富田さんたちが立ち上げた「青空文庫」は、さまざまな障害があって発展を阻害されてきた日本の電子書籍(出版)が、本格的に離陸するための大きな礎石となった。
青空文庫が発展の過程で生み出した「注記」、それにしたがって作成された膨大なテキスト、さらにそこから変換されたHTMLファイルは、事実上の交換フォーマットとして、多くのアプリやサービスに使われた。「注記」以外の様々な仕様やノウハウが公開されたことで、青空文庫はオープンな「プラットフォーム」となった。
「注記」などの仕様は、シンポジウムの席上で決められたのではなく、常に実装と並行して、実装の必要に応じて決められた。そのために、非常に実用性の高いものとなった。ニーズが先に見えていたから、「作ったが、使われない」ということにはならなかった。
国の支援がないために、資金や設備では苦労されたようだが、その分、見た目だけの「成果」を生み出す必要もなく、無意味な「報告書」「仕様書」を作る必要もなかった。
これらのことから、筆者を含め、日本の電子書籍事業関係者は、どんな示唆を受け取るべきだろうか。僭越ながら最後にまとめてみたい。
このような課題をすべてクリアした事業者が現れたら、きっとその事業者は、国内だけでなく、国際的にも評価されるだろう。そのときこそ外資のそれとは違う「プラットフォーム」が立ち上がることになるに違いない。
「青空文庫」の「青」には、「青は藍より出でて藍より青し」、つまり電子書籍が紙の本を超えていく、紙の本にできなかった世界を拓いていくという思いが込められているという。
電子書籍のムーブメントは、これまでのところ米国中心に動いているが、そこから生まれたアイデアや機能を、日本ならではのセンスで洗練させれば、きっとそれ以上のサービスを生み出すことができるだろう。これまでもそうしてきたのだから、これからそうできないいわれはない。
紙を超え、国境も超え、既存の概念すら超えた「藍より青い」電子書籍の未来。富田さんから私たちが受け継ぐべきなのは、このビジョンであり、使命感なのだろう。
富田さん、ありがとうございました。
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