IoT本命Cerevoのモノづくり--ニッチを標的に世界で作る・売る方法 - (page 2)

別井貴志 (編集部) 日沼諭史2014年02月10日 14時21分

Amazonが起こした物流革命

--ニュースサイトやブログ、SNSなどのオンラインメディアが製品の情報を拡散もしくはそのきっかけになるわけですね。

岩佐氏:昔であればそういうニュースに触れたとしても、実際の製品は買えなかったじゃないですか。今はそこに物流革命が起きている。Amazonがすごくわかりやすいんですけど、モノ作りの業界では「フルフィルメント by Amazon(FBA)」が基本でして、Amazonの担当者と一切会うこともなく、オンラインで商品の情報を登録して「発行」ボタンを押すと、バーコードが出てくるんです。

 それを印刷して製造工場で箱に貼って、Amazonの日本の倉庫に送付すると、Amazonのサイトで商品情報が公開されて、後は商品をAmazonが売って代金を回収して僕らの口座にお金を入れる、というところまで全部やってくれる。物流まで任せられるシステムが世界中で立ち上がっているという仕組みです。欧州でも、登山情報を発信しているサイトで商品を知って、英国のAmazonでクリックすれば買える、という環境になったことが大きいのです。

 この情報拡散の仕組みとAmazonの仕組みという2つがあるがゆえに、結果的に、製品を作って、世界のいろんなメディアやブログで取り上げてもらい、特定のニッチなコミュニティの情報を発信している人や会社に紹介してもらえれば、ディストリビューターもついてきます。

--日本限定で考えれば、マーケットプレイスと一口に言ってもAmazonと楽天とYahoo!とでは事情が異なると思います。今おっしゃったような方式は楽天とYahoo!ではできないですよね。

岩佐氏:そう、できないです。そこがAmazonの強いところで、楽天とYahoo!のシステムは、メーカーである自分たちが倉庫を持たないとできないんですね。倉庫に入れた後の、発注から発送までのオペレーションはAmazonの場合は全部任せられるんですけれども、楽天とYahoo!は、メーカーが倉庫を持たなければならない。その先の、お客さんから発注が入って課金代行をして、物を出す手前まではやってくれるけれど、やっぱりここが面倒なので、それも含めてできるAmazonというのは強いですね。

EMSが製造工程を劇的に進化させた

--広報活動や物流についてはやりやすくなったとのことですが、製造となるといまでも小さな企業ではハードルが高そうに思えます。

岩佐氏:小さなベンチャーでも、10億、100億の資金がないとハードウェアを作れないという時代じゃなくなった、というのが僕が2007年くらいからずっと言っていたことです。これについては、仕入れなどの交渉がネットでできるようになったのが意外にインパクトがあります。

 僕らはアリババを使うんですけど、アリババで丸一日業者とチャットしていれば、だいたい主要部品が決まるんですね。というのも、5社同時に部品見積もりができるんです。1画面に5個のチャットウィンドウを開いてコピー&ペーストして一斉に納期などを聞くと、すぐに反応がある。で、一番安いところに頼めます。

 どんどん新しい技術が出てきて、部品の価格が安くなりました。3Dプリンターの出現で試作が安くなり、納期が短くなったのも安価につながっています。オープンソースのソフトウェアやハードウェアもすごく利いていて、複雑な処理が必要なものもオープンソースで8割方できているので、あと2割を追加すればいい。サーバもクラウドを使えばすぐに立ち上げられますし、アプリを作る時もフレームワークのオンパレードじゃないですか。そうすると、商品企画や設計に集中できるのです。

 あと一番利いてるのはEMS(Electronics Manufacturing Service)。設計情報を送れば、製造してきれいに箱詰めされて家電量販店で売れる状態で送り出してくれるという工場が、中国、ベトナム、フィリピンなどでかなり増えました。

--そうした分野ではベトナム、フィリピン、インドネシアはものすごい勢いがあるという話をよく聞きますね。

岩佐氏:そうなんです。ですが、僕らのガジェットはまだまだ中国ですね。家具とか、電気の通っていないモノはインドネシアでもマレーシアでもいいんですよ。でも電気が通っているモノは、結局さまざまな部品の組み合わせになるんです。

 たとえばスマートフォンだと、タッチパネル、液晶ディスプレイ、カメラモジュール、バッテリーなどがあって、無限の組み合わせがあるパズルをやっているイメージになるんですが、それらの部品を実際に作っているのはほとんど中国です。

 僕らもフィリピンでアセンブリまでやったりするところもあるんですけども、カメラやバッテリーをどこから仕入れるかというと、深センや上海など、中国のベイエリアあたりになってしまいます。なので、僕らのようなガジェットは中国からは離れにくい。

 とはいえ、最近僕らは中国から離れ始めている部分もあります。部品は全部中国で仕入れて、まとめてベトナムに送って組み立ててもらう方が、トータルで安くて早いというケースもあります。

 中国の方が高度に訓練された工員は多いんですけど、それでもやっぱりベトナム、フィリピンの安さに魅力がありますね。それに、みなさん前述のような論理でどんどん中国に集中するので、中国側の企業としては、注文の多いところからだけ受けようという気にもなってきます。つまり、1000個以下の小ロットで受けてくれるところが、実は中国では減ってきているような状況なんです。

おすすめは日本人経営の海外工場

--そうすると中国以外への移行を考えざるを得ないですね。

いまや家電業界は「無数のニッチハードウェア」と「1つのものすごくメジャーな汎用ハードウェア」で構成されている、と岩佐琢磨氏 いまや家電業界は「無数のニッチハードウェア」と「1つのものすごくメジャーな汎用ハードウェア」で構成されている、と岩佐琢磨氏

岩佐氏:そうなんです。ですが、僕らのガジェットはまだまだ中国ですね。家具とか、電気の通っていないモノはインドネシアでもマレーシアでもいいんですよ。でも電気が通っているモノは、結局さまざまな部品の組み合わせになるんです。EMSっていうのは、一番上がAppleやソニーが発注するような大規模な工場から、下の方は3人で始めましたというような町工場みたいなところまでいろいろあるわけです。当たり前ですが、上から下に行くにしたがって工場としてのレベルは下がっていきます。1000個という小ロットを受けてくれる工場のレベルがだんだん下がってきているのですが、このまま下がり続けると、いつかはフィリピンやベトナムの工場の1000個受けてくれるレベルとクロスするんですね。

 現状僕らの中ではすでにクロスしてしまったものと感じていて、中国で1000個受けてくれるところよりも、フィリピンで1000個受けてくれるところの方が、同じ値段でもはるかに品質の高いレベルになっている。輸送費を入れたらどのくらいのプライスレンジになるかを検討した結果、それでも中国以外の方が安い、というところがいくつか出始めていますね。

 もしIoTをやりたいと考えている人がいるなら、僕らにぜひご相談いただきたいですね。“いい工場”の情報が、IoTをやっているスタートアップの人たちの間で共有されていなくて、どこに当たったらいいのかわからなかったりするので、そういう情報は今後うまく共有できるといいなと思っています。最近僕らのおすすめは、日本人が経営しているフィリピン、ベトナム、中国の工場ですね。

 というわけで、やっぱり「作れるようになった」のと、「売れるようになった」という2つが、すごく大きい。小・中ロットで作って、広告費、宣伝費をかけなくてもニッチな層にズバッと刺さる製品であれば、世界のコミュニティの中でバーティカルに売れる。こんなのは昔にはなかったビジネスモデルです。

ITと無縁な市場を狙う

--それを2007年頃からすでに実践されていたのはすごいですね。

岩佐氏:やっと、説明しても理解していただけるくらいになってきたなあという感じですね(笑)。

--作れて売れる環境ができているということは、やはり製品の企画が一番肝になりますね。ニッチ、マニアックだけれど全世界に刺さるもの、というと難しそうです。どのように製品企画するのですか。

岩佐氏:誰かとかぶるとつらいんですよ、当たり前なんですけど(笑)。たとえば眼鏡に何かを装着して情報を見られるようにした製品を作ろう、と思うと、やはりできるだけ幅広い人にマッチするものを、と考えてしまう。でも、グローバル市場のそういう大きいところはビッグ3みたいなメーカーが狙っていて、Google Glassみたいなのがバーンと出ちゃう。たぶん同じようなものを考えていた人たちはいっぱいいたと思うんです。ベンチャー同士であればともかく、大手になぎ払われるような感じになるのはやっぱりつらいですね。

 そういう意味で、適度に市場範囲の狭いところからスタートした方がいいというのが1つあります。もう1つは、僕らCerevoが取り組んでいるやり方でもあるんですが、グローバル市場の大きいところを狙いながら、その軸に加えて、コネクテッドとか、電気とか、そういうものとは無縁な人たちのところを狙うというものなんです。

 たとえば「“コネクテッド椅子”を作ろう」という方向に行くと、たしかに椅子を作っている企業は世界中に何万社もあると思うんですけど、椅子メーカーの人と「Bluetooth 4.0 Low Energyの新しいプロファイルが出てね……」とか、「どこそこのチップがよくて……」のような話が通じるわけがないでしょう。

 そこにいきなり椅子を作ったことのない僕らが乗り込んで、アーロンチェアを超えるような快適な椅子をゼロから発明する能力はないかもしれないですが、オフィスの会議室に置いてあるようなそれほど高価ではない椅子でも、スマートフォンで操作できるとか、ネットから情報取得したタイミングを振動で通知するとか、そういう機能があればおもしろそうじゃないですか。椅子って誰もが使うものですから、売れる可能性があります。

 そういうのが世に出て椅子メーカーが「これはマズい」と、「これからはコネクテッド椅子だ!」と思っても、追いつくのはすごく難しいんじゃないかと思います。従来のメーカー、家電メーカーにないエリアで攻めるかというのが、僕らの新しいスタイルでもあるんです。

中小企業のアイデアが大企業を動かす

--たしかにIoTというのは、ネットワークや電気と無縁なものがつながるからおもしろいんですよね。ただし、おもしろいモノが売れるのかというと、そこは紙一重な気もします。

岩佐氏:登山用だけだとパイが少ないから、みんな幅を広げることを考えますよね。登山にも使えるけど、どうせ防水機能をつけなければいけないんだったらスイミングにも使えるように、と。そういうことをやり出すとだんだんぶれていって、そうしてできた汎用的なモノは、けして登山コミュニティの全部に取り上げられることはたぶんないんですよ。逆に登山コミュニティに特化しちゃうと、それらのクラスターで取り上げられる代わりに、スイミングクラスターには取り上げられなくなる、そういう割り切りができるかという話だと思います。

--大きい企業になればなるほど、そういう選択はできなくなりそうですね。

岩佐氏:そうなんですよ。今や家電業界の流れが「無数のニッチハードウェア+1個のものすごくメジャーな汎用ハードウェア」、みたいな形になっている。それもあって大手のメーカーは厳しいんだろうなあと僕らは感じています。

 じゃあ、メジャーな製品を持っているメーカー以外の大手はつぶれるしかないのか、というと、僕らとしてはそう言うつもりはまったくなくて、この時代に合った組織体制が決まれば問題ないと思うんです。うまくそこに適合できたところはまた伸びるでしょう。

--IoTというのは、ITが当たり前になって、今まで電気を通さなかったものも電気が通ることになり、ネットワークにつながり、そういうものがさらに増えていき、ビジネスやライフスタイルがどんどん変化していくという時代なんだと思います。見方を変えれば、IT業界も、IT業界の中で閉じられていたことが、ようやく本腰を入れて農業や医療などに進出し始めていますね。

岩佐氏:たぶんPCやスマートフォンがなくても、というのがキーですね。気がつくと電気が通っていた、気がつくとネットワークにつながっていた、みたいな。その結果を見るためだけにIoTを使うという方向になりつつありますね。Bluetooth入りの聴診器とかホットな気がしますけど。

--もっともっと、そうした動きが広がってほしいです。

岩佐氏:当たり前になってコモディティ化されると、大手のメーカーが作らないものが大半になってくるんですよね。家電の世界だと、オーブントースターなどは大手メーカーは直接作らず、どこかからOEMなどで買ってきて売るということをしていたりする。一般化された製品は大手メーカーが自社で設計、開発までしているかというと、もうほとんどやっていない。そういうものにWi-Fiを入れたらこんなにおもしろいんじゃないかっていうアプローチをしてくる小さなメーカーが現れたりすると、大手メーカーがこぞって慌て始める。業界が動く感じが出てきますね。

--一時期ネット家電が話題になった時に、冷蔵庫を始めとして白物家電全部にネットワーク機能を付ける動きがあって、でも当時はネットにつながっている意味があるのか……と感じるところもありましたが。

岩佐氏:でも、ちょっとしたこと、たとえばやかんでお湯を沸かしていて、ピーッと音が鳴った時に、いや今はちょっと手が離せない、みたいなことってあるじゃないですか。そんな時に離れたところからサッと火を消せたら便利ですよね。

 じゃあ、みんなガスコンロを作るかというと、それはもう儲からないから従来のメーカーに任せて、他のメーカーは高級機種のIHだけやる、というのが現状なわけです。まだまだいくらでもアイデアはあると思うんですけどね……。ガスコンロでピーッとなっているのをスマートフォンから止める仕組みなんて、僕らだったら4カ月あればできますよ(笑)。そう考えると、僕らの活躍の場はまだまだ広がっているのです。

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