俗に“萌えキャラ”と呼ばれるかわいい女の子をコンテンツの主軸として展開する例はこれまでに数多くあり、脚光を浴びたものもあれば人知れず終わっていくものも決して少なくない。
サウンドホッパーが展開する「スマイル☆シューター」は、2次元の駆け出しコスプレアイドルユニットとして、2010年からプロジェクトをスタート。キャラクターデザインには、数多くの漫画作品やイラストを手がける人気作家の藤真拓哉氏を起用。立ち上げの段階からアイドルには声優を付け、楽曲を収録したCDも制作した。
「もともとはキャラクターを主軸にしてコンテンツを育てていくように展開することを目標として、立ち上げられたプロジェクト。最終的にはアニメ化までできるようになればとスタートしました」と語るのは、現在のプロジェクトのプロデューサーを勤める大野誉政氏。もっとも大野氏は立ち上げに関わっておらず、前任者から引き継いだ形となっている。
立ち上げ以降、キャラクター雑誌での連載、PCゲームのリリースやカードゲームとのコラボなどを展開していく一方で、強く目立った活動がなく、知る人ぞ知るという状態からあまり抜け出すことができなかった。また当初は3人でスタートしたが、ソーシャルゲームでの展開にあわせてさらにキャラクターを増やしていった。そして2011年の段階で前任者が抜けてしまい、一旦、プロジェクトが宙に浮いた形となった。
もともと大野氏は岡山県在住で、ウェブデザイナーやコンテンツ制作の仕事を担当。このプロジェクトへの関わりもほとんどなく、キャラクターコンテンツ関連のビジネスも手がけたことはなかったという。「そもそもウェブデザイナーの前はトラックに乗ってパイプを運んだりセメントを売ったりしてまいした(笑)。東京もほとんど行ったことがなく、初めて行ったコミックマーケットは人の多さと、東京ビッグサイトの建物そのものに驚くぐらいでした」(大野氏)。
いわゆる“萌え”ジャンルに造詣の深い担当者が不在で後任者を決め兼ねる空白の時間もあったが、その後、大野氏が引き受ける形で継続。住まいも東京に構えた。その理由について関係者の熱意と、自身の負けず嫌いなところがあったからと振り返る。「いろいろ話を聞いていくなかで、藤真先生もキャストの方も熱意がすごく高くて。みなさんの熱意に絆されて、自身の力でこのコンテンツをどうしても成功させたいと思うようになり、担当を買って出たんです」(大野氏)。
担当者になったと言っても、ちゃんとした引き継ぎがあったわけでもなく、物と形だけがあるという状態。そんななかでもまずは状況の整理に動いたという。「当初のコンセプトは、ユーザーに人形のように、好きに着せ替えて楽しんでもらうことにあって、だからこそコスプレアイドルユニットという打ち出し方をしていたんだと思うんです。でもそれでユーザーの方が感情移入できるかと言われればそうではないだろうし、キャラクターの性格も見えにくかったので、まずは、そこに深みを持たせようとしました」(大野氏)。そこで、ボイスが付いていないままだった新キャラにも声優を付けドラマCDや新キャラ用の持ち歌を制作し、コミック連載も展開した。
「さすがに最初の1年は、とにかくやれることをやるという感じで、先のロードマップを考えている余裕はなかったです」(大野氏)というなかでも、キャストを招いたニコニコ生放送を使ったトーク番組やトークライブイベントを不定期に実施。現在は文化放送が運営するアニメ系専門のネットラジオ「超!A&G+」にて、ウェブラジオ番組の配信を行っている。大野氏は、自身が地方在住でなかなかイベント等に行けなかった経験から、できるだけ配信番組を実施することにこだわったという。「今の時代はネットのインフラが整っていて、地方の方でも多様なコンテンツに触れることができて、育てていける環境があります。リアルイベントはどうしても都内中心ですけど、地方の方に向けても発信していきたいです」(大野氏)。
状況も少しずつ好転しはじめてきた。2013年6月には3周年記念として、初期のアイドルたちのキャスト陣3人が集まって初めてミニライブとして歌を披露するステージイベントを開催。さらに10月には、ファン投票で選抜された2人によるユニット「KISS:A」(キッサ)のCDを制作し、トーク&ライブイベントも開催。入場券付きのCDは100枚強を用意し、発売から数日で売り切れた。「それまでは100人を超えたことがなかったんです。周囲の人たちも『まだやっていたの?』ぐらいに思われていましたが、少しずつ気にかけたり足を運んでくれるようになりましたね」(大野氏)。
大野氏はアイドルをテーマにするコンテンツは難しさもあるが、同時に継続性の高さと成長している実感が味わえると語る。「いわゆる剣と魔法のファンタジー世界のコンテンツであれば、制作側から提示する、いわば押しつけでもいい部分があると思いますが、アイドルはお客さんがいて返ってくるものがあるということまでがセットとなっている世界なので、そこも含めて考えないと決してうまくいかないものだと、ここ最近強く感じています。一方でキャラクターたちも、少しずつキャストに引っ張られて性格付けも豊かになったり、制作側もファンも応援したい気持ちがわきやすくて、達成感が味わいやすいところがあると思います」(大野氏)。
まだまだ知る人ぞ知る状態ではあるものの、2013年末のコミックマーケット85に出展。3月に新曲「Welcome Smile」の発売を発表。アニメーションPVも制作した。そして今後も継続的な展開を見据える。「ある有名なゲームやアニメのプロデューサーの方にもお話を聞きましたけど、今の売れているコンテンツを作ったり動かしているプロデューサーというのは、外側からはわからないくらい、いろいろなことを考えていることを痛感しました」と語る。
「まだまだ未熟なところも多いですし、3年やってまだここまでという厳しい現状もありますけど、一緒に成長していくように息長くやっていきたい。ほかのものと同じことをやっても勝負はできないですし、特に最近はコンテンツの消費やサイクルが激しい時代だからこそ、広がり方は少しずつでもみなさんに愛されるアイドルたちにしていきたいです。アイドルたちはもちろん、プロデューサーの僕と後援のスタッフ、そしてファンのみなさんがともに成長していくコンテンツだと思っています。これからもまだまだ進化と成長を続けていきます」(大野氏)。
CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)
ものづくりの革新と社会課題の解決
ニコンが描く「人と機械が共創する社会」
ZDNET×マイクロソフトが贈る特別企画
今、必要な戦略的セキュリティとガバナンス