Squareを創業したJack Dorsey氏に話を聞くと、決済システム以前の話として「物事をテクノロジによってシンプルにすることが大切だ」と語る。高価な設備や複雑な設定を要するソフトウェアがテクノロジではない。
このことは、ポケットに入るテクノロジであるモバイルがより顕著にしており、Dorsey氏も「自由さを拡げることがモバイルの本質だ」と指摘する。そのためには、より簡単に、理解しやすく、使いやすいことが求められ、それはお店の人にとっても、お客にとっても同様なのだ。
Squareの新オフィスの中にはカフェがある。Dorsey氏がサンフランシスコの焙煎所Sightglassに投資していることは知られているが、まさにSightglassの豆を使った本格的なカフェだ。バリスタを2名雇い、おいしいカプチーノを楽しむことができる。
この社内のカフェはSquareのアプリやデバイスのプロトタイプを実際に試す貴重なテストの場でもある。社員が店舗側になったり、顧客になったりしながら、双方の体験を試し、製品を完成させるのだ。Square Walletの例を見ても、テクノロジと人間同士の会話をハイブリッドに活用してサービスを実現している。店頭での運用も含めた「体験」のデザインが重要であることをよく表している。
Squareでの体験のベンチマークの1つにコーヒーショップがあった。後にStarbucksと契約し、Squareでの決済は全米に一気に広がるきっかけにもなったが、Squareによってビジネスが大きく変わった一例は、小規模なカフェだった。小さなカフェにSquareを導入することで、顧客は気軽にクレジットカードを使えるようになった。カフェはカード決済手数料を支払わなければならないが、そのかわり、ビジネス分析が可能になったという。
Dorsey氏の言葉を借りれば、「カフェにGoogle Analyticsを導入するようなもの」ということだ。どの時間帯に顧客が多いのか、何が顧客にとって人気なのか、というそれまで感覚知だったビジネスに関するデータが正確に分析できるようになる。その結果を、顧客サービスの向上に還元しながら、顧客との良い関係を作れるように取り組むことができる。
Squareは、モバイルによるクレジット決済を普及させようとしていただけでなく、店舗や顧客の購買体験そのものを変革しようとしている。それは、自然に会話が生み出したり、従来のポイントカードのシステムとは違うより本質的なサービスや商品価値を提供し、お店へのロイヤリティを高めることだ。
Dorsey氏の「モバイル思考」は、体験によって考え出され、体験によって洗練される。それはSquareのオフィスの中でこれから何度も行われていく作業になるだろう。仕組みは高度化するかもしれないが、より簡単に使えることを保つよう、テストを積み重ねていく。テクノロジを導入することがゴールではなく、それによって体験が変わり、新たな価値が生み出され、さらに定着することをが重要なのだ。
「ミッションはオフラインでもオンラインでも、モバイルでも快適に買い物ができること」と語るDorsey氏。
最近始めたSquare Mallは、簡単に言えばSquareを利用しているショップがそのままECサイトを開設できる仕組みだ。店頭での決済のためSquareに商品写真や情報を入力しているが、商品名と価格がオンラインに掲載されれば、そのまま店になり、Squareが決済を受け持ってくれれば良い。この展開は目から鱗だった。
また、Square Walletによって、カードではなく顧客の「顔」を見ることになるという。位置情報と連動しており、例えば「ジャックがお店にやってきた」「彼はカプチーノをいつもオーダーしてくれる」といったことが手元のレジのiPadで分かり、その情報をもとに接客をすることで、顧客から自然なロイヤリティを獲得できる。
支払いの体験が共通化されれば、店舗も顧客も、商品やサービスによりフォーカスし、世界中で良い店が選ばれるようになる。Dorsey氏は消費者のテクノロジの活用と良い店を見つけ出そうとすることについて、「トレンドではなくムーブメントだ」と断言する。同時に、そうした顧客と良い関係を築こうとする店舗側のムーブメントでもあると言う。
Squareのアプローチには、現在におけるモバイルライフの答えが詰まっているように感じる。それは、デスクトップからスマートフォンやタブレットなどのデバイスへとコンピューティングが進化し、ウェアラブルへと移行する気運がうかがえるメインストリームの変化にも呼応していると言えるだろう。
今日も、おいしいコーヒーを楽しみながら、体験を元にしたモバイルデザインを紡ぎ出している。
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