメールをいただきました。最初は婚姻届だと思って喜んだんですけど、よくよく見ると離婚届と書かれていまして……。すごく複雑な心境です」(中川氏)。ちなみに婚姻届の受理報告はまだないそうだ。
e3paperは2010年創業のベンチャー企業で、当初は同人誌のダウンロード販売や、漫画作成ソフト「コミPo!」の素材を販売する事業を展開していた。中川氏も印鑑業界はまったく未知の世界だったという。そんな同社が痛印を作るきっかけはコミPo!のグッズ制作を、四国の印鑑会社から持ちかけられたことだった。さまざまなグッズを考えるなかで、当初はゴム印スタンプで展開していたが「ゴム印スタンプは他の会社さんもやってますし、目新しさがない。そんなとき、ふとツゲで彫って作れないかと思いついたことが全ての始まりでした」(中川氏)。
そのハンコ屋から、印面にイラスト入りのものでも彫刻できるという返事のもとにサンプルを作成。「実際にゴム印と印鑑を見比べると、直感的に印鑑の方が目新しくて、自分でも欲しいと思ったんです」(中川氏)と、ゴム印をやめて印鑑に絞ることにした。痛印堂の名称も、イラストを全面にラッピングした車の“痛車”が知られるようになっていたことから、痛い印鑑ということで痛印堂にしたという。
その後、印鑑職人や印鑑会社との提携や、人気イラストレーターにもイラスト提供などの協力を仰ぐなど販売サービスの準備を進め、2012年6月に痛印堂を開設。文字のみ入っているものが印鑑という一般的なイメージがあるなか、イラスト入りの印鑑が銀行印としても使えるという意外な実用性と、参加作家の知名度も相まって話題になり、事業も痛印堂一本に専念する形にしたという。
「サンプルを作られた印鑑会社からは銀行印として登録できるという返事はいただいていたのと、イラスト入りの印鑑が銀行印として認められた話題をネットで見てはいました。とりあえず痛印堂を開設して真っ先に銀行に行って手続きをして、認められたことをTwitterでつぶやいたらすごく拡散されました。後にゲームメーカーの社長さんが話題にしてくださったこともあって、アニメやゲーム会社さんからも注目していただけるようになりました。そこが転機だったと思います」(中川氏)。
痛印堂では著作権上問題のない一次創作のイラストに限って注文を受け付け、二次創作のイラストを使用した痛印は、権利元の許諾が取れた一部コンテンツを除き原則として販売しない。しかしながらユーザーの要望や権利を保有する会社からのアプローチもあり、2013年4月からは許諾を得たアニメ作品などのコラボ痛印の販売も開始した。
第1弾となった「劇場版魔法少女まどか☆マギカ」の痛印はわずか2時間で1000本を完売。その後「うたの☆プリンスさまっ♪マジLOVE2000%」、「Fate/stay night」、「ガールズ&パンツァー」、「IS<インフィニット・ストラトス>」、「アイドルマスター」、「アイドルマスター ミリオンライブ!」などといった、熱心なファンを持つ作品と次々にコラボ。
「どれもだいたい受付開始から数時間で数千本の注文をいただきます。直近では3月12日に『劇場版 TIGER & BUNNY -The Rising-』の注文を受け付けましたが、1時間で通常のハンコ屋さんが扱う3カ月分の印材が無くなるほどの注文でした」(中川氏)というほどの人気。なかには一度に40本もの注文をした購入者もいたとされ、一定の販売期間は設けているものの、どれも数日から数週間で売り切れてしまうという。
アニメやゲーム業界からの注目度も高く、さまざまなコラボの打診が舞い込んでいる。「当初はいろんなコラボ案を考えていましたけど、現状では年末まで予定が埋まるぐらい、お話をいただいている状態です」(中川氏)
ただ単に人気作とコラボするだけではなく、それ以外の驚きを出すことも常に考えている。2013年12月には「魔法少女まどか☆マギカ」の紫高の痛印として、ソウルジェム付きチタン製印鑑に上からのぞけるアクリル印鑑、描き下ろしイラストの化粧箱などをセットにして販売。1万9800円という決して安い値段ではなかったが、完全受注生産で多くの注文があった。
「特にチタン製のものは、以前から興味があったのですけど細かく彫ることができないものですし、彫る時間がかかる分コストも上がります。ほとんどの会社さんが割に合わないと断るのですが、さまざまな手を尽くして、値段も一般的なオーダーメイドのチタン製印鑑よりもむしろ安いぐらいの価格で、その他のものもセットにして販売しました。利益よりも面白いことをしたいという一心でしたから、採算も考えていなかったですしリスクも高かったです。でもみなさんに驚いてもらったのは良かったですし、多くの注文をいただいたことにほっとしたのが本音です」(中川氏)
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