行政や企業が公開するオープンデータや、メディアが取材で集めたさまざまなデータを用いて、社会問題の解決に取り組む「データジャーナリズム」の動きが、国内外で急速に注目を集めている。そうした流れを受け、朝日新聞では国内の大手メディアでは初となる「データジャーナリズム・ハッカソン」を3月1、2日に開催する。その実施に先駆けて、テーマ設定やチーム編成を行うアイデアソンが、2月20日に朝日新聞本社にて行われた。
データジャーナリズムに現時点では明確な定義はないが、「DATA DRIVEN JOURNALISM(データ主導による報道)」とも呼ばれ、収集したデータをわかりやすく分析・解説する調査報道の一手法であるとされている。新聞社では以前から、インフォグラフィックスなどわかりやすいビジュアルやグラフを用いた記事を紙面で発表してきたが、ネットの登場により、最新の技術を取り入れ、双方向性や動的なデータも用いる報道手法へと発展し、海外では多くの事例が発表されている。
朝日新聞では、データジャーナリズムを含む次世代の報道に挑戦する取り組みとして、「未来メディアプロジェクト」を進めており、今回のハッカソン開催もその一つとして位置づけられている。冒頭のあいさつでは、日頃は受け手側である人たちに参加してもらい、オープンで多様性がある自由な議論で、記者の視点を拡げたいとし、参加者にはコンテンツを生み出す醍醐味を味わってもらいたいとコメント。また、国内外の先進事例を紹介し、より伝わる報道をするために、テクノロジーがまったくわからないジャーナリストたちをぜひ助けてほしいと訴えた。
今回のイベントで特徴的だと言えるのが、ハッカソンのテーマを記者が提案し、一般から募集したプログラマーやデザイナー、データアナリストなどのスキルを持つ人たちとでチームを作り、2日間という短期間でアプリやウェブツールを開発するという形式が取られている点だ。また、約1時間という短い時間でアイデアをまとめる必要があることから、記者に加えて、進行役を務めるファシリテーターが参加。最終的に、11名の記者と10名のファシリテーター、一般からの51名で、テーマに合わせて8つのチームが編成された。
アイデアソンは、災害、医療、少子高齢化、地域社会、スポーツなど8つのテーマについて、目指す方向性や成果物としてどのようなものを想定しているかを各記者がプレゼンテーションするところからスタート。使用するデータは、記者が日頃の取材で収集したものに加え、data go jp、世界銀行、ゼンリンデータコムといった企業から協力があり、気象庁や朝日新聞聞蔵(記事データベース)からも期間限定ながら有料データが提供されたのは、新聞社主催ならではかもしれない。
結果、短い時間ながらすべてのチームがアイデアを発表し、中にはプレゼン資料まで作成するところもあった。内容だが、少子高齢化のテーマでは、自治体ごとの人口の推移データに加えて、問題の解決で将来の数字がどう変わるかというゲーミフィケーションの要素を取り入れ、実際の行動に結びつけてもらおうというアイデアが発表された。同じくゲーミフィケーションの手法は途上国の貧困問題でも取り入れられていたが、すでにさまざまなデータが発表されていてネガティブなイメージになりやすいことから、あらためて関心を持ってもらうのが目的だという。
国民の受診行動と医療需要をテーマにしたチームは、最初に記者から、病院の傷病別の手術全国統計がまとまった「DPCデータバンク」というオープンデータを報道につなげたいという案が出された。しかし、いざとりかかってみると内容が専門的すぎてアイデアがまとまらず、最終的にはそのわからないことを知りたいにつなげるよう考え方を変えたそうだ。具体的には、病床別に自治体の平均入院日数を視覚化し、胃ガンであれば茨城県が幸せ、脳卒中は埼玉県が幸せというような、わかりやすい形に変えて報道するというアイデアにまとめている。
チームによっても特色があり、スポーツをテーマにしたチームはプログラマが多かったことから、今年2014年にブラジルで開催されるワールドカップサッカーを、FIFAランクやサポーターの数といった試合以外の幅広いデータで分析し、30秒でわかるように報道しようという意欲的なアイデアが出された。一方で、成果物を作るには、デザイナーやデータ分析などのスキルが足りないなどの問題も浮き彫りになった。主催者側ではそうした状況にも柔軟に対応し、追加で専門家の参加を受付けることも検討するとしている。
報道のプロの参加で、いよいよ本格化しそうなデータジャーナリズムへの取り組み。3月1、2日のハッカソンではどのような成果物が発表されるか。
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