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カシオをぶっちぎりの世界一に--時計の常識を覆した29歳・斉藤さん

藤井涼 (編集部)2014年03月18日 09時00分
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 この連載では、現在28歳の筆者が、同じく20代で活躍する大企業の若手社員と、同世代ならではの共通点や仕事への思い、さらには休日の過ごし方や好みの本など幅広いテーマについて語り合うことで、大企業や若手ビジネスパーソンの実態を明らかにしていきます。

 今回はカシオ計算機(カシオ)の斉藤雄太さん29歳です。2010年にカシオに入社し、現在は時計事業部モジュール開発部実装開発室で、時計のパーツの設計などを担当しています。また入社4年目にして、業界史上初の「渦巻き形状」のアナログ時計用ソーラーを開発した人物でもあります。


カシオ計算機 時計事業部モジュール開発部実装開発室の斉藤雄太さん

カシオに根強く残る「創造貢献」の精神

――カシオに入社した経緯を教えてください。

 子供の頃、よく父親が日曜大工で机やベッドを作ってくれたことがきっかけかもしれません。その様子をいつもそばで見ながら、いつか自分も人の役に立てるモノを作る仕事をしたいと思うようになりました。そして、中学高校で理系を目指し、大学は東京工業大学に進んだのですが、その時に自分の中で少し道を誤ったと思ったのがバイオ系を選んだことです。当時はモノ作りができれば何でもいいと思っていたのですが、自分が作りたかったのはもっと身近で誰もが使えるモノだったことに気づき、就活では思い切って電機系メーカーを受けることにしました。

 いくつかのメーカーを見ていく中で、カシオは社員数がそれほど多くないのに世界的に広い販売網を持っていることを知りました。そこで、カシオに入れば世界中に自分が関わった製品を届けることができて、そこに自分が関われるウェイトも大きいんじゃないかと感じたんです。また、「創造貢献」という社是があるのですが、その理念が根強く浸透していて、社員皆が「他社がやらないことをやろう」という意識を持っていることに魅力を感じました。他にも何社か受けていたのですが、第一志望だったカシオから内定を貰えたので入社を決めました。

――いまでは携帯電話で時間を見る人も増えていますが、当時から時計はしていましたか。

 実は僕も携帯電話で時間を見ていて、就活の時に初めてプロトレックというデジタル時計を買いました。就活でデジタル時計をしている人はなかなかいないと思うのですが、やはり高い買い物なので就活だけでなく将来にわたって使える時計を選びたいと思い、プロトレックを選びました。気温や気圧、高度なんかも測れるので、サバイバルグッズとしてもこれはいいぞと思って(笑)。その時計は今でも愛用しています。

――入社する前後で会社に対するイメージのギャップはありましたか。

 カシオに魅力を感じた「他社がやらないことをやろう」という理念は入社後も変わらなくて、そこに対してギャップはありませんでした。ただ、これはどの会社でも言えることですが組織として動いているということを、当時の自分はあまり理解できていませんでした。割と生意気だったので立場を弁えずにズバズバ言って怒られたり、仕事で思うように評価してもらえず悶々としたりする時期もありました。でも若いうちはそれが当たり前ですし、やはり勉強させてもらっている気持ちを忘れずに感謝することが、自分が成長していくためには必要なんだと思います。

業界初の「渦巻き形状」--ヒントはあの自然現象

――では、実際に入社後はどのような業務を担当していたのでしょう。

 配属されたのは時計の中身を設計する部署でした。最初に誰もが経験するのが時計のモジュールの評価です。組み立てて、低温や高温、磁気が強い状況などで、製品がちゃんと動作するかを評価します。それと部品の研修ですね。新しい部品を作る時にはまず金型を作るのですが、設計した寸法とズレがないかを顕微鏡を使ってミクロン単位で確認します。寸法は1つの部品で100~200カ所、一番多いものだと1000カ所ほど測ることもあります。これらの業務が1~2年ほどあり、そのあと新しい要素部品を開発する仕事を担当するようになりました。その中で、僕がメインで担当したのがソーラーセルの改良でした。

――ここで斉藤さんが開発した「渦巻き形状」のソーラーセルが登場するんですね。

 そうですね。まずソーラー時計(太陽電池時計)について簡単に説明させて下さい。ソーラー時計は針と文字盤から漏れた光をソーラーセルで受け取ってモジュールに電力として供給する仕組みを採用しています。この電力量によって時計のデザインや機能が決まってくるので、ソーラーのパワーが強いほど時計としての商品価値が上がることになります。

 またソーラー時計の充電には3Vの電圧が必要なのですが、1つのソーラーセルでは0.5Vしか電圧が発生しません。そのため3Vにするには6つのソーラーセルをつなげる必要があるんです。さらにソーラーセルには発電量が1番小さいセルとその他のセルの発電量が同じになってしまうという性質があり、6つのセルをなるべく均等に分割しなければいけません。そのため、これまでのアナログ時計のソーラーセルはピザのように扇形に並べられることが一般的でした。

  • ソーラー時計を充電するために6つのソーラーセルをつなげる必要がある

  • 安定して充電させるには発電力を均等にする必要がある

  • アナログ時計のソーラーセルは扇形が一般的だった

 この形状は他の時計メーカーも同じものを使っていて、カシオでは2001年発売のウェーブセプターというモデルから使用しています。形が単純なので設計しやすいことがメリットなのですが、必ず針がどこかのセルに大きな影を作ってしまうため、全体の発電量が下がってしまうという問題を抱えていました。そこで、この針の影をどうにかできないか考えたんです。

――針の影の問題を認識しながら、なぜ各社は10年以上も同じ形状を採用してきたのでしょう。

 先ほどお話したように、ソーラー時計は漏れ出た光を電力に変えますが、従来のモジュールは必要な電力量が大きく、より多くの光を通すためには、ほぼ透明の文字盤を使わなければいけませんでした。そのため、ソーラーセルのつなぎ目が目立ってしまい、あまりおかしな形にするとデザインを損ねてしまうという問題がありました。ただ、最近はモジュールも進化して、より少ない電力で充電できるようになったので、文字盤に綺麗な色を着けることができるようになりました。そうなると、ソーラーセルの形状にも、もう縛りがなくなったんじゃないかと思ったんです。

 そこで目標として考えたのが、針の影が分裂して何個かのセルに分散して落ちるようにすることでした。たとえば、セル6つの合計の面積が600だとしたら、1つのセルの面積は100になりますよね。発電量は一番小さいセルに合わさるので、仮に針の面積が30だとしたら、発電量は常に70になってしまいます。ただ、この針の影を3つのセルに10ずつに分散できれば発電量は90まで上げることができます。

 ただ、針を分裂させるというのはデザイン的にあり得ないので、ソーラーセルをどうにかしたいと考えました。たとえば、6つのセルを3倍の18個に分割してさまざまな組み合わせを試してみたりしていたのですが、中々うまくいきませんでした。そうやって1年以上悩んでいたのですが、ある日家で台風の衛星写真を見た時に、これをソーラーセルに応用できるんじゃないかと閃いたんです。台風のように渦巻き形状のセルなら、針がどこに動いても常に3つに分散できると考えました。

  • 針の影を複数のセルに分散させることで発電力ロスを解消

  • 針の移動にともなう受光面積の変化

  • 斉藤さんが台風からヒントを得た「渦巻き形状」

――すぐれたデザインは自然からヒントを得ていることが多いと言いますよね。渦巻き形状のソーラーセルが浮かんだ時の気持ちを振り返ってみていかがですか。

 よく頭に電気が走るといいますが確かに走りましたね、アハ体験みたいな(笑)。この渦巻き形状によって、発電量が扇形と比べて最大20%上がったことで、時計の加飾面積がこれまでの約1.4倍に、針面積が約1.3倍に向上しました。この形状は特許として出願しています。


従来の扇形(左)と渦巻き形(右)のソーラーセル

――従来の扇形と比べるとかなり思い切った形状だと思うのですが、社内から反対の声はありませんでしたか。

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