「いくつになっても健康な体でいたい」――頭ではそう考えていても、忙しい生活の中で、いつも決まった時間に運動をしたり、バランスのとれた食事ができないという人も多いはず。近年はそんな健康への悩みを解消するために、各社がさまざまなスマートフォンアプリや、ウェアラブル端末を発表し、健康事業に参入している。
国内最大の通信キャリアであるNTTドコモも、この健康事業に本腰を入れている企業だ。同社は2015年度までの中期戦略として、ECや金融など携帯電話とシナジー効果の高い領域でのビジネスを積極的に進めているが、その中でも“健康”の領域は毎日持ち歩くスマートフォンと相性が良く、今後成長が見込める市場として注目している。
同社は2012年7月に、体組成計や血圧計を販売するオムロンヘルスケアと合弁会社ドコモ・ヘルスケアを設立。2013年4月にユーザーの健康をトータルで支援するポータルサイト「WM(わたしムーヴ)」を開設した。スマートフォンとオムロンヘルスケアのさまざまな健康機器を連携することで、ユーザーの血圧や体重、運動記録、服薬記録、健康診断結果などの“からだデータ”をクラウド上に蓄積、一元管理できるサービスだ。キャリアフリーであるため、KDDIやソフトバンクモバイルのユーザーでも利用できる。
ドコモでは通販サイトのオークローンマーケティングや、有機野菜の宅配サービスを提供するらでぃっしゅぼーや、料理教室のABCクッキングスタジオ、医療情報サービスのアルトマークなど、食事や医療、運動などの事業を手がける企業と幅広く提携または子会社化をしている。わたしムーヴに蓄積したユーザーのデータと、これらのアライアンス企業のサービスや商品を連携させることで、ユーザーごとに最適な健康サービスや商品を提供していきたい考えだ。
この取り組みの第1弾として、同年6月に女性向けの健康支援サービス「カラダのキモチ」を公開した。生理によって変化する心と体の状態や天気、時間などに合わせて、食やアロマなど10種類のカテゴリから、生活に関するアドバイスを表示する。オムロンヘルスケア製の婦人用電子体温計をセットで販売し、ユーザーは検温後、婦人用電子体温計にスマートフォンをかざすだけで、測定データを転送してグラフで確認できる。記録した基礎体温などのデータから体の不調が検知された場合には、アプリを通じて病院での受診を促し、ユーザーが実際に受診すると見舞金を支払う仕組みも採用した。
これに加えて、12月からはリストバンド型活動量計「ムーヴバンド」で記録した歩数や睡眠時間、入力した食事時間のデータをもとに、おすすめの24時間の過ごし方を提案する「からだの時計」の提供を開始した。エクササイズ動画や音楽など体の悩みを解消するためのヘルスケアコンテンツを豊富に揃えたほか、医師や専門家に24時間365日無料で相談できる機能も備えた。ムーヴバンドは当初、留め具の噛み合わせが弱く、利用する際に外れやすい不具合が確認されたことから、一時販売を延期したが、品質を強化し1月29日に正式に発売した。
わたしムーヴを立ち上げてからそろそろ1年が経とうとしているが、その実績はどうだろうか。同社によれば「カラダのキモチ」は約半年で27万ユーザーを超えており、利用者は増加傾向にあるという。とはいえ、ドコモ全体の顧客数から言えばまだまだ少ない数字といえるが、ドコモ スマートライフビジネス本部 ライフサポートビジネス推進部 ヘルスケア事業推進担当部長の安部成司氏は、想定内の結果だと話す。
「この2~3年で健康の領域がぐっと立ち上がるかはまだ分からない。しかし、10~20年でみれば必ず大きな市場になる。将来的にはドコモの基幹事業になる可能性があるし、そうなるよう育てていきたい」(安部氏)。現状はまだスマートフォンを使った健康支援サービスの認知を拡大させるフェーズということだ。
しかし、健康領域にはライバルも多い。2013年にはソフトバンクモバイルがリストバンド型活動量計Fitbit Flexをセットにした健康サービス「ソフトバンクヘルスケア」を開始。またナイキなどのスポーツメーカーもリストバンド型の活動量計を次々と発売しており、各社ともに差別化が難しくなってきている。この状況については「我々も手探りであることは事実。ドコモだからこそできるようなものも模索したいが、まずはできることからやっていくと、どうしてもリストバンドなど似てきてしまうところはある」(安部氏)と説明。ユーザーの要望を反映しながら、ドコモ独自の健康支援サービスへと成長させていきたいと語る。
またドコモならではの強みが、医療に関するサービスが充実していることだという。同社では産科の医療機関と連携して妊婦に必要な機能や知識を提供するアプリ「妊婦手帳」や、処方箋の記録、飲み忘れ防止アラーム機能などを備えたアプリ「アインお薬手帳」を提供。さらに、2009年から東大病院22世紀医療センター内に社会連携講座を設置して、モバイル機器を活用した医療情報環境の構築に向けた共同研究を進めてきた。今後より多くの企業が健康領域に参入した場合、医療機関と連携したドコモのこうした取り組みが、他社との差別化要素になる可能性は高い。
同社では引き続き、わたしムーヴのコンテンツを拡充していきながら、健康支援サービスのユーザー数を増やしていきたい考えだ。また将来的には他社のウェアラブル端末や健康機器とも連携することで、ユーザーがサービスと端末を自由に選べるようにすることが理想だという。ただし、当然自身の生体データを企業に預けることに抵抗を持つ人もいるだろう。この点については「NTTグループとしてこれまでもさまざまな顧客情報を管理してきたノウハウがある」(安部氏)と語り、通信キャリアとしての安心感をアピールすることで、利用者に理解を求めたいとした。
CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)
「程よく明るい」照明がオフィスにもたらす
業務生産性の向上への意外な効果
ものづくりの革新と社会課題の解決
ニコンが描く「人と機械が共創する社会」
ZDNET×マイクロソフトが贈る特別企画
今、必要な戦略的セキュリティとガバナンス